二十二話 神の器は狩人の集いを視察する
ーー狩人の集い。
狩人の集いは騎士団と同様、武力で成り立つ団体だが、大きく分けて2つの違いが存在する。
ーー1つ目に、騎士団とは違い、国の意思ではなく、個人の意思が集い内で最も尊重されること。
国が出す命令に沿って動く騎士団と、様々な出所からやってくる依頼を自分で選んでこなす狩人。報酬も国からではなく、依頼主から出るようになっている。また、国からの依頼も受けることもあり、その場合は国から報酬が出る。
国を守るためではなく、主に自分の生活のために剣を抜くのだ。
ーー2つ目が、騎士団は他種族や同種、魔物など幅広く戦闘全般をこなすことができることに対し、狩人は言ってしまえば魔物専門だ。騎士団に比べて腰の軽い狩人は魔物の発生にいち早く駆けつけ対処できる。
このように、狩人の集いは騎士団にできないことをこなせるため、アウトメコン国内においてかなり重要な立ち位置にあるのだ。
そんな狩人の集いの本部はアウトメコンの南側に存在していた。
メレストフェリス達は狩人を尾け、その場所を割り出した。その中で、狩人達が言っていた「緊急依頼なら報酬ははずむな」という言葉から、どうやらなにかしらの依頼を受けて金銭を得るための機関となっているということもわかった。
もしかしたら金銭問題が解決するかもしれないとメレストフェリスは考えるのだった。
狩人の集いは大きな木造の建造物で、出入り口から無数の流種が入っていくのが見えた。
(そ、想像以上に、流種がいるんですね)
そう。狩人の集いはとても大きな組織なのだ。それすなわち、様々な情報を有しているということ。
(入ってみたいですけど…。たぶん、むりだよぉ…)
狩人の集いの前には二匹の流種が扉を守るように眼を光らせている。
(でも…。やらずに、後悔するくらいなら、やってから後悔、したほうが良いって、いつかの主人も、言っていましたっけ)
メレストフェリスは決意したような顔で一歩前へと歩き出した。
その顔ば堂々としていて、まるで当たり前かのように狩人の集いへと進んだ。
「お、おい。人間の騎士…? が狩人の集いに何の用事だ?」
異質な二人の雰囲気に気圧された扉を守護する流種がおっかなびっくりといった様子で話しかけてくる。
「…私はフェルベール。死に薔薇の騎士だ。この子はメレストフェリス。私の娘だ」
フェルベールがそう答え、適当にここにきた理由を考えたメレストフェリスが口を開く。
「えっと、私たち、お金稼ぎのために、狩人になろうかなって、思うんです。それなりに、腕も立ちますよ」
メレストフェリスがそう言うと、流種はどこか納得したように頷いた。
「旅人か。人間って言うのは珍しいが、たぶん狩人にはなれると思うぞ」
「あぁ、この扉を入ってまっすぐ行けば受付だ。まぁ、今は色々忙しそうだから落ち着いてから話を通すといいさ」
そう言って、親切に手順を教えてくれた流種二匹は「通ってよし」と言わんばかりに顎で指した。
一礼をしてからメレストフェリス達はその扉に入る。
「えっと、外観通り結構、中も広いんですね…。というか、流種多すぎです…」
大体500人は入れそうなロビーの横には高座が設けられており、その壇上の流種に向かって下座にいる流種達が立っている様は威圧さえ覚えた。
流種達の多く集まるこのロビーは強い熱気に包まれている。
「演劇でも、やっているんで、しょうか?」
普段ならかなり目立つはずのメレストフェリスやフェルベールが真後ろにいても殆どのものが視線を向けないほどに全ての流種が前にある高座に釘付けになっていた。
メレストフェリスはそんな流種達の視線を鷲掴みにする物が気になり、意識を耳に向ける。
「ーーが出たってよ」「よりによって騎士団のいないこのタイミングでか」「アイテムの残りを朝確認してーー」「それほど強い悪魔なのか…?」「少し前に噂で流れた、囚徒の森ベルの砦を落とした個体かもしれなーー」
どうやら、騒めきの話のさわりは悪魔が見つかったことに起因しているらしい。
メレストフェリスは焦る。
(えっ…もしかして、見つかって、しまいました…? ここにあっさりと入れたのは、閉じ込めて、退路を断つため…?)
そう考えると、そこらじゅうに居る流種達が何か企んでいるのではないかと思えてくる。
(ど、どうしたら、いいんでしょう…)
思わず後ずさる。
もう流種達は気がついているのかもしれない。
背中に冷たいものが流れ頭が真っ白になりかけた時、女の力強い鋼を打つような声がロビー内に大きく響いた。
「鎮まれ!」
その声を聞いたもの達は動きを止め、高座を見つめる。
それはメレストフェリスにとって救済だった。
「今より、緊急の報告と今度の方針について語る」
メレストフェリスはそんな、自分を守ってくれた声の主を一目見ようと、フェルベールに肩に乗せるよう命令する。身長の低いメレストフェリスでは背の高い流種達の向こう側が見えないのだ。
肩の上から見えた景色の中、他の流種よりも高い位置に声の主の姿が見えた。
ーーそれは人間だった。
深い茶色のウェスタンハットを被った人間で、身長は180センチほどで高い方だろうか。
燃えるように真っ赤な髪が肩で切り揃えられている。
メレストフェリスはかつて見た、頭部がやたら肥大化した人間を思い出す。
(こっちの方が、私の知っている、人間らしいですね)
そんなことを考えていると人間が口を開く。
「知っているものもいると思うが一昨日、ルヂの村が悪魔によって破壊された」
「本当か!?」「信じられない…」「…ルヂには従兄弟が…」
壇上の人間の言葉を聞いた流種達は再び困惑の声を漏らす。
「鎮まれと言ったはずだ。それで、どうやら悪魔は一匹で、体格は大きめの流種ほどで角がねじれた牛の顔で真っ黒の悪魔だ。両手でグレートアクスらしき大斧を持ち、魔術はあまり使わず肉弾戦に秀でていたと、村の生き残りから話を聞けた。誰かその特徴の悪魔を知っているものはいるか?」
「悪魔つっても様々だからなあ。俺は知らん」「斧の一つで村を壊滅させるなんてあり得るのか?」
など、さまざまな言葉が飛び交う。しかし誰も明快な答えを出すものはおらず、誰も悪魔の詳細を知るものはいないようだった。
しかしそれは流種達の中での話だ。
ロビーの最奥でこっそりとその話を聞く小さな少女には思い当たる節があった。
(牛顔の大斧で、真っ黒っていうと、モラクスでしょうか? でも、モラクス一匹で、村を壊滅って、できるでしょうか。確かにこの世界の文化レベルは著しく低くて、弱いと思いますけど…。まぁ、話を聞いておきましょうか)
メレストフェリスは視線と耳を壇上に立つ人間に向ける。
「…ふむ。誰