芸能活動とアウトドア活動の両立
昨日のロッククライミングですっかり疲れていた若宮朱莉は昼過ぎまで眠っていた。そこへドンドンとドアを叩く音が聞こえた。寝起きの姿でドアを開くと黒縁メガネをかけてスーツ姿のマネージャーである井野口晃が立っていた。若宮朱莉は眠そうな声で「マネージャー、着替えますので少しお待ちください」と言って、一旦、ドアを閉めた。
ところで、水城涼真にも電話がかかってきていてた。電話に出るとアウトドアウォーカーの雑誌編集部の片瀬彩羽からだった。
水城涼真「片瀬さん、お疲れ様です」
片瀬彩羽「水城さん、お久しぶりというわではありませんが、夏に向けたトレッキング情報の記事をお願いすることは可能でしょうか?」
水城涼真「なるほど。これから気温が上がりますから、沢筋がのコースをメインとしたコースがええでしょうか?」
片瀬彩羽「そうですね。お願いしたいのは関東、関西、それぞれ2つずつの4コースをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
水城涼真「もちろん日帰りのコースですよね?難易度は初級のみでしょうか?」
片瀬彩羽「できれば中級から上級者コースを紹介していただきたいと思っています」
水城涼真「なるほど、思い当たるのコースであれば、関西は一か所だけ取材場所があるんですが、関東は二か所ほど去年に行った記事は書けますが、ヤマビルが多いという問題があります」
片瀬彩羽「ヤマビルは仕方ありませんので問題ありませんよ」
水城涼真「では関西は、多紀アルプスの筱見四十八滝という珍しい場所の紹介、関西屈指の難コースと呼ばれる、双門ルートを取材してコース紹介します。関東は去年いった、ユーシン渓谷と川苔山でよろしいでしょうか?」
片瀬彩羽「さすが水城さん、ユーシン渓谷は有名ですが他は全く知らないところなので、その4つでお願いします。一か所くらいは有名な場所を入れておくのがいいでしょう」
水城涼真「わかりました。それで執筆していきますね」
片瀬彩羽「では、詳しくはメールにしてご連絡させていただきますが、1コースにつき4ページになりますのでよろしくお願い致します」
水城涼真「了解しました」
片瀬彩羽「あと、お願いしていた登山道具に関する記事はいかがでしょうか?」
水城涼真「その記事に関してはもうすぐ終わりますので、今週中には初稿をお渡しします」
片瀬彩羽「では、そちらも含めてお待ちしております。詳しくはメールでご連絡いたしますのでよろしくお願いします」
これで電話が終わった。4コースの紹介といっても水城涼真にとっては写真の選択からレイアウト、文章校正など大変な仕事になるのだ。しかし、これこそが今の本業なので、断るわけにもいかない。この他の出版社からの仕事も来ているが、基本はこのアウトドアウォーカーでの仕事が基本となっている。
一方、若宮朱莉のほうであるが、着替えを終えるとドアを開いた。
若宮朱莉「マネージャー、今日はどういった御用でしょうか?」
井野口晃「朱莉ちゃん、このドラマに出てほしいんだけどどうかな?」
若宮朱莉「わたしが主役で、しかも撮影は東京メインじゃないですか?こんな仕事を引き受けたら、しばらく東京暮らしになりますよね?」
井野口晃「でも、この役を演じれるのは朱莉ちゃんしかいないんだよ」
若宮朱莉「申し訳ありませんがお断りします。この仕事は他の人にお願いしてください」
井野口晃「そう言わずになんとかお願いできない?」
若宮朱莉「先日、事務所と今後の方針について話し合うというお約束でしたよね?」
井野口晃「そうなんだけど、またとないチャンスなんだよ」
若宮朱莉「わたし、いつでも芸能界を引退する覚悟はありますので、そのことは忘れないでください」
井野口晃「わかった。だったらこっちの仕事だったらどうかな?これだと大阪のテレビ局だし、早起きしないといけないけど土日は休みだからどうかな?」
その大阪の仕事というのは毎朝4時に起きて2時間の情報番組だった。ニュースからスポーツ、芸能関係など最新情報を伝える番組であった。そのレギュラー出演者になるという仕事だった。
