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死神  作者: 悠木千帆
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間引き

何故産まれたのか?

 間引きって知っているか?

密集している大根などの若葉を抜くことだ。

それは人間にもある。

経済的にゆとりのないと感じた親が産まれたばかりの赤子を始末することだ。

それを子殺しと言い、子消しとも言われる。





 それは俺のことだ。

俺の親は身重な体を引き摺って川に行き、其処で俺を産み落とした。

胎盤や臍の緒まで付いたままで流されたのだ。

幸い、その体は誰かに拾い上げられた。

川の流れの中を何時間もさ迷っていたのに俺は無傷だったそうだ。

低体温症とまだ呼吸をしていなかったから助かったようだ。

水が羊水の役割を果してくれたからだ。





 結局。

何処の誰の子かも判らなかったそうだ。

その後、救ってくれた人の知人が親となり育ててくれることになったようだ。

その人の話によると、俺を助けた後で溺れて亡くなったらしい。

だから俺は死神と噂されていたのだ。





 俺は自分自身に嫉妬している。

死ねない体にうんざりしている。

何をやっても生かされるんだ。

本に紹介してあることは全て試してみたけど、結局死ねなかったのだ。

それを相談出来るのは俺と同じ日に施設に入った有美(ゆみ)だけだった。

育ててくれた人が俺を捨てて逃げたから其処へ入れられたんだ。

俺は又遺棄されたのだ。

殺されたって噂もある。

嘘か真か、俺が殺したらしいのだ。

でも十四歳未満だったから罪にはならないようだ。




 其処はフリースクールもやっていて、登校拒否児童も沢山いた。

学校で苛められ、此処に逃げ込んできたのもいる。

でもソイツ等には親がいる。

だから親無しの俺が仕返しされるんだ。

いじめっ子を遣ったら何をされるか解らないから、手っ取り早相手を攻撃するのだ。

所謂憂さ晴らしだ。

ソイツ等は陰険に遣られているから、傷付け方も承知しているのだ。





 そんな時、俺は大抵有美に助けられる。

ソイツ等は俺に向かって暴言を吐きながら逃げていくんだ。

だって有美は物凄く強いからだ。

俺は秘かに有美に憧れていた。

勿論恥ずかしくて言える訳がない。

強い女性が好きだなんて言えるはずがないんだ。





 今日も又有美に助けられた。

男なのにカッコ悪い。



「やーい死神」

ソイツ等は又俺に向かってあの言葉をぶつけた。



(死ねない体だから、死神って言われるんだ)

俺は益々凹んでいた。



「お前なんてどっかに行っちまえ」



「そうだ。お前なんか消えて無くなれ」

遂に其処まで言われた。



「解ったよ。行ってやるよ」

俺も負けずに反撃した。



「こんなとこもう居たくない」

俺はガックリと膝をついた。



「良かったらカフェに行かない。話したいことがあるんだ」



「カフェ?」



「行ったことないでしょう? サイゴだから連れて行ってあげるわ」



「何かが最後なんだ」

有美の言ってる意味も解らないくせに俺は頷いていた。





 俺達はカフェのテラス席に座った。



「彼処から逃げ出したいんだ」



「転所するの?」

当然のように有美が言う。

俺は驚いた。



「知ってるのか? あっ、そうか。だったら早い」

思いあたるふしがあった。

俺は職員室でもあの言葉を言われていたのだ。

その現場に有美が通りかかったのだ。





 「俺は死神だからな」



「違うよ」

俺の発言を由美は否定した。



「死ねない体はイヤなもんだよ。俺は今まで何度も死のうと思った。でも死ねないのだ。幾ら頑張ってもだめなんだ」



「でもね。簡単にはいかないと思うよ」



「施設の人間が我が儘言ってはだめなんだと解っているけど……」

俺はため息を吐いた。

そうなんだ。

一旦編入された施設は簡単には出ていけないんだ。

でも俺は、規律が乱れると施設の関係者から打診されていたのだ。

おそらく、有美はそれを立ち聞きしたのだろう。



 俺は自分の体を何度も危険な目にあわせている。

でも死ねなかったのだ。

だから俺自身さえもそう思い込んでいたのだ。

有美はそれを知っていたのだ。





 何気にカフェのガラス窓を見たら……

俺が映っていた。

青白く生気のない俺はまるで死神そのものだった。



「これか!?」

俺が死神だと言われていたのはこのせいだったのだ。



「本当に死神みたいだな?」

何気に有美に質問した。

すると有美は立ち上がった。



「見ないの」

有美はそれを隠すような仕草をした。



「これは……この影は私と居るから……だよ」



「ん!?」



「死神は私なんだよ」

聞き取れないくらいか細い声で有美は言った。



「今、確か死神って……。えっ、誰が死神なんだ?」

その答え、本当は望んではいなかった。



自分探しの旅が始まる。

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