四十八話 死に薔薇の騎士
ちょっと長いです。
フェルベールに課せられた任務は、適当に単騎でこなせる依頼を達成し、最終目標である18万フリムに少しでも近づけることだった。
さらにその任務で厳守することも決まっている。
「くれぐれも、正体のバレないよう、お願いします」
命令を心中で復唱しながら主人であるメレストフェリスが狩人の集いの扉から出ていくのを、フェルベールはアミュラと共に見送った。
「フェルベールさん、私も魔粉金の作成があるので」
そう言って、メレストフェリスの歩んだ道を追うように狩人の集いからでていくアミュラ。
気がつけばフェルベールは独りになってしまった。
そんなフェルベールは流種ばかりのこの狩人の集いの中でも異色の空気を放っており、ロビーの様々なところからフェルベールに対しての奇異の目が向けられる。
(…警戒? …いや、単に私が単騎でいることが不思議なだけだろう)
視線を感じるのなどいつものことで大して気にする事でもない。フェルベールはそう考えた。
「…依頼を、探すか」
今一番大切なのは主人より承った命令を遂行することなのだ。
一旦思考をやめ、先ほどまで見ていた掲示板、そこに無数にかけられた木簡を眺める。
しかし、かけられた依頼は『薬用植物の採取 1束400フリム』『鉄鋼の運搬 日雇い1100フリム』『大土蜘蛛の討伐 1匹150フリム』『周辺警備と魔物討伐依頼 日雇い1500フリムから』などと、高額な依頼どころか、誰でもできる、言ってしまえば雑用のような依頼が多かった。
フェルベールは悪魔だ。
それ故、プライドが高く、殺しを生き甲斐としている。
できるなら自分しかできないような依頼を。せめて殺しが容認されるような依頼をフェルベールは求めているのだ。
そんなことを考えながら木簡を凝視しては首を傾け、また別の木簡を凝視しては首を傾けるといった行動をとっていたフェルベールは、この狩人の集いにおいてさらに異質に見えたのだろう。
もはや誰しもが掲示板前にて悶々と悩む死に薔薇の騎士に視線をむけていた。
しかし、同じ状況も長々と続けば飽きがくるといったもので、フェルベールが悩みさらに悩んでいると徐々に流種達の意識はフェルベールから遠のき、普段の狩人の集いの姿が戻ってきたようだった。
(…依頼が決まらん)
一方、悩むことに明け暮れていたフェルベールは答えの出ないままその場に立ち尽くしていた。
(いっそのこと、この場にいるゴミを鏖殺できればな…)
フェルベールの眼前で談笑をする流種たちに、どこか湧き上がるものを堪えながら、再び依頼を探す。
フェルベールは流種が嫌いだ。
いや、そもそも、フェルベールはベルフェゴルという悪魔で、生命の敵である。
そんなフェルベールがむやみに流種を殺さないのは、メレストフェリスの命令があるからだ。
ベルフェゴルがもし、何の枷もなくこの世界に顕現したなら、持ち前の力で虐殺と蹂躙を図っただろう。
フェルベールは考える。
(…一思いに皆殺しにできたなら、どれだけ心地良いものだろうか)
しかし、そんな思考を簡単にやめさせる吉報が、フェルベールの耳に入ってきたのだった。
その吉報はフェルベールのいる掲示板からほど近い位置にいる5匹の流種達によってもたらされる。
「ーーおい、騎士団が帰ってきて、ようやく今日、群盗どもの一斉粛清が始まるってよ」
「南西の奴らですよね? 今回も騎士団と共闘なのでしょうか」
「…うむ。依頼を見たところ、今回も共に戦うようであるな」
「ひょ〜、こんなに報酬うまいのか! こりゃ、受けるしかないっしょ」
「ば、ばか。声が大きいって」
いかにも青年風の青毛の流種と、ぱっと見でフェンサーの職を収めているのがわかる灰毛の流種。
そして、図体のでかい戦士らしき、斧を持った流種と、レンジャーか密偵の職らしきフードを被った流種。それと白い祭服に身を包んだクレリックかプリーストの雰囲気を醸し出す、狩人の集いでは珍しい、雌の流種が話をしていた。
フェルベールはあまりにもタイミングの良い話題に、何か裏があるようにさえ感じる。
しかし、フェルベールは自分の思う中で、誰からも恨みを買った覚えが無い。
そんな潔白の身であるフェルベールをわざわざ陥れる理由など、あるわけがないのだ。
フェルベールは自然にそのパーティに話しかけていた。
「…すまない。その、群盗討伐の依頼を、私にも見させていただけないか?」
「うぉ! びっくりした!」
そう言って驚きと共に肩をビクッと上げてフェルベールに振り向くのは先ほど、群盗討伐の話を持ち出していた青年らしき流種だった。
「おや、貴方は最近狩人頭に気に入られてたちまち有名な、フェルベールさんですかね?」
横から話しかけてきたのはフェンサーらしき流種だ。