若宮朱莉「このお仕事であれば構いませんが、こんな仕事をしてしまうと他の仕事ができなくなるかもしれませんよ」
井野口晃「この番組なら、東京との情報番組と連携しているし、慣れるまでしばらくはこの番組のレギュラーとして出演してもらうことができればいいんだよ」
若宮朱莉「わかりました。この番組のレギュラー出演に関しては引き受けます」
井野口晃「ありがとう!そうであれば、私もしばらく大阪に暮らして朱莉ちゃんのマネージャー活動をするので、こっちの方向で事務所と話をするよ」
若宮朱莉「マネージャー、わたしが無理を言って振り回してしまっているのは申し訳ないと思っています。ではお願いします」
水城涼真と若宮朱莉の今後の仕事についてそれぞれ決まった。特に若宮朱莉は平日は毎朝4時に起きる生活をしなければらならない。ところが、アウトドア活動を行っていくには早起きは必須条件なのでちょうどよかったのかもしれない。
ところで水城涼真は関西屈指の難コースと呼ばれている双門ルートへの取材へ行かないといけない。連続になるが、次の土曜日に双門ルートに行けそうなメンバーを集めることにした。有本淳史は仕事があって行けないということだったが、樫田祐は予定が空いてるとのことだったので、二人で行こうということになった。ところが、樫田祐は「若宮朱莉さんは連れていかなくてもええんですか?」と質問されたので、水城涼真は「連続で行ってるから、疲れてるんちゃうかな」と言った。樫田祐は「一応、聞いてみたほうがいいんとちゃいます?」と言った。水城涼真は「わかった」といって電話を切った。
その後、水城涼真は103号室へ向かってドアをノックした。「は~い」という声が聞こえてドアが開くと白いTシャツに水色の短パン姿の若宮朱莉が名なアイドルであっても、部屋ではラフな恰好でいるんだと思った。
若宮朱莉「涼真さん、珍しいですね。どうかしましたか?」
水城涼真「連続になるけど、今度の土曜日、俺の仕事もかねて関西屈指の難コースといわれている双門ルートに行こうと思ってるんやけど、朱莉ちゃんはどうする?」
若宮朱莉「関西屈指の難コースですか?まともなコースではなさそうですが、だからこそ是非ご一緒させていただきませんか?」
水城涼真「朱莉ちゃん、毎週連続になるけど、体力的に大丈夫なん?」
若宮朱莉「はい!わたし、関西でレギュラー番組のお仕事をすることになったんです。体力的には大丈夫です」
水城涼真「朝、3時30分には駐車場に集合になるけど大丈夫?」
若宮朱莉「朝のレギュラー番組で毎朝4時には起床しないといけないので、朝早いのは大丈夫ですよ」
水城涼真「わかった。山行工程時間は10時間以上だから、かなりしんどいと思うけど、誰も足を踏み入れたことのない非日常的な場所にもいくつもりやから、楽しみにしといて!」
若宮朱莉「それは楽しみです!ちゃんと体調管理をして整えておくようにします」
水城涼真「ヘルメット、ハーネスとか基本的な岩登りの装備は持ってくるようにしといてな。あと、以前、一緒に行った樫田祐君も一緒にくるのでよろしく」
若宮朱莉「わかりました。次の土曜日はとてもたのしみですが、今回もクライミングは行うのでしょうか?」
水城涼真「もしもの場合はロープを出すけど、基本はそこまで必要ないルートやから、持っていくだけでええだけなんよ。ただ山行工程が長いってだけくらいかな」
若宮朱莉「関西屈指の難コースということは大峯山脈でしょうか?」
水城涼真「朱莉ちゃん、よく知ってるね。大峯山脈の沢筋だよ」
若宮朱莉「わたし、大峯山脈は憧れなんです。かなり秘境の地だと言われてると聞いたことがあります」
水城涼真「俺が行くのは大峯山脈のバリエーションルートがほとんどやで。北アルプスも行くけどな」
若宮朱莉「とても楽しみです!それではお願いします」
関西屈指の難コースといっても、水城涼真にとって大したルートではないが、予定している双門ルートは普通の人が行くルートとは少し違っていて、いわゆるロングコースになっている。はじめての大峯山脈なので若宮朱莉はわくわくしていたが、果たして体力的に問題はないのだろうか。