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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

犬の家族

 妻と子供が失踪して一週間が経った。

仕事も手につかず、何をしても思考に靄がかかっているようだ。

だが、休むわけにもいかない。

今日も重い体に鞭を打って働いてきた。

家で待っているペットの3頭の犬のためにも働かないといけない。

二階に上がり、犬たちの部屋に入る。

「ただいま。」

父犬はしきりに吠え、檻に何度も噛みついている。

母犬と子犬は、奥でうずくまっている。

「今日も良い子にしてたか?」

ドッグフードの替えを皿に盛ろうとするが、朝入れたときからほとんど減っていなかった。

体調が悪いのだろうか。まあしばらくすれば治るだろう。

 次の日の朝、父犬の吠える声に起こされた。

「なんだよ、全く…」

部屋に向かうと、母犬が傷だらけになっていた。手足からは酷く出血し、全身に痛々しい傷跡がある。

子犬は大きな声で鳴いていた。父犬は荒い息で肩を震わせている。

「おいおい、どうしたんだよこれ...」

その日は会社を休み、父犬が落ち着くのを待ってから檻に包帯を投げ入れた。

夜、警察から連絡があった。二人はまだ見つかっていないらしい。行き先に心当たりはないかと聞かれたが、全く無かったので正直にそう言った。妻の実家などは当然調べたし、警察も調査済みだろう。

思えば、最近妻とは家庭内別居のような状況だった。仕事にかまけ、ほとんど会うこともなかった。

口を利いたのも1か月以上前であった気がする。生まれたばかりの子供の世話も任せきりで、何もしていなかった。布団でまどろみながらそんなことを考えていると、喪失感に潰されそうだった。

 次の日の朝は静かだった。犬たちはじっとしてほとんど動かず、うなだれていた。

妻と子供のことで頭がいっぱいで、出勤するころには犬のことはほとんど考えていなかった。

仕事から帰ると、父犬が母犬に襲い掛かっていた。

「ああもう、またかよ…」

前にもこんなことがあった気がする。犬のすることだ。

去勢も面倒だしいちいちかまっていられない。

餌を足して部屋を後にしようとしたとき、それに気付いた。

子犬が死んでいた。仰向けで四肢を投げ出し、生気を失っていた。

すぐさま檻に入り、亡骸を抱えた。父犬とよく似た顔が、瘦せこけてしまっていた。

父犬と母犬は、私が檻に入ったことにも気づかない。いやそもそも、子犬が死んだことにすら気づいていない。私は、檻の鍵を閉めて部屋を後にした。子犬は庭に埋めてやった。

あの二匹の獣に対して異常な不快感を感じている自分がいた。妻と子供がいないストレスか、それとも妻がいなくなって抑えつけられていた欲求が動物の交尾によって刺激されたか。

ベッドに身を預けるも、自分の心臓の鼓動で苦しさは増すばかりだった。

二階から、不快な鳴き声が聞こえる。静かにしろ。うるさい。耳をふさいでも聞こえてくる。

 気付くと私は、ゴルフクラブを持って檻の前にいた。

二匹は気付いていない。始めからそうだ。私なんて餌をくれる存在でしかない。

私は檻に入ると、ゴルフクラブを振り上げ、間抜けに腰を動かすオス犬の頭に振り下ろした。

血を流しながら、オス犬はだらりとその場に倒れて動かなくなった。

もう一度ゴルフクラブを高く持ち上げる。

メス犬はようやく私を見た。そして口を開く。

「あの子のそばに埋めて頂戴。」

私はゴルフクラブを振り下ろした。

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