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三十三話 神の器と危機

やっとメレストフェリス視点です。



 メレストフェリスはエイレン・リスクと悪魔モラクスの激闘の一部始終をフェルベールの肩の上で見ていた。

 結果から言うと驚愕の一言だった。

 エイレンとかいう人間の雌が持つ力はメレストフェリスの知るものでは無かったのだ。


 エイレンという人間は最初こそ挑発をして相手を自分のペースに乗せようとしていたが、逆にモラクスが強みである頭蓋の硬さを利用したカウンターでエイレンに攻撃を加え、徐々に均衡が傾きモラクスに勝利がもたらされると思った矢先、それは起きた。


 メレストフェリスはその事実に気がついた瞬間、「うぇ!?」という普段と桁の外れた声を漏らしてしまった。

 その後起きた奇跡の大逆転ももはやどうでも良いほどに、その事実はメレストフェリスを驚きの境地へと連れ去ったのだ。


「…あの、モラクスの装備…。<ボルケーノアクス>ですよね…」


 ボルケーノアクスといえば、メレストフェリスが主人と共に<カオの大火山>のボス、<溶岩竜ガボエラ>を討伐した際に入手したレアドロップである。


「もしかして、この世界にも、前の世界のものが存在する…?」


 とりあえず、見比べて見て、本当にボルケーノアクスかどうかを確認しないと。と言ってインベントリを探ると、メレストフェリスは気が付いてしまった。


 手を伸ばしたインベントリの一部が“空”になっていたのだ。


 メレストフェリスはめまいすら覚えた。

 この中に保管されたすべてのアイテムは敬愛する主との思い出と努力の輝かしい結晶である。


(…なんで、ないの…)


 メレストフェリスの持つインベントリは内包されたアイテムが勝手に溢れでることなんて決してない。世界が変わったことで変化がなかったとは言い切れないが、感覚的に、絶対に外部からの干渉ができないとわかる。

 しかし、アイテムが減っている現状。メレストフェリスは必死に頭を回転させ、現状を一度見つめ直すことにした。


(モラクスがボルケーノアクスを所持していて、それを見比べようとインベントリを見て……。あれ、なんでモラクス如きがボルケーノアクスを? まさか…)


 メレストフェリスの脳は少しずつ解答へと近づいていった。


「盗まれた…? 主様との大切な武器が盗まれた? 誰に?一体誰に??」


 メレストフェリスはこの世界に来て初めて大きな憤りを感じた。

 

 モラクスをフードの中から睨む。

 モラクスが押され、このままでは死ぬことがわかった。


「…許さない」


 メレストフェリスはインベントリから<死に損ないの不朽杖>を瞬時に取り出し、フェルベールの肩の上で詠唱する…


「神域“宇宙”魔術ーー<リモノン・ルーシセス> 神域神秘ーー<贖罪の右脚> あの2つの個体に、超域呪詛ーー<昏睡の女霊>」


 テレポートと状態異常無効と眠りの呪詛。同時に3つもの高位の術を発動し、メレストフェリスはフェルベールの肩の上から姿を消した。

 次の瞬間、メレストフェリスは呪詛で眠りについたモラクスとエイレンの元へと転移し、更に。


「…神域“宇宙”魔術・マルチスペルーー<リモノン・ルーシセス>」


 こうして、牛頭の悪魔と、赤髪の人間が造形したクレーターから、生体反応は消え去った。








 反射的にメレストフェリスが飛んだのは、かつてマヨ・メコンで過ごしたスラム奥の地下室だった。


 メレストフェリスは敵対反応がないことを確認し、後ろに横たわる2体に目をやった。

 

ーー赤髪の人間、エイレン・リスク。

 神を否定する愚かな人間で、モラクスに勝る力を持つこの世界では強い部類に分けられる者。


ーーモラクス。

 牛顔の悪魔で、メレストフェリスの武器を盗んだ可能性のある警戒すべき輩。


(でも、眠りが効いている時点で、モラクスが私の目を盗んで、インベントリからボルケーノアクスを取れるとは、到底思えませんね)


 しかし、他者の犯行があり、その者からもらった可能性も考えられるので尋問は行う。


「…スキルーー堕天地の…んー、保険をかけて生贄召喚にしましょうか」


 メレストフェリスはインベントリからこのマヨ・メコンで集めた大量の死体を隣の小部屋に出した。

 山のように積まれた死体はまだ新鮮な血を垂れ流しており、まるで今、この場で大量虐殺が行われたかのようだった。


「…死儀式の鼎も置いて…。スキルーー死儀式の鼎ーー<堕天地の門・デモン=アメミット>」


 死体の山が弾け飛び、血の雨が降るかと思えば 大量の血雫は死儀式の鼎の上に集まっていき、少しずつ何かの形を形成していく。

 歪な形から、徐々にそれは顕現した。


「あー、えっと。お呼びに預かり光栄です。アメミットと申します」


 そう言って跪くのは金色の鱗を全身に纏った巨大な鰐だった。しかし普通の鰐とは違い、長い手足と細い胴体。そして、どこか人間にも似た知性のある顔立ちをしていた。

 跪くために手に持っていたであろう、金色の杖には2匹の蛇が巻きついた細工が施されており、その精巧さから今にも動き出しそうだった。


 アメミットのレベルは350の術者で、以前召喚したフェルベールよりもレベルが高い。


「えっと、まずは神秘行使で、周辺の警戒を、行ってください。それと、共に尋問をしてもらいますね」


「はっ。高域神秘ーー<大海の瞳>」


 大海の瞳は使用者に範囲の感知能力を授ける神秘である。アミメットは自身に範囲完治能力が備わったことを確認してから、先に部屋を出ていったメレストフェリスを追った。


 メレストフェリスはモラクスに高域呪詛ーー<棘龍の尾>を使用し、眠った状態の上、更に行動不能の効果をかけていた。


「…さて、アメミットもきたことですし、尋問を始めましょうか…とその前に、アメミット、モラクスの横に落ちている斧を拾っておいてください」

 

