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八話 神の器は侵入を試みる




ーールーセントイビルに専用の許可を与えた後、メレストフェリスとインスペクターは砦の南へと深い樹林の中を駆けていく。

 

 しかし、砦の南側に出入り口らしき場所はなかった。


「もしかして、入口はひとつだけなのでしょうか…?んー…。その場合、砦に入ったところで出口を固められて、逃げ場を失うかもしれないですよね…。なら…」


 そう言ってメレストフェリスはインスペクターに命令を飛ばす。


ーーそこの壁に近づいて、砦の内部を透視し、感知で敵の位置を確かめろ。その後、壁に攻撃を加え、強度を調べてこいと。


 透明化しているインスペクターは、ゆっくりと音を立てずにその石を積み重ねたような壁に近づく。

 それをメレストフェリスはじっと見つめる。

 少しの時間が空き、いきなり壁が人の頭大ほど凹んだ。

 

「ふむぅ…壁の向こうは何らかの、倉庫のような場所で、インスペクターが、感知できる存在はなし。壁の材質は特に何の効果も、ない石と…。んー……」


 メレストフェリスは頭を抱え考える。


(確実な逃げ道の確保は、やっぱり必要ですよね…)

 

 魔術的ーー転移などの逃げは用意できたが、相手が転移を阻害してくる可能性も考慮して、物理的な逃げ道も欲しい。それがメレストフェリスの思いだった。


「いつまでも、う、うだうだしていてはだめです。こういう時は前に進むのが賢いんです」


 そういって、インベントリから<死に損ないの腐朽杖>を取り出す。

 杖は、星の明かりに反射してその黒いその身をさまざまな色に変化させる。

 メレストフェリスは腐った杖を両手で掲げーー


「えと、自分に高域神秘ーーはやめておいたほうが良いでしょうか…」


 杖をあげたままその詠唱を止めた。

 MPの消費量を考えて、この透明化はもったいない気がしたからだ。

 もし戦闘になった際、MPが枯渇した場合、魔術特化構成のメレストフェリスでは確実に勝てなくなってしまう。

 それに、インスペクターが認識できないほどの強者にそんな小細工が効くとも思えない。

 

 ならば、インスペクターの情報を信じて砦へと侵入するべきだろう。


 メレストフェリスは掲げっぱなしの杖をおろし、抱く。そして、インスペクターを横につけ、トテトテという擬音が似合いそうな走り方で砦の壁の方へと樹々の隙間から出て駆けていった。


 そして、砦の壁につくたび、メレストフェリスは安堵のため息を漏らす。

 砦の壁の上の方は、鼠返しのように出っ張っており、上に誰かいたとしても真下を見ることができないようになっていた。


「ふぅ…。よ、よし」


 一息つき、間髪入れずとまでは行かずとも、とっさに腐った杖を構えーー


「えいっ」


ーー砦の石の壁を叩く。

 その杖は石の壁を豆腐のように陥没させ、粉々にした。

 若干の土煙が治った頃、そこにはメレストフェリスが丁度1人入れるほどの穴が空いていた。


(本当に脆いんですね…。さ、さて、今からが本番…頑張りますよ…)


 ぽっかりと空いた穴からインスペクターを覗かせ、部屋の内部に誰もいないか確認する。

 

 天井高は3メートルほどで、部屋の幅は下竜1匹分ーー4×6メートルーーといったところだろう。お世辞にも部屋は広いとは言えない。

 部屋に灯りの類は一切見られず、暗い。しかし、そんな環境を物ともしないインスペクターは、部屋の状況を鮮明にメレストフェリスに伝える。


 その部屋には無数の樽が置いてあり、そこからツンとした、発酵の進んだ酒の匂いがした。いうならば酒の保管庫だろう。

 そんな酒の保管庫には、やはり誰の姿もない。

 

(ーーふぅ…。一安心ですね。よかったぁ)


 侵入をするにあたってこの部屋は適していると言える。

 侵入後のケア、壁の穴を隠すのにその場の酒樽を使えば、ほぼ違和感なく壁の穴を隠せるはずだ。


 こうして、メレストフェリスはこの世界で初めて、砦に侵入した。




 部屋は暗く酒臭い。床もベタベタしており、お気に入りの靴を汚してしまう。


(…不衛生にも、ほどがある気が…)


 メレストフェリスは靴を汚された苛立ちを覚えつつも、インスペクターに部屋の外に誰もいないことを確認させ、その扉を開けようと杖をかまえた。


「汚い扉…これくらいなら、大丈夫だよね。中域魔術ーー<ドリオムト>」

 

 大丈夫という言葉には、MPの心配の意味がある。


 詠唱を終えると、杖の先から重力の塊が発せられ、扉を押すーーはずが、扉は大きな音と共に砕け散った。


「うぇっ?」


 思わず変な声が漏れる。

 慌ててインスペクターにこの音に気がついた存在がいるか確認を取るが、どうやらこの辺りは本当に誰もいないらしい。


(ふぅ…。まさか、粉々になるなんて…想像もつかないですよ…)


 何はともあれ、開扉に成功はした。

 次があるならその時に気をつければ良い。メレストフェリスは慎重に歩き出した。


 壁が外壁と同じく、石でできた廊下と思われる室内を歩いて、部屋へ入り物を物色。出ては別の部屋へ入り物を物色していった。


 その結果、これといってめぼしいものはなかったが、この砦の地図を手に入れることができた。どうやらこの砦は、流種の砦と言うらしい。


(流種…聞いたことない、種族かな?)


 その地図を頼りに今いるのは本部と思われる教会の横だ。

 ここなら書物などもあるかもしれないし、その宗教形態を知ることができるかもしれない。


 しかしーー


(…中に誰か、いるんですか…ど、どうしましょう…)


 中には1匹の流種がいるようだった。

 

 敵の力が未知のため、戦いに発展させるのは得策ではない。しかし、せっかくのチャンスを無駄にするなど、愚の骨頂だ。

 

ーー戦闘は絶対に避けては通れない道。

 それに、怯えてばかりだと、自分を造った主人に申し訳が立たない。


(…いまが頑張りどころです。ーーだいじょうぶ。過去何回も勝ってきた。うん、自分の腕を、信じますよ)


 メレストフェリスは小さな拳を力いっぱい握るのだった。


 言葉選びって難しいですけど楽しいですね。

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