四十三話 神の器は死を招くⅢ
デルグリ一行が、人間の追跡を始めて少し経った頃、モロフが口を開いた。
「追うのはいいですが、捕まえるというのはいつ決行するんですかねぇ?」
先ほどからデルグリ一行は後ろから一定の距離を置いて付けているだけでその距離を一向に縮めようとしなかったのだ。
「…もう少しだ。もう少しまて」
デルグリの決断を鈍らせるものの正体、それはーートラウマだ。
かつて遭遇したあの一瞬の出来事が何故かデルグリの中で大きなトラウマとなっていたのだ。
頭の中では人間の子供など取るに足らないと考えているも、身体が謎の警鐘を鳴らす。
「あー、何か悪事の証拠を探しているのかもしれませんが、以前不敬を働いたのであればそれでもうあの人間を捕まえる証拠としては十分なんじゃないっすかね」
「おや、どうやら人間とその横にいた流種が足を止めた様子ですなぁ」
「人間と流種が一体なにをしようってんですかね」
とガウレッドが言う。
確かにこんな側道に人間と流種など普通ではない状況である。いや、そもそもこんなところーースラムーーに足を運ぶなどよっぽどの理由があってこそなのだが、デルグリ一行はいくら考えてもその答えを出すことはできなかった。
「止まったと言うことは、何かしらを行なっていると考えるのが妥当、か。ベッゼの言った不敬罪でも証拠にはなるが、さらに決定的なものが見られるかもしれん。モロフ、奴らが監視できる場所まで案内してーー」
その時だった。
一瞬で何かに覆われるような感覚がデルグリを襲った。
「ッ! なんだこれは」
そう言ってデルグリは辺りを見渡すと、どうやら他の3者も同じように不快感に見舞われている様で困惑と得体の知れない恐怖を感じているのがわかった。
「何か出口を蓋が閉じられたような、そんな息苦しさを感じますな」
この時まで流種たちが感じていた恐怖は、得体の知れない感覚に見舞われたためだと思っていた。
しかし、すぐにその恐怖が他の恐怖だと理解するのは一瞬の出来事だった。
何かを察知したのか、この中で最も戦闘技能に富んだガウレッドが叫んだ。
「何かが来るッ!」
それはガウレッドの感じたのこのないような、邪気を孕んだ“なにか”だった。
姿はまだ見えておらず何者かなど一切わからないが、確実にこちらに迫ってきている“なにか”は非常に邪悪な存在で、敵であるとガウレッドは本能的に察した。
他の3匹もその気配に気付いたようで、瞬時に臨戦体制になる。
その敏速さには目を見張るものがあり、さすがアウトメコン騎士団に入団しているだけあると言ったところだろう。
モロフが笑う。
「はは、まさか騎士団とあろうものがこんな街中でこんな存在と相見えることになるとは…。安全圏はもはやないんですなぁ。さて、悪魔が出るか、竜が出るか…」
そしてやって来る“なにか”。
それはーー
全く血の気のない青白い肌。
痩せ細った白い腕。
身長は一般的な流種よりも高い。その頂点たる頭を見れば、目に当たる位置には何も存在しておらず、その眼窩はぽっかりとした暗穴を開けていた。
さらに、口と思しき場所は常に力無く開いており、まるで悲鳴を発しているかのような幻聴すら感じる。
「なんなんだよ、あれは…」
そのデルグリの問いは誰にも返されることなく静寂へと溶けた。
「悪魔でも竜でもなく、アンデッド…しかも、破格とは…気が滅入りますなぁ」
「あー、戦ってすらいないのにやばい気がビンビンしまっせ…」
「こんな日はあってはならない…」
各々が感じたことを口にする中、アンデッドーーシュプレヒコールは何もすることなくただその様子を見つめていた。
遅くなりました(*´ー`*人)
良き休日をお過ごしください。




