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二十四話 神の器は馬車であくびを噛み殺す

 




 屈強な馬が二頭、それぞれの蹄が音を立てて荒れた大地に土煙を蹴立てて走る。

 二頭の後ろに控えているのはそれまた大きな箱だ。

 箱の前面には御者席があり、狼頭ーー流種が座っている。

 

 よく見れば似たような、いや、全く同じ物ーー馬車が六つあった。

 全ての馬車は一様に、北西に頭を向けている。





ーー前から二つ目の馬車。

 

「貴様、フェルベールと言ったか。まさか本当に悪魔遠征に付き合ってくれるとはな。…どうやら貴様、見た目とは似つかずよほどのお人よしと見えるな。フフ」


 不的な笑みを浮かべながら深い茶色のウェスタンハットを被った赤髪の人間が対面に座する薔薇の騎士に向けて言う。

 それを横目で見ている紺色の髪の少女は煩わしいという感情を無垢な黄色の瞳の奥に隠した。


「…そうか」


「あぁ、貴様はお人よしだ。まさか、誰もが嫌がる高レベルの悪魔と遭遇するかもしれない遠征に、自ら進んで参加したいなどと抜かすのだからな」


「…悪魔には興味がある」


 興味はある。しかし、進んで参加したいなどと言った記憶はない。

 まぁ、よくある誤差の範囲内だろう。


「ふむ…興味とな。…貴様はどこでそんな知識を得たのだ? しかもその鎧、並の騎士ではないのだろう?」


 フェルベールは至極適当に、しかし本当のことのように話す。


「…昔、悪魔の跋扈する国を滅ぼした。それだけだ。…鎧に関しては話すことができない」


「訳あり…か。横の娘といい、お前達はなかなか面白いな」


 二者の会話を聞き、メレストフェリスはあまりの退屈さに出そうになったあくびを噛み殺す。


「娘…メレストフェリスだったか。…貴様は肝が据わっていると見える。今まさにあくびを噛み殺しただろう? 大悪魔と遭遇するかもしれないのに随分と余裕なのだな」


 人間の女はメレストフェリスに目を向けてそう言った。どうやら、あの人間はメレストフェリスがあくびを噛み殺したのがわかったそうだ。


「えっと、その。…最近、移動ばかりで、眠れていなかったので…」


 そうメレストフェリスが答えると人間は「ふーん」と興味なさげに相槌を入れてきた。

 最初からメレストフェリスと会話をするつもりはなかったのだろう。

 事実、もうすでにメレストフェリスは人間の視野の外だ。


「それで、フェルベール。貴様はどの国の出身なのだ?」


 なんの悪意も邪もないそんな質問は馬車の空気の温度が急激に下がらせるのには十分過ぎた。しかし、そう感じているのは一名のみなのだが。


 そう。メレストフェリスはその質問に対する回答を持ち合わせていなかったのだ。

 簡単な質問に見えて今後の設定を決める大きな分岐となり得る質問だ。

 もしかしたらここで、異郷者ないしは異世界者だと疑われて何かされないとも言い切れない。

 最適解を求め、メレストフェリスは頭を必死に働かせる。


(ど、どうしたら…。まだ、この世界の、人間の国の名前を、知りません。んっと…えっと…なんて、答えたら、いいのかな…)


 そんなメレストフェリスが導き出した答えは嘘でもなく、しかし本当でもない答え方。

 メレストフェリスはフェルベールに命令する。


「…マーレストーブ。出自はマーレストーブだ。かなり遠方の…もう存在しない場所だ」


 そう、フェルベールが人間に向かって言う。

 フェルベールが出した場所は、メレストフェリスの知る"前の世界の人間の国"の名前だ。

 この世に存在はしないが、別世界に確かに存在する国。もう戻ることはできないが思い出すことはできる国だ。

 これこそがメレストフェリスが考え出した最適解。

 ある程度の情報はあるので話が矛盾しないはずだ。それと、もしこの名前の街があった場合、この世界に前の世界の物があるということにもなる。

 もしかしたら帰る手掛かりにつながるかもしれない。そんな希望も少し孕んでいた。


 フェルベールの言葉を聞いた人間は沈黙し、頭をひねる。

 その後、口を開いた。


「…マーレストーブ、か…。この私、狩人の集いの狩人頭であるエイレン・リスクが知らぬ国などほとんどないはずだが…? それともなんだ、私の出生より先にその国は滅んだとでも?」


 知っているかもしれないと少しの希望を抱いて投げかけた言葉に対する言葉は要するに、知らないの一言だった。


 若干の落胆。しかしそんなことを気取られないようにフェルベールにすぐさま命令を飛ばす。


「…あぁ。少しーーいや、かなり昔に滅んだ国だ。三体のガーゴイルが城壁から見下ろす、そんな国だったと記憶している」


 これは、いや、これも本当だ。

 マーレストーブにはガーゴイルと呼ばれる守護者が三体もおり、攻略する際邪魔だったことを思い出す。

 

(たしか、睡眠に弱くて、呪術で眠らせて、侵入するんですよね)


 そういえば呪術を使ってきた巨頭のことも調べないといけないとメレストフェリスは思うのだった。


(なかなか、忙しくなりそうです…)


 

 メレストフェリスがそんなことを考えていると、人間がまた適当な相槌を打つ。


「ふむ…。しかし、いや、この話は今はどうでも良いな。ひとまずモラクスとやらの話を詳しく聞かせてくれ」


 しかしその相槌にはなにか引っ掛かる点があったらしいがメレストフェリスは勤めて無視をする。

 相手から無駄な会話を終わらせてくれたのだ。わざわざ再びこちらが不利になる可能性のあることをする必要もない。


 人間とは至極面倒くさい生き物だ。メレストフェリスは基本的に自分の意思に沿って動かないゴミが嫌いだ。

 そして、嘯くことの好きな目の前の人間はその最たる例だった。


 そもそも何故こんな妙な面子になったのだろうか。

 それは少し遡るーー



 会話を書くのが難しい…でも楽しい…。

 さてさて、そろそろ忙しくなりますので投稿頻度が落ち込むやも…。

 少なくとも週3回以上を目指して頑張りたいと思います。(*´ー`*人)

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