三十九話 神の器と血迷いし溢れ者II
大変遅くなりました(*´ー`*人)ゴメンなさい
「オイ、マジでこの先にフェルベールがいるんだろうな?」
「あーえっと、はい」
メレストフェリスとグレイトスは通りを離れ、人っ気のない側道に入っていた。
無論、このグレイトスを殺すためである。
メレストフェリスは無意味な殺生はしないと決めている。それは、大切な主人の情報源を経ってしまうことになり得ないからだ。
しかし、このグレイトスという流種は情報も特に持っておらず、こちらの行動の妨げになると確信した。だから、殺す。
人目につかないように側道に誘導したが、グレイトスはバカなのか簡単についてきた。
陽光の入りづらい細い道を進む。
まるで何かから逃げるように。
「あの、あなたの、お仲間さんって、どこにいるんです?」
「アァ? オレの仲間か? 星峠の隕鉄はもうオレ1匹だぞ」
「そうなんですね」
グレイトスはその後、方向性の違いで皆移転していったと語った。メレストフェリスは全くそんなこと聞いていなかったのだが。
ならばなぜ、興味のないグレイトスの仲間の話を振ったのだろうか。
それは、側道に入った時から一定間隔を確保してつけてくる4者の影があったからだ。
(てっきり、この流種の仲間かと、思ったんですけど)
グレイトスが嘘をついている可能性は捨てきれない。
(ただ、処理するゴミが、増えただけ、ですかね)
なんの目的かこちらを認知して確実についてきていることに間違いはない。ならば、厄介になり得ないので殺してしまうのが賢明だろう。
「オイ! まだか、本当にこっちにいるんだろうな!」
「…はぁ…」
「なに急に止まってんだよ、オイガキ、本気で殺すぞ?」
「スキルーー<カスピエルの獄>、スキルーー<冥道回帰・デッド=シュプレヒコール>」
メレストフェリスが立て続けにスキルを行使する。<カスピエルの獄>は自分と指定した相手を一定時間結界内に閉じ込め、外部からの干渉を受け付けなくするというもので、相手のレベルと抵抗の値によって閉じ込められるかが変わる。
次に使用した<冥道回帰>は冥界と現世を一時的に繋ぎ、冥府の者を呼び寄せる召喚スキルだ。
黒い魔法陣がメレストフェリスの足元に現れ、それはまるでそこの見えない穴のようだ。その穴から徐々に、徐々に何かが這いずるような音が聞こえ始める。
そして細腕が見え、血の気のない皮膚と眼窩にぽっかりと空いた穴をもつ身長の高い流種よりも頭ひとつ大きいほどの体躯の生ける死者が姿を現した。
ーーシュプレヒコール。
レベル105のアンデッドで、全体状態異常を得意とする。ゲーム内では特に、初心者から絶大なバッシングを受けていたモンスターだ。中でも全体にスタンの効果を与える<絶叫>は防御手段も少ないためかなり厄介だ。
「お、オイ、なにが起きているんだ?」
慌てふためくグレイトス。
それもそのはずで、グレイトスの目の前には冥府より生い出でたりし、巨悪であるアンデットと、それを従える人間の子供がいた。
『ァ…アァ…』
アンデットーーシュプレヒコールの下顎は骨が外れたかのように垂れており、真っ黒な口腔をあらわにしてした。
グレイトスはその口腔から幾重にも重なる大勢の悲鳴を幻聴する。
「ヒィっ!」
尻尾を巻いて逃げようと後ろを振り返ろうとするも恐怖で足がもつれ、うまく方向転換できずにグレイトスはうつ伏せ位になるように転倒した。
(別にこの流種に対して、召喚したわけじゃ、ないんですけどね…はぁ…。シュプレヒコール、後ろのしつこいのを、お願いします)
メレストフェリスが命令すると、シュプレヒコールはメレストフェリスから離れ、とても肉の溶けた見た目からは想像もつかない俊敏な動きで走り去っていった。
「ハァ…?」
情けない声を発したのはもちろんグレイトスだ。
人間の子供が悍ましい者を顕現させたかと思ったらその悍ましさの化身はいきなり姿をくらませたのだ。
しかしグレイトスは気づく。
今こそ最高のチャンスなのではないかと。
恐ろしいアンデットはこの人間が呼び出したが、人間程度の存在があんな化け物を飼い慣らすなど不可能に等しい。
召喚はできたが、制御ができなかったのではないか、グレイトスはそう考えた。
尤も、そんな化け物を召喚した時点でメレストフェリスも化け物に違いないのだが、グレイトスの脳みそは正常な判断などもはやできる状態ではなかったのだろう。
「死ね!!」
グレイトスは背中に下げた得物ーー手斧を振り上げながらメレストフェリスに飛びつかんと全力で地面を駆ける。
グレイトスの眼下に映る人間はその場から一歩も動かず、フードの下からもなんの反応もないように見えた。
「油断したな! バカが!!」
こんな人間ただの一振りで殺せる。そう思い込んだ手斧はメレストフェリスのフード目掛けて振り下ろされる。
金属の反射が残像を残し、光の弧を描いて数瞬止まる。
次の瞬間、グシャリと何かが潰れるような音が人っ気のない側道に響いた。
「あの、汚いものを、近づけないで、ください」
「ハァっ! ガアァァァァアアッッ」
それは一瞬の出来事だった。
グレイトスの斧が人間の首に振り下ろされようとした瞬間、グレイトスは何か寒いものを感じ、咄嗟に斧を持つ腕とは逆の腕を顔の前に出し、身を守ったのだ。
その判断は正解で、気がつけば人間はその体躯に合わない大きな杖を持ってグレイトスの腕を粉砕していた。
「ヒィィ!! 腕が!アァ!」
(…うるさい、ですね)
戦意を喪失し、激痛にのたうつ流種と無傷で冷酷な瞳を眼前の流種に向ける人面獣心のメレストフェリス。
もはや勝負はあったと言っても過言ではないだろう。
「グッ…お、オマエはなんなんだ! ニンゲンはこんなに強いものなのか! チクショウ…チクショウ…」
しかし、メレストフェリスは動きを止め、まるで別の何かに意識を向けるようなそぶりを見せる。
「…?見逃してくれるの…カ?」
「いえ、用事ができたので。とりあえず、さようなら」
メレストフェリスは杖を構えたままグレイトスに近寄り、その頭目掛けて杖を振り下ろす。
「ヒィ! まっ、タスケーー」
ゴォ、という風切り音と共に眼前に迫る杖を見たグレイトス。
グレイトスは最後に遠くで悲鳴を聞いた気がした。いや、真に最後に聞いたのは己の頭蓋が砕け、脳漿が奏でた水っぽい音だったのだろう。
メレストフェリスは凄惨な現場を見ながら言葉をこぼす。
「流種にも、脳漿って、あったんですね」
そう言って杖についた肉のかけらを振り落とし、グレイトスの死体をインベントリに入れた。
「さて、あっちも片付けますかね」
そう言ってメレストフェリスは先ほど悲鳴の聞こえた、ヒュプレヒコールのいる場所へと歩き始めた。
忘れていたわけじゃないんです…。ただ、今回の話は丁寧に描きたくて、あれでもない…これでもないー!ってやっていたらこんなに時間が経っちゃってたんです(*´ー`*人)ごめんなさいまし。




