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【実話怪談】本当にあった人間消失の怪

作者: 火乃玉

2023年8月27日 早朝に起きた出来事。実話です。

 私は運動不足解消のため、毎日ウォーキングを行っている。

 季節が夏に移ってからは暑さを避け、まだ日の出前の薄暗い時間に歩くようになった。念のための熱中症予防に500mlのペットボトルを片手に。ラフな格好で1時間の道中を進んでいくことになる。


 ウォーキング、もしくはランニングの最大の敵は退屈ではないかと思う。ウォーキングを敬遠されている方の中には、この退屈を嫌う方も多いのではないだろうか。

 一方、私はというとそれほど苦にはしていない。というのも、歩いている最中は、次の小説は何を書こうかとか、話の展開はどうしようとか、要するに「小説家になろう」へ投稿する作品のことを考えているからである。だから、いつも妄想しながらぼーっと歩いている内に家につく。そのため歩く労力さえもそこまで苦には感じない。おすすめである。


 さて、歩くコースは二つある。

 一つは、大通り沿いを歩いて行くルート。

 一つは、線路沿いを歩いて行くルート。


 私は前述のとおり、小説の内容を考えながら歩くので、人通りが多いのは好きではない。人や自転車とすれ違うたびに、いちいち思考が中断されてしまうのがその理由。なので最近では、線路沿いのルートを好んで使っている。


 出発するのは夜明け前。

 時間にすると4時~5時の間。

 二駅半ほど歩いて折り返して戻って来る。1時間と少しの短い旅。


 線路沿いの道は狭く、車一台が通れるほどの道幅しかない。

 歩行者用の白線は道の左右両方に切られていて、線路側と住宅側の好きな方を選んで歩くことができる。

 私は人とすれ違うのが面倒なので、前方から人が歩いて来た時は、反対側へ移動してやり過ごすことにしている。



 では本題に入りたいと思う。


 2023年8月27日の早朝のことである。


 目的地としているA駅まで辿り着いた私は、500mlの水を一口含み、汗を拭うと来た道を引き返し始めた。

 駅前のロータリーに置かれている時計は5時に差し掛かろうとしていた。


 さて、ウォーキングコースは折り返しに入った。

 A駅から5~10分ほど歩いた辺りだっただろうか。正確な時刻はわからないが、恐らく5時を少し過ぎた辺りだったと思う。


 歩いているのは民家側の歩道。

 すると、前方に手押し車を押す腰の曲がったおばあさんが見えて来た。後ろ姿でおばあさんとわかったのは、背がすごく低かったのと、白髪がしっかりと生えそろっており、そして長かったから。


 こんなに早い時間にお出かけかな?

 しかし、その時は特段おかしいとは思わなかった。


 よたよた歩くおばあさんを抜くために、私は反対側の歩道へと移る。早足で速やかに抜き、元いた歩道へ戻る。その際、後ろから車が来ていないか確認するため振り返った。思わず声が出た。


「え?」


 老婆の姿が忽然(こつぜん)と消えていた。


 そんな怪談話みたいなことある?

 私は自分の目を疑った。


 周囲を見回す。早朝の朝5時という時間。他に人影はない。

 線路沿いの一本道。折れるような横道はない。


 一体どこへ消えたんだ?

 ホラーの季節は終わろうとしているのに、背筋にぞわっとしたものが走った。


 しかし、現実的に考えて人が消えるなんてことはありえない。

 私はホラーは大好きだし、都市伝説の類も大好物である。

 だが、それは話として好きなのであって、幽霊を信じている訳ではない。


 そこで私は現実的な選択肢を選ぶことにした。

 というか、可能性はそれしか考えられない。

 

 私が老婆を抜くまでの短い間に、一軒の民家を通過している。

 なので、老婆はその民家に入ったと考えるのが自然。


 それは古い石壁で囲まれた民家だった。

 まじまじと見た訳ではないので、細部については脚色を付けることとする。


 入口には鉄製の錆びた門があった。

 門は開かれていた。元々、開かれていたのかどうかはわからない。

 門をくぐって程近いところに一段高い段差があり、その先に玄関があった。


 繰り返すが、まじまじと見た訳ではない。人様の家を、しかも早朝という時間にじろじろ見ていたら不審者丸出しである。

 なので私が足を止めていたのは、数秒程度であり、家に帰ったのだろうと考えた私は、すぐにウォーキングを再開した。


 しかし歩きながらの思考は、小説のことではなく、消えた老婆のことでいっぱいだった。

 そして思考を進める内に、妙なことに気が付いた。


 まず思い出したことは、老婆は足が不自由そうだったということである。腰は曲がっており、歩みは遅く、よたよた歩いていた。

 果たして、足の不自由なおばあさんが、私が抜き去る短い時間の間に、門をくぐり、段差を上り、そして玄関ドアを開けて中へ入る。この一連の動作をスムーズに行うことができるものだろうか?


 しかも私は、物音を聞いた覚えがない。

 無音のまま、門を開け、段差を超え、鍵を挿し、玄関ドアを開ける。

 この一連の動作をスムーズに行い帰宅する。

 いまいちイメージが湧かない。


 実は足が不自由に見えただけで、本当は健康体で身軽だったのだろうか?

 そう考えれば一応の辻褄は合う。


 次に、疑問なのは手押し車である。

 朝5時という時間に、なぜ手押し車が必要だったのか。

 これから出掛けるというのなら話はわかる。例えば始発の電車に乗って少し遠出する必要がある場合。

 しかし、民家に入ったという事は、老婆は帰宅したということである。


 何故、手押し車が必要だったのか?


 以前、杖代わりに手押し車を使う老人がいるという話を聞いたことがある。

 その話が本当なのかはわからないが、仮に手押し車を杖代わりに使っていたと考えよう。

 そうすると、先の健康体で身軽だった説は否定されることになってしまい、帰宅しただけ説の根幹が揺らいでしまう。


 そもそも、なぜ朝5時という時間に帰宅したのか?

 帰宅したということは、どこかへ出かけた帰りである。


 どこへ?


 まだ暗い内から、一体どこへ手押し車まで押して出かけたというのだろう。


 若者ならわかる。徹夜で友達と遊び、始発で帰って来る。よくある話だ。

 あるいはサラリーマン。飲みすぎて泥酔し、一夜を公園のベンチで過ごした。そして一旦、帰宅する。ありそうな話だ。


 始発が動いている時間とはいえ。

 足の不自由な老婆が早朝に帰宅する理由がどうしても思い浮かばない。


 もしかすると、それはわかってみれば他愛のない理由なのかもしれない。



 しかしそれでも私は、つい想像してしまう。


 本当に足が不自由なのだろうか。

 手押し車には何が入っていたのだろうか。

 老婆が帰宅したのは、本当に自分の家だったのだろうか。

 早朝に帰宅する理由がないのなら、それはこの世の(ことわり)から外れた()で動いた結果なんじゃないか。

 もしかすると、老婆は本当に消えたのかもしれない。




 真実はわからない。

 ただ一つ確かなことは、本当にあった出来事だということだ。

2023年8月27日 18:32追記

今思い返してみても、10秒にも満たない短い時間で家の中に入れたとはどうしても思えないんですよね。論理的には家の中に入ったとしか考えられないんですが……

しかし、何度イメージしてみても、それが可能だったとは思えない。

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