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四十六話 神の器は死を招くⅥ



ーーメレストフェリスはシュプレヒコールのいる場所へ歩く。


(全員が流種で、レベルは、33〜41。シュプレヒコールに、手も足も出なかった、と)


 どうやら4匹いた流種たちはシュプレヒコールの手によってなんらかの行動不能にしてあるらしい。

 ちゃんと命令を遂行してくれる召喚物は便利でいいな、とメレストフェリスは思った。

 


 余談だが、召喚物が召喚者の命令を聞くかどうかは、その個体の“叡智“の数値の高さが5以上あるかないかによって決まる。

 とは言ってもほとんどのモブは叡智の数値が5を超えているが、それでも一部の例外的な低叡智の者もいる。

 それはアンデッドだ。


 アンデッドでも、もっともレベルの低い亡者の叡智は脅威の3で、召喚後、一人でにどこかへ姿を消してしまうことがあった。

 アンデッド系に2体。獣系に1体。物質系に1体。

 この4体は叡智の数値が5を下回っているため、過去には“四無知“と呼ばれることもあったという。


 ちなみにシュプレヒコールの叡智は120だ。叡智の値は魔術や呪術、神秘に長けていない者であればレベルと同じくらいが普通なのだ。

 

 メレストフェリスはそんなシュプレヒコールの居場所にようやくついた。

 

 青白い細枝のようなアンデッドとその足下に綺麗に並んだ4匹の流種。

 まるで何かの儀式でも執り行うかのような、そんな不気味さがあった。


「えっと、麻痺2匹、眠り1匹、恐怖1匹で、いいですかね?」


 まずは確認だ。

 メレストフェリスが見てパッと得た情報からどんな状態なのかを推測したが、もしかしたらこの世界では効果が少し違ったりするのかもしれない、と考えての行動である。

 

 しかしそんな考えも杞憂に終わり、シュプレヒコールは首を縦に振り、見たままの状態であると肯定した。


「えっと、私が全員に、行動不能をかけるので、全デバフの解除、お願いします」


 メレストフェリスは高域呪詛ーー<棘龍の尾>をマルチスペルで使用し、4匹の流種を行動不能にした。その後、シュプレヒコールが麻痺や恐怖、眠りの状態異常を解除することで流種たちは、体は動かないが目や口は動かせるようになった。

 

 



「それで、なんで、おいかけて、来たんですか?」


 メレストフェリスはかかんで、目線をなるべく合わせて問いかける。

 目の前には、うつ伏せで横たわり、顔のみをメレストフェリスに向けた、ひどく困惑の色を見せる流種達がいた。


 数秒たってもメレストフェリスの問いに答えるものは出てこない。しかし、4匹のうち3匹の視線が1匹の流種に集まっていることに気がついた。


「えっと、あなたが、首謀者、発案者? なんですか?」


 その視線の集まった流種に単刀直入に問いかける。


「…えは…お前はなんなんだ!? 人間か?そうじゃないのか? あまりにもおかしい、あんなアンデッド…お前の強さといい、非常識にもほどがあるぞ!」


 しかし帰って来たのは聞きたいことではなく、まさかの質問だった。


「あの、質問にちゃんと、答えてほしいです」


 そう言ってシュプレヒコールに数歩前に出るように命令する。

 流種達は一歩ごとに恐怖の感情を強めていき、息が荒くなるのを感じた。


「待て! 待ってくれ、こいつが、このデルグリが首謀者なんだ! 怪しい人間を終えと言われて、俺とベッゼとモロフ殿はデルグリに命令され、逆らえなかったのだ」


 そう言って顔でデルグリを指すのはガウレッドだ。デルグリは「…裏切るのか」などと呟いていたが、このガウレッドの発言が皮切りとなり、世紀の裏切りが始まった。


「あー、そうでっせ。デルグリとかいう下種があの人間を捕まえろって言って来たんでっせ」


 もはやそこに先の、デルグリを守ろうなどという団結力はない。


「騎士団の中でも、いや、全流種の中でももっとも愚かなのは、このデルグリに違いありませんなぁ」


 もはや助け舟などどこにも存在しない。


「えっと、この、でるぐり?が一番悪いということで、いいんですね?」


「ちがーー」「その通りです! こやつは貴女だけでなく、もう一人の人間の、薔薇の騎士なるものにも危害を加えようとしておりましたなぁ」


 デルグリに反論の余地すら与えないモロフ。さらにメレストフェリスの機嫌を煽るため、他の情報すらも持ち出した。

 他の2匹も「そうだそうだ」と肯定した。 


 しかし、その全ては生き残るための行動だったのだろうが、メレストフェリスからすればただの騒音に過ぎなかった。


「あの、シュプレヒコール。左の流種以外、スキルーー<絶息の割れ鐘>で、お願いします」


 メレストフェリスがそういった次の刹那、シュプレヒコールから壊れた鐘のような絶叫が響き渡った。予備動作もほとんどなかったため、流種達はなんの反応もできずその音を耳に受け入れる。


「…なんだ…? 何が起きたんだ…?」


 そう言って自分の体に異常がないか確かめるデルグリ。


「おい、モロフ、異常はないかーーモロフ…?」


 視線をずらし、他の流種に異常がないか聞こうと、視線をずらした先にいたのは、うつ伏せになり、顔を地面につけ、ぐったりとしたモロフの姿だった。

 いや、モロフだけでなく、ガウレッドもベッゼも総じて同じような状態になっていた。


「お前達、何をやっている」


 デルグリは問いかける。


「早く答えろ…」


 そんなはずがないとデルグリは心の底から思う。


「な、なぁ…、ここでふざけるのはーー」


 こんな一瞬で屈強な彼らが死ぬはずがないと。

 しかし、そんな淡い希望は目の前にいる小さき悪魔によって崩壊する。


「えっと、死にましたよ?」


 淡々と、なんの感情もない声で、さも当たり前と言わんばかりに言の葉を並べる目の前の人間に、デルグリはひどく恐怖を覚えた。

 その恐怖はあまりにも大きく、仲間の死などもはやどうでも良いと感じてしまう。


「ひぃ…」


 呼吸がうまくできず、喉が「カヒュー、カヒュー」と変な音を鳴らしていた。




(なんで流種って、全員似たような、怖がり方を、するんでしょうか)


 メレストフェリスはデルグリに近寄り、再び問いを投げかける。


「あなたが、首謀者、なんですね? 追いかけてきた理由、聞いても良いですか?」


ーーその後、路地裏から声にならない悲鳴が響いたという。

今日も雪が冷たいでございますね(*´ー`*人)

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