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四十二話 神の器は死を招くII

ーー魔道具の店前。


「バカが! アホが! なぜこのようなタイミングで悪魔の襲撃など起きるッ! …遠征から帰ってきてから全く休む暇がないとは、どういうことだ! やってられんーーおいお前たち! 今日はもう飲みに行くぞ」


「あー、いや…、流石にこんな昼間に仕事放置で飲みに行くのはちょっとまずいんじゃないすかね」


 半ば怒鳴りつけるような声で仕事を放棄して飲みに誘う不届者のデルグリ。その誘いに取り巻きの1匹であるベッゼはあまり良い返事を示さなかった。


「ーーなんだと!? 誇り高きドネショバ家の跡継ぎの誘いを断るというのか!?」


「オレも今日は正直反対ですぜ」


 そう言ってデルグリの誘いを断るのはガウレッド。彼は物事に対して関心があまりないように見えて実は観察を大切にする慎重派の流種だったりする。


「ベッゼにガウレッドまでッ! いつからお前たちは私に逆らうようになったんだ! おい、モロフはどうだ? もちろん私の意見に賛成だよな?」


 そう言って何も発言していないもう1匹の流種の方を向き、視線で圧をかける。


「うーむ、私は、私も疲れたので休憩が欲しいですなぁ。ですが、酒は弱いので代わりに冷たいものでも食べたい気分ですなぁ。

 …そういえばあっちの大通りに氷水屋のうまいのができたって聞きましたな。ちょうど移動先もあの方面なので、少しばかり寄り道なんてどうですかな?」


 モロフは口の上手い流種だ。それ故、デルベルのストッパーとして常に動いている節がある。この中で最も年齢の上の流種なのでデルベルを除いた他2匹に比べて決定権があるようだ。


「ふむ。うまい氷水か。確かに今日は暑い。身体を冷やすのは大切だな。よし、モロフの提案に私は賛成だ。ベッゼにガウレッドももちろん行くだろうな?」


「あー…。お供しまっせ」


「…オレも急に氷水食いたくなったので行きますぜ」


「ふむ、では道案内をしますかねぇ」


 デルグリの「任せた」という言葉を聞いてモロフが先頭に立って道を歩く。

 

「はは、なんだ、とても目立っているな。これは失礼なことをした。私の美貌が漂っているのだろう」


「あー、まあアウトメコン騎士ですからねー…」


「そんな日もありますぜ」


「ですなぁ」


 会話のスタイルはいつもと変わらずデルグリが何か言ってそれに他3匹が適当な相槌を打つ。

 目的地までこの無意味なやり取りが続くとほとんどの者が思っていたが、そのルーティーンはデルグリが喋りと共に足を止めたことで突如終わりを迎えた。


「あー、デルグリ様? どーしました?」


 普段なら絶対にベッゼからデルグリに話を持ちかけたりなどしないのだが、この時はその様子の異常性からつい声をかけてしまった。

 

 ベッゼはしまった、と思うも、どうやらいつもの長い自慢話を垂れ流す雰囲気でないことに気がつく。

 

ーーデルグリの視線の先には「皮革製ドレス商」と書かれた看板がでかでかとおいて置いてあった。


「あー、デルグリ様、誰かへの贈り物でも考えてるんですかい?」


「そんな日もありまっせ」


「氷水屋はまだあっちですが、すこし、寄って行かれますかね?」


 各々急に何かに釘付けになった様子のデルグリを見て言葉を投げかけるも、デルグリからは反応はなく、まるで狂ったかのように目を見開いてドレス商を見ていた。


「あー、大丈夫ですかい?」


「…つけた…」


「はい?」


「…見つけた…」


「あー、ドレスによっぽど興味があったんですかい?」


「違う! あそこをよく見ろ! 人間だ」


 そう言って荒々しい呼吸と共にビシッと指を刺した方向にはガタイの良い流種と、その前をゆく灰色と薄紫の小さな人形が見えた。


「あれは確かに人間ですなぁ。デルグリ様は人間に興味がおありで?」


「…ああ。特にあの人間には見覚えがある」


「あー、以前言っていた、マヨメコンで不敬を働いたとかいう」


「確かに言ってましたな」


「ですなぁ」


 どうやらデルグリは遠くに見える人間を見失わないようにしているらしく、この会話の最中一度も取り巻く者たちに顔を向けることはなかった。


「あー、角曲がって、路地裏にいくっぽいっすね」


「…おい! モロフ、お前は確か騎士になる過程で“密偵“の職を取得したと言っていたな。…あの人間をバレない位置からつけることは可能か?」


「はぁ…、確かに密偵のスキルを使えば距離を置いていても追跡できます…。が、しかし、これ以上距離が離れるとスキルが届かないかもしれませんなぁ」


「ーー悠長なことを言っている暇はない! 使えるなら今すぐ使え。ベッゼにガウレッドも来い! あの人間を持ち帰れば報酬が出るかもしれないぞ、いや私が報酬を出す! ーーなんとしてでも捕まえろ」


 ベッゼとガウレッドは戸惑いながらも報酬が出るなら、と協力する姿勢を見せる。


 走り始めたデルグリはかなり焦った表情を浮かべており、人間一人にそれほどのことがあるののだろうかという疑問がデルグリを除いた3者を巡った。


ーーデルグリは覚えているのだ。あの人間の冷酷な瞳を。

 しかし仲間がいる今なら制することができる。そう自分に言い聞かせた。


 副団長が隣にいても恐怖を感じた、あの時を忘れるように。


手袋が外せない季節ですね。何度かスマホ、落としちゃいました(*´ー`*人)

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