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二十三話 悪魔と赤髪の人間







「…私はその悪魔の特徴と一致する悪魔を知っている」


 メレストフェリスの乗っていない方の腕ーー左腕を上げながらフェルベールは低い声でそう言った。


「ん…? 貴様は…人間か。ふむ、アウトメコンで人間を見るとは珍しいこともあるものだな。…して、薔薇の騎士よ。貴様はかの悪魔を知っていると言ったな」


「…あぁ」


「ならば今、もしくは後程話してくれ。悪魔と戦闘するのとそこらの魔物を相手取るのとでは大きく違うからな。戦力も知らぬまま未知の悪魔に挑むのは、まさに愚かと言える」


 人間はそう言いながら自分の言葉にうんうんと頷いた。まるでこちらの話したいことは話したと言わんばかりに。

 流種達が二人の話を聞き逃すまいと必死に耳を傾け、次の話を聞くために薔薇の騎士を見る。

 ならば、次はこちらの番なのだろう。


「…先に言っておく。その大斧と牛頭、そして黒いという点からモラクスという悪魔が該当する」


「モラクスとな。ふむ。私は知らぬ名だ…。続けろ」


「…モラクスはレベル120ーー下手な竜種よりも強い悪魔だ」


 そうフェルベールが言った瞬間、ロビーに騒めきが再び起こる。

 それもそのはずで、この場にいる流種の最高のレベルの狩人でさえレベル63なのだ。

 まあレベルという表し方はこの世界の者たちにはわからないのだが。

 だからこそ竜で例えたのだ。


 竜といえばどの世界でも大敵として名を轟かせ、恐れられる最強にして最悪の生物だ。


「貴様…本気で言っているのか…?」


 人間が訝しげにフェルベールを見つめてくる。

 しかし、全くもって変わらぬ平坦な低い声でフェルベールは言葉を返すのだった。


「…あぁ」


「竜と言えば、一匹でも小国程度なら滅ぼしてしまえる存在だそ? にわかには信じられんな」


 あまりにも信ぴょう性のない話に赤髪の人間は疑いの目を向けるが、これは紛れもない事実であり、嘘はついていない。

 しかし、このままでは信じることを疑い、話が迷宮入りしてしまうかもしれない。

 そう思ってメレストフェリスは半ば無理やり納得させる方針をとる。


「あ、あのっ、多分本当なので、信じてほしいなって、思うんです」

 

 半ば無理やりというのは、数の暴力で押し切るということである。

 2対1の状況を作り、より信じるように誘導したのだ。

 その誘導に赤髪の人間が乗ったかは定かではないが、赤髪の人間は口を開く。


「子ども…か。ふむ…しかし、竜ほどの相手、信じられるのか?」


 狩人の集いのロビーが「ルヂの村が壊滅」「敵は竜並」などといった単語でざわざわと騒がしくなってきた頃、既視感のある開け方ーー入り口の扉が勢いよく開けられ、息を切らして入ってきた流種が言の葉を並べる。


「ッまずい! はぁ、せっ、斥候として出ていた、狩人達がほとんど、あの、悪魔に見つかって殺されッ…はぁ」


 それを聞いた人間は声を荒げる。


「なッ…隠密に優れた精鋭ではなかったのかッ!ーーそれで、その悪魔は今どこに」


「は、はい。かなり離れてルヂの村にいる悪魔を見張っていたんですが、なぜかバレてしまいまして…。あ、悪魔は未だはルヂの村の中ですが、いつ村から離れるかわかりません…。アウトメコンは真種様がおられるとして、他の街に悪魔が行ったとなれば…。至急、討伐隊を派遣してください」


 その言葉に人間は顔を右手で覆うような仕草をする。


ーーその手の内に苦渋に歪む顔ではなく、満面の笑みがあったことは誰も知らない。


 落ち着いた人間が手を挙げて命令をする。


「フフ…。竜か…。さて、集いし狩人達よ、この狩人頭、エイレン・リスクの名において命ずる。必ず悪魔モラクスを討ち取るぞ! 敵は強大かもしれん。しかし怯むな! 牛の首などもいでくれてやれ!」


 流種達は一斉に雄叫びをあげ、急いで動き始めた。とても統率の取れた動きだ。

 どうやら、このような緊急事態は日常茶飯事とまでは行かずとも、よくあることらしい。


 メレストフェリスとフェルベールはそれをただのんびりと眺めながら声を漏らした。


「あの人間、偉い人だったん、ですね」



 今日はいつもより少なくなっちゃいました…。

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