 承知したと頭を下げた後、斧を拾うアメミット。もしかしたら武器になんらかの呪いが掛かっていないかを警戒しての行動だったが、杞憂に終わったようだった。


 回収を見届け、アメミットから<ボルケーノアクス>を受け取ったメレストフェリスは自分のそばに一度斧を置き、先ほどから握っていた<死に損ないの不朽杖>を両手で上に掲げ、眠ったまま拘束されているモラクスの硬い頭部に振り下ろした。

 様々な思いの乗った一撃はエイレンとの戦闘で傷だらけになったモラクスに、最も大きな傷をつけた。


『ンブモォ!』という声と共に目を覚ましたモラクスはメレストフェリスを見て何故か怯え、叫び暴れようとした。


「…うるさい、です。中域呪詛ーー<腐り果てた舌>」


『モオオォォォ ォ ォ…』


 声が強制的に小さくなる呪詛がかけられたモラクスは拘束され、身動きが取れなくなり、声も出せなくなるで何もすることができず、流石に諦めて大人しくなった。


「…それで、いいんです。まず聴きます。あなたが持っていた斧…<ボルケーノアクス>は誰の、ものですか?」


 モラクスは牛の顔に汗を滲ませていたが、たいした反応をしなかった。


「えっと、何か反応を、ください」


 しかし、モラクスはなんの反応も示そうとしない。

 呆れたようにメレストフェリスはアメミットに命令を下す。


「はぁ…。アメミット、傀儡に、してください」


「はっ。高域呪詛ーー<義手人の木偶>」


 傀儡化の呪詛をかけれたモラクスだったが、体力が減っている状態で更に拘束までされているので、すんなりと傀儡となった。

 傀儡となったものは目が半開きになり、薄気味悪い印象を持たせる。


「…それで、あの斧はあなたのですか?」


 メレストフェリスの問いに対してのモラクスの答えは首を横に振る結果となった。

 つまり、モラクスの斧ではなかったということだ。

 尋問は更に続く。しかし、ある問題点がメレストフェリスを大いに困らせる。


「…言葉が喋られないって、こんなにも、不便なんですね」


 そう。モラクスはメレストフェリスの知る言葉をしゃべることができないのだ。なので、肝心な誰から借りた、もしくはもらった斧なのか見当がつけられなかったのだ。

 精神力は無限ではない。一刻も早く情報を聞き出す方法を考えねばと思っていた矢先、それは起こった。


「ーーえ?」


 メレストフェリスは自分の目を疑った。

 なんと先ほどまで地面に寝転がっていたモラクスが消えたのだ。それも、なんの前触れもなく。

 死んだのなら何かしらのエフェクトないしは死骸が残るはずだし、拘束に傀儡化までされたあの状況から逃げ出すのは不可能に等しい芸当である。


「えっと、アメミット、今何が起きたんです…?」


「…私にもわかりませんでした。…ただ、突如としてまるで“この世界に存在していなかった“かのように消えたとしか…」


 どうやら、アメミットの感知にも何も引っかかった様子はないらしく、メレストフェリスは困惑する他なかった。

 

 次の瞬間、メレストフェリスは大きな不快感を覚える。それは何かを抑制されたような感覚で、その不快感の正体にメレストフェリスが気がつくのはすぐのことだった。


「え…。テレポートが、使えない…?」


 メレストフェリスは驚きに打ち震えた。

 あっちの世界ではカンストレベルである900レベルのメレストフェリスは術者構成ゆえに、術などの耐性値がかなり高くなっている。

 そんなメレストフェリスからテレポート権限を剥奪するなど、前の世界でもカンストした純術者でないと厳しいことだった。

 

 メレストフェリスは安心して油断してしまったのだ。

 気の緩みが警戒を怠り、強者の発見を遅らせてしまったのはもはや間違いのない事実である。


 全身を嫌な汗が伝う。

 先ほどまで感じていた不快感は、より一層ひどくなり、胸騒ぎへと変化していった。


「…アメミット、来ます。壁に入って、ください」


 唯一の出口、地上への架け橋である階段の方角から何者かが向かって来ているのがわかる。

 メレストフェリスはその気配を察知してアメミットを壁、肉壁とするために前に立たせたのだ。

 地下室の温度が急激に下がったような気さえする。

 それほどまでにメレストフェリスは階段から現れるであろう者に警鐘を鳴らしているのだ。


 両手で杖を構え、いつでも魔術の行使ができる体制をとる。

 向こう側の扉が開くのは後5秒ほどだろうか。

 

 恐ろしく長い5秒。

 メレストフェリスはどんな者が現れても対応のできるよう、呪術、魔術、神秘の厳選を行った。


 今回は少し長めです(*´ー`*人)

(遅くなった罪滅ぼしと思ってくださいまし…)

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