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二話 神の器は魔術を行使する




 豚が去った後、少女は再び一人となった。


 長い時間をただ一人、樹の上でこの世界がどのような世界なのかを考える。

 しかし、延々と答えの出ないまま、日が見え始めた。

 日が見えると言っても、太陽、いや、太陽のような物の位置は変わっていないため、どこから光が来ているのかはわからないが、少女の中にある常識に当てはめるのであれば、これは日の出なのである。


「ん…。陽の光が…暖かいなぁ」


 少女の知る中で最も暖かいものは既に失われた。それを埋めるにはまったく不十分ではあったものの、その陽の光は少女の虚無を少しだけ満たした。

 

「あ…」


 少女は思い出した。ある世界では陽の光を浴びると火のダメージを負ったことを。

 しかし、この世界の陽の光は傷をつけるどころか、心の傷を癒してくれた。


「ほぅ…」


 その安心感に小さくため息を吐き、樹の枝から苔むした地面へと飛び降りた。

 高さが10メートルほどあったが、苔の上に降りた為か怪我などは一切見られず、被害は足の下で潰れた苔だけとなった。


「んっ…。昨日と重力の変化は…ないよね?あ、そういえば」


 少女はふと思い出したようにインベントリを開き、自分の愛用している杖を取り出す。

 130センチの自身の身長を上回る、150センチはある杖で、黒く腐ったようにも、朽木のようにも見える、しかし立派な杖だった。


 その杖を少女は片手で一度振るう。


「んしょっ。能力値に、変わりもない、かな?」


 少女は振り下ろした杖を次は両手で構え、前に突き出すような形をとった。

 そして固まる。


 果たして魔術形態は変容していないのだろうか、と。

 以前いた世界では、魔術は、低域・中域・高域・超域・神域といった順列があり、低域から神域にかけて強い魔術で、MPの消費も増え、魔術を使ったのち、再び魔術が使えるようになるまでの時間ーーチャージタイムが伸びるという特性を持っていた。果たして、形態は同じなのだろうか。


 何度か思考を巡らせたのち、決心がついたのか、再び構えの姿勢をとる。


「えっと、低域魔術ーー<ウィグリ>」


 その瞬間、少女の構える杖から視認できない風の塊が少女から見て真っ直ぐ、滑るように飛んだ。

 風の塊はその進路にある樹に当たり、樹を抉りながら掻き消えた。


「…MPの消費は…大丈夫。威力も…問題なし」


 手をグーパーグーパー、足をぶらぶらさせ、首を揺らし、何かを確認するように少女はそう呟いた。

 いや、これは確認だ。

 世界によって、MPの消費が異なると言うのは聞いたことがなかったが、知らない世界ならそんなことがあってもおかしくはない。

 しかし、そんな考えも杞憂に終わった。

 

 少女は三度杖を構える。

 そして、今から長い言葉を言うかの如く、息を深く吸い込んで言葉を発した。


「ふぅ…。ーー中域魔術・チェインスペルーー<ドルドシス>」


 再び少女の構えた杖から姿を現したのは先ほどとは違い、人の頭ほどもある石ーーいや岩というべきか。

 それが一つ、先ほどよりもゆっくりと、しかし、先ほどとは比べ物にならない破壊力を持って飛ぶ。

 一つ目の岩が飛び始めたと共に、同じ大きさの岩が再び杖から現れ先ほどの岩を、追尾するかのように飛んだ。


 手前の岩が風で抉れた樹の下部にめり込み、それに追撃を加えるように後ろの岩が前の岩に激突し、樹をさらに抉った。

 岩の進行が終わった頃その樹木は大きな音と共に倒れた。


「お、おっきな音が出ましたけど、チェインスペルも、問題なさそうですね」


 魔術に大した変化がないことを確認した少女は、安心したように「ほぉ…」っと息を吐いた。


 そこで、ある閃きが少女に浮かぶ。

 それは転移魔術を使えば、元の世界に戻れるのではないか、というものだ。


 少女はまた杖を構え、転移の失敗を無くすために自身ができる最高位の転移魔術を行使した。


「えっと、神域魔術ーー<ルーセシスゲート>。贄山羊の神殿」


 詠唱するも何も起きず、更にはMPの消費までなかった。それすなわち、魔術の行使失敗を意味する。

 

 少女の頭の中に、魔術の行使失敗という事実が届く。その失敗原因は"贄山羊の神殿"という物は存在していないという事だった。

 

 少女はその事実に膝を折り、咽び泣いた。






ーー少し時間が経ち、少女はなんとか落ち着いた。


 濡れたまつ毛を乾かす間もなく、さまざまな魔術を試しに行使する。

 その結果一部の転移魔術を除いて、ほとんどの魔術は使えることがわかった。それも以前いた世界と遜色なく。

 しかし、ほとんどの魔術が使えたからといって現状を打開することは難しい。

 少女が行使できる魔術は決して万能ではないのだ。


「と、とりあえず、樹林の出口を探してみますか…」


 まだ日は高いーー太陽のようなものは動いていないようだがーーならば、樹林から出るために歩くことこそ、今少女ができることだろう。


 少女は環状の太陽のようなものに向けて力強く歩き出した。


 自分の考えていることを文字に起こすってめちゃめちゃ大変で、脳足りんな私には難しい作業に感じてしまう…。(デモタノシイ…)

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