表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/57

三十八話 神の器と血迷いし溢れ者

(さて、後はフェルベールとアミュラに任せておけば、金銭面の問題はどうにか、なりそうですね)


 そんなことを考えながらアウトメコンを歩く。

 

 そもそも、なぜメレストフェリスたちにお金が必要なのだろうか。

 わざわざ高い金を払って馬車に乗らずとも、メレストフェリスの召喚できる悪魔ならメレストフェリス達を人間の国まで高速で移動させることも可能なはずだ。

 それにはさまざまな理由が挙げれる。

 

 まずは道に迷う、もしくは目的地の座標からズレることを危惧しているからだ。

 メレストフェリスはこの付近の地理について全くもって無知であり、もしかするとメレストフェリスでは勝てないような存在が多数生息する場所があってもおかしくはない。

 だからこそ、メレストフェリスから見て、弱い種族である流種が通る道は、流種程度の存在しかいないことがある程度保証される。

 なのでメレストフェリスは馬車を使おうと考えているのだ。


 次に、目立った行動をとりたくないからだ。

 メレストフェリスの召喚できる存在のどれもが黒黒しいものばかりで、現状かなり目立ってしまうと考える。

 もし目立ってしまい、何者かに目をつけられたり、ゴルゴーラの邪魔をするなどもってのほかである。行動をするならなるべく慎重に行うことが大切だと、メレストフェリスは主人からそう教わっているのだ。


 他にも、国境を越えるための身分の保証や、金策のノウハウを身に付けるなどが挙げられるが、メレストフェリスにはそれらを越えるとある大きな理由があった。


 それは思い出。

 かつて主人と最初の旅をした時、メレストフェリスは行商の馬車に乗って街から街へと移動をしたのだ。

 全く知らぬ地に行くのは危険の伴う恐ろしいことだが、メレストフェリスはそれにも勝る思い出を持っているのだ。

 それに、お金を消費するというのは気持ちが良いと主人が言っていた。主人が気持ちいと言っていたことをメレストフェリス自身も感じてみたいのだ。


「…“金の切れ目が縁の切れ目“、でしたっけ。お金を使わないと、交流のしがらみを、失うんですよね」

 

 その言葉の意味は少し違うのだが、それを突っ込めるものなどどこにもいない。

 メレストフェリスは今後の予定を考えながら街を歩く。

 金稼ぎをする一番の理由は、メレストフェリスが主人との繋がりを求めているからだろう。


 


(…どこで情報を、あつめましょうか…)


 メレストフェリスは流種の体躯に合わせて作られた少し高い木製のベンチに腰掛け、ため息を吐いていた。


 メレストフェリスはアウトメコンでの情報の得られそうな場所は回っていた。

 

「宿に…もどりますかね…」


 そう呟いてみるが、まだ日は高く、なんとなく今動かなければ負けな気がして、メレストフェリスは頭を抱える。

 

