二十五話 神の器と馬鹿
ーー狩人の集いに息も絶え絶えと言った様子で駆け込んできた流種。
あの後、狩人の集いではその流種の持ち帰った情報を基に討伐隊を組むこととなった。
話の中心にいるのは常にあの赤髪の人間だった。
「まず、竜が狩れるチームはこのアウトメコンに幾つあるのだ…? できれば無駄な死を避けたい…。できるだけ強いものが手を貸してくれると嬉しいのだがな」
強さが竜と並ぶと聞いた赤髪の人間は早速竜を想定した戦力を集めることに集中し始めたようだった。
その声に応える声はロビーにいる無数の流種の中からいくつか聞こえる。
「オレ達、星峠の隕鉄なら竜なら狩れると自負している」
最初に名乗り出たのはガタイの良い毛がメレストフェリスの髪と似た色ーー紺色ーーをした流種だった。
「ふむ。星峠の隕鉄か。確かに貴様らなら竜にすら勝てそうだな。他にはいないのか? 流種とは生まれながらの強者なのだろう?」
先ほど弱い者はやめておけと言ったはずだが、人間はそんなこと気にもしないように流種達を煽る。
そんな煽りを無視できるほど流種達が寛大でないことは人間はよく知っているようだった。
「お、俺たちもでるぞ」「ふん、オレもでる」「おまえいけよ。俺はいかん」
そんなふうに見事に釣られた流種達は我よ我よと身を乗り出した。
それを見て困ったように人間はため息を吐くのだった。
「私は貴様らのほとんどが名乗り出てくれて嬉しいよ…。さて、そこの薔薇の騎士よ。貴様ももちろん来るのだよな?」
その言葉には幾らかの圧があったが、もともとメレストフェリス達はその悪魔遠征について行くつもりだ。
「…あぁ」
薔薇の騎士は感情を表に出さない返事を赤髪の人間に返した。ただの人間がやれば、無愛想で無礼であるが、妙に様になっているのがフェルベールという者だった。
その後、メレストフェリスの知る限りのモラクスの情報を適当に狩人の集いに渡した。
それは、レベル的にすぐモラクスに殺されるだろうという勝手な思い込みからだ。
「なるほどな。一応そのモラクスとやらの力は理解したが、念には念を入れて二倍の力があると想定しておこう」
実際の強さがわからないので、得た情報の二倍の強さを想定するのは悪いことではない。もし、得た情報よりも実物が強かった場合、そのさらに上をいく想定をしていれば対処ができる。
メレストフェリスはこの人間の雌は情報を重んじるタイプだど推察し、少しだけこの人間に対する危険度を上げる。
フェルベールの情報がどこかから出回った場合、面倒くさいことになるのは目に見えてわかっている。
「最後に…ルヂの村へは集いの馬車で赴くのだが、その際のチーム分けを行う。…今回はそうだな、効率を求めて二頭立ての馬車を六台だな。それならば勇敢な狩人達を全員送れよう」
赤髪の人間はメレストフェリスが警戒しているなどと思いもせず、チーム編成を始めた。
九十匹ほどの流種の狩人がそれぞれのチームを組みどの馬車に乗るかを選びに行き始めた頃、最大限に暇していたメレストフェリスと、その横で無言で立つフェルベールに近寄る影があった。
「オイ人間、少し知識を持っているからと言って偉そうになぁ。ーー調子に乗るなよ?」
そう言ってフェルベールにガンを飛ばしてきたのは、当たり前だが流種だった。
メレストフェリスはその流種の臭そうな口から漏れる絶対に臭い息を想像し、深く被ったフードの中で顔を顰めた。
そして、難癖をつけられた本人はというとーー
「…あぁ」
と感情のない空返事をなにかに怒る流種に返した。しかしその行動が火に油を注ぐ行為だとフェルベールとその召喚主は分からなかった。
「オイ! ナメているのか? …このオレはこのアウトメコンでも有数の、それも上種に届くとも言われる"星峠の隕鉄"のリーダーであるグートドン・グレイトスだぞ?」
まるで誰もが自分のことを知っているかのような口振りで、大口を開け、臭い唾を飛ばしながらフェルベールに流種ーーグートドン・グレイトスは言う。
しかし、メレストフェリス達は異国者いや、異世界者だ。
こんなゴミ一匹、知っているはずもない。
「あ、あの、今から悪魔と戦うのに、ここでそういうのって、馬鹿みたいって、思うんです」
これから流種が一方的に始めるであろう喧嘩を収めるためにメレストフェリスは精一杯考え出した仲裁の言葉を流種に投げかける。
しかし、その言葉を聞いた流種はフェルベールに向けていた威圧を含んだ視線をメレストフェリスに向けてくる。
「…馬鹿だと…? 流種の中でも有数の力を誇るこの、このオレが馬や鹿風情と同じだとオオ!?」
そう言って流種はゆっくりとメレストフェリスににじり寄ってくる。その手はメレストフェリスを掴もうと開かれていた。
結局、メレストフェリスも火に油を注いだだけだった。
今日も投稿できました!
明日も投稿できたらなぁ(*´ー`*人)




