五十三話 死に薔薇の騎士Ⅵ
フェルベールは雲ひとつない空を見上げた。
「…やっと、始まったか…」
分隊長として指揮権を持つ、ギジウスという流種の言っていた通り、低域“炎”魔術ーー<フランマ>が村を挟んだ上空に打ち上がるのが見えた。
このフランマが突撃の合図だそうだ。
フェルベールは走り出す。他の流種の速度に合わせての走行だが、まるでハエが止まりそうなスピードだ。
進行方向である村には、高くはないが柵が設けられており、果たしてこの流種達の力でその柵が突破できるのかと考えてしまう。
(…随分と、考えなしな生き物、だな…)
この流種という生物の頭の悪さと段取りの悪さには、悪い意味で目を見張るものがある。
そんなことを考えていると、気がつけば突撃部隊の上に矢が降り注いだ。
どうやら、柵の向こうから上に向けて矢を射っているらしい。
しかし、当然だが、上空から降り注ぐ矢には一切の力が乗っておらず、鎧兜を身につけた流種達にはかすり傷しか与えられていない様子だった。
次々に柵に到着すると、流種達は一斉に柵に己が武器を叩きつける。
「戦技ーー<渾身斬り>!」「戦技ーー<大樹斬>!」「うおおおおおお!戦技ーー<粉砕の一撃>!!」
有象無象の攻撃や斬撃は確かに村の柵を破壊しているが、見た目以上に硬いらしく、時間がかかっている様子だった。
「戦技ーー<ゴーデンサイズ>」
突如柵を襲う、闇を纏い魂を刈り取る暗黒の斬撃。
質量を十分に含んだ暗黒の光波は、おそらく魔術的防御の施された柵を軽々と吹き飛ばす。
「もたもたするな。僕が道を開けられたのはこの愛鎌“デスサイズ”のおかげに他ならない。進むんだ…そして、群盗どもを一匹残らず根絶やしにしよう」
黒衣に身を包んだ鎌を持った流種。
どうやら先ほどの一撃は黒衣の流種が放ったものらしい。
見事な破壊撃に見入り、手を止めた流主たちがざわめく。
「…あれが上級騎士、ギジウス・バイトの“魂を刈り取る月光“…すげぇ…」
「俺たちが何匹だかりでって言うものを…まさか一匹とは…」
「あれが本当の一匹狼か…」
フェルベールからしてみれば大した一撃ではないかもしれないが、どうやら流種からしてみれば域の違う攻撃だったのだろう。
(…あれがこの国の英雄か…。厄介には…なりようがないな)
もし対峙すれば一撃で葬れる。フェルベールはそう自負しており、それは確実なものだ。
そんなことを考えていると、一瞬だけだが上級騎士ギジウス・バイトなる者がフェルベールの方を見た気がした。
「さあ行け! 後ろは僕とデスサイズが持つ。…奴らは所詮群盗、臆するには足らん」
大切にしていた靴下を片っぽ無くしちゃいました…。
明日から平日。頑張ります(*´ー`*人)