 ぼーっとしますか。と言ってメレストフェリスは目を閉じる。


 メレストフェリスはこのようにぼーっとするのが結構好きだったりする。

 それは主人が“寝落ち”なるものでたまにぼーっとしていたことに起因する。

 メレストフェリスにはその行動の意味がいまいちわからなかったが、神の行いだ。何も無駄などないのだろう。


 しかし、そんなひと時は急に終わりを迎えた。


「ったく、人間臭いったらねぇぜ」


 耳に残る騒音。

 メレストフェリスは眉を顰めて目を開けた。


 金色の瞳に眩しい光と共に黒く大きな影が映った。


「人間のお子ちゃまはこんな昼時からおねむなのか? ガッハッハ」


 そう言って騒ぐ流種。しかし、メレストフェリスはこの流種と面識があるとは思えなかった。


「…ちょっと、静かにして、いただけますか」


「ハァ? 人間風情がこのオレ様にモノを申すとはなぁ。ーー何様のつもりだ?」


 口を大きく開き、妄言を吐く流種を見てメレストフェリスは(口が臭そう。いや、絶対くさい)と思った。

 まだまだ流種の口臭は止まらない。


「お前の…オマエ達のせいで、オレに臆病者の悪評が立ったんだ…。この上種にも引けを取らない力を持つオレ様がなあ!!」


「あの、あなたのことをまず、知りませんし、そんなこと言われても、わからないんですが…」


「…知らない? オレ様を知らないだと!! あの仕打ちをしておいて、このオレ様、グレイトス様を忘れたとでも言いたいのか!」


 グレイトス。そんな名前の流種がいたかどうか記憶の中を探ってみるも、メレストフェリスの頭の中に、この外見とそのグレイトスという名前の流種はいない。


「えっと、人違いじゃ、ないですか?」


「このガキッ…! 調子に乗るなよ!! アイツはどこだ! 死に薔薇の騎士を出せ! アイツを殺してこの鬱憤をなんとかするんだ!」


「えっと、死に薔薇の騎士って、フェルベールのことですか?」


「そう、フェルベールだ! ガキ、奴はどこにいるんだ」


 どこかメレストフェリスの知らない場所でフェルベールがトラブルでも起こしたのだろうか。しかし、メレストフェリスとフェルベールの二者を知った口振からメレストフェリスともあったことがあるのではないかと考える。

 しかし、やはりメレストフェリスはこの流種を知らない。もしくは覚えていない。


「…うるさいですね。そもそも、フェルベールが、あなたに何をしたと、いうんですか」


「忘れたなんて言わせねぇぞオイ! 狩人頭の前での恥をな!」


 狩人頭ーーエイレン・リスクと言えばメレストフェリスの嫌いな人間だ。

 その名前を出してきたということは狩人の集いの流種なのだろう。

 

(そういえば、狩人の集いでうるさかった流種が、いましたっけ)


「あの、そのことに関しては、エイレンさんが、悪いんじゃないですかね…」


 確かあの時はエイレンに提言をしたフェルベールを気に食わなかったこの流種ーーグレイトスがフェルベールとメレストフェリスにつかみかかろうとしたところをエイレンが脅して止めた、と記憶している。

 そしてこの流種が笑われているのはエイレンに脅されるようなことをしたためであり、フェルベールとメレストフェリス、エイレンにはなんの罪もない。


 鉱夫が掘った穴に賊がを漁夫を狙って勝手に入り、転んで怪我をしてそれを穴を掘った鉱夫が悪いと賊が勝手にキレているのと同じで、もはや完全なとばっちりである。


「狩人頭は…とにかく、調子に乗って名乗り出したオマエ達が本来、オレ様に罰を与えられるべきだったんだ!」


 メレストフェリスは深く被ったフードの中で露骨に顔を顰めた。

 どうやら、エイレンにも怒りはあるがあの戦いを見た後、エイレンには敵わないと理解したために迂闊な真似をしないのだろう。

 それに比べてメレストフェリスやフェルベールはあのモラクスとの戦いでは表向き何もしなかったーー流種からしてみれば逃げたーー臆病者だ。無論、目の前にいるグレイトスという流種も尾を股に挟んで怯えていたのだが、とにかくグレイトスは臆病なメレストフェリスとフェルベールに鬱憤の捌け口を求めたということなのだろう。


(…レベルは、63、流種の中では、それなりですね)


 63レベル程度であればフェルベール単体で余裕で勝てる程度の存在だ。

 このようなゴミは基本的に死んでも誰も悲しむことはなく、むしろ周囲にメリットを呼ぶことが多い。


ーー殺しましょうかね。


 一瞬で殺せる。この程度の存在は瞬きの間に完全に殺せる。しかしーー


(周りの目が、集まってきましたね…)


 街ゆく流種たちが立ち止まり、グレイトスとベンチに座る小さき者の角付き合いを見守っていた。


「オイ…無視をするなよッ人間!」


「あの、フェルベールは、あっちにいるので、えっと、あっちに行きませんか」


 そう言ってメレストフェリスは適当な方向を指差した。指の先には特に行った事もない店が構えており「皮革製ドレス商」と書かれた看板が置いてあった。


「…えっと、この店のもっとあっちです」


「お、オウ」


 さすがにフェルベールがドレスの専門店に足を踏み入れることはない。もちろんメレストフェリスが命令すればいくらでも足を踏み入れるだろうが、何も命令していない今、フェルベールがあの店にいるのは確実にあり得ないことなのだ。

 そのことにグレイトスも気がついていたようで、若干の困惑を見せながらもついて来ることに了解の意を示した。



前話から2ヶ月も経過していたんですね…。今回は三千字超えております。次話の投稿はもっと早くできならいいなぁ(*´ー`*人)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