「…あぁ。私がフェルベールだ。…それで、その依頼とやらに少し興味があるのだが、詳しいことを聞いても構わないかね?」
「そんなことより貴方、いつもの小さいのと、今日初めて見たツレと一緒じゃないの?」
割って切り出してきたのは雌の流種だった。
活発な雰囲気と相反した祭服がチグハグでどこか面白い。
「…あの子らとは、今日は別行動だ」
「えー。あのちっこいの可愛いから好きなんだけどなー。残念」
「…依頼の話、良いだろうか?」
祭服の雌を無視して流種の青年に話を切り出す。
「あーはい。その前に、なぜ依頼の話を聞きに?」
「…お恥ずかしながら、現在金銭問題に難航していてな。それで貴殿らの言う割の良い依頼が魅力的に見えた、と言うわけだ」
「…ふむ。立派な鎧を纏った騎士様でも、苦悩することがあるのですな」
「なぁなぁ、そう言うことなら話してもいいっしょ? この人間強そうだし!」
「なるほど。確かに理由もだし、教えない義理はないか」
そう言って青年は語ったのは依頼とその内容、さらにその原因となった事件や被害などだった。
ーーアウトメコンから西南に進んだ先にあるアンバ・メコン。
アンバ・メコンはアウトメコン近郊とは打って変わり、水源が豊かな豊穣の大地が広がっている。
その豊穣の大地の名産である多量の家畜と、農作物のアウトメコンへの運搬時にその事件は起きた。
30隊を超える商隊。その最前列の荷馬車が、唐突に遠方から火矢を射掛けられたのだ。
燃える馬車とパニックになった馬を制御できるものなどおらず、たちまち商隊は散り散りとなり、あらぬ方向へと走り出すものもいた。
それを待っていた群盗は100を超える賊を総動員して、孤立した馬車を襲っていったという。
雇われていた護衛の必死の抵抗も虚しく、総額130万フリム相当の商隊群は惨殺されたのだった。
「ーーそれで見てほしい。盗賊1匹あたり1千から3千フリムの報酬が出るそうだ」
青年がもつ紙には確かにそう書かれていた。
「…ふむ。依頼はどこで受けられるんだ? 掲示板を一通り見渡したが、そのような依頼は見当たらなかった」
「それは、この依頼が秘事になっているからですね。掲示板にわざわざ貼るなんて、群盗の内通者に、こちらがいつ何時に出発すると言っているようなものですからね」
「…ふむ」
「なので、依頼を受けるなら窓口の係に問い合わせてみるといいと思いますよ。貴方は狩人頭に歓迎されているので、係員も快諾してくれるはずです」
フェンサーらしき流種の丁寧な説明に耳を傾ける。
どうやら、この狩人の集いではフェルベールのことは、エイレンに気に入られた人物として広まっているようだった。
「…貴殿ら、本当に感謝する」
「ちなみに、今日、もうすぐ出発だから依頼を受けるなら急いだほうがいいわよ」
「俺たちも準備があるし一旦買い出しに出るか。フェルベールさん、もし依頼をご一緒するんでしたら、また後ほどお会いできるやもしれませんね。それでは」
そう言って青年は扉の方へと歩いていき、レンジャーか密偵の職らしき流種以外は皆外に出て行った。
「んじゃ、人間の旦那、俺は先に受付してくるっすよ」
そう言ってレンジャーらしき流種もフェルベールを置いて受付へと走り、簡単な質疑応答を行なったのち、仲間と同じように狩人の集いから姿を消した。
軽い雰囲気の流種だったが、フェルベールに受付の仕方を見せるために迅速な行動をとったと、フェルベールは気づくことはない。しかし、その思惑通りフェルベールはその一連の動作を見て、ある度の受付への理解が深まったのだった。
「…すまない、群盗征伐の依頼を受けたいのだが」
受付の流種ーーエイレンのようにウェスタンハットのような帽子をかぶった、性別は多分雌といった風貌の流種が、フェルベールを見て、目が泳ぐのをフェルベールの優れた知覚能力は見逃さない。
「はい、フェルベール様ですね? 狩人頭からの話は聞いております。どうやら、大悪魔モラクス討伐に一躍買ったとか…。ーーあっ、群盗の依頼なら問題なく承諾されます。ですが、出発はほんのすぐでして、準備等は大丈夫なのでしょうか?」
「…あぁ。私はいつでも出られる」
そう言って腰に下げた青薔薇の紋様の細工が冴え渡る大刺剣をかちゃりと鳴らす。
「そ、そのようですね。余計ごと、申し訳ございませんでした」
「…あぁ。それで、どこが集合場所になっているんだろうか」
フェルベールがそう告げると、受付の流種は慌てた様子で一枚の羊皮紙を引っ張り出し、そこに書かれている内容を読み上げた。
「えっと…“例の群盗の征伐が決まった。勇士は武功を立てる好機である。騎士団は白昼に南門より出発する。必ず征伐“とありますので、集合場所はアウトメコン南門前になります」
「…南門か。了解した」
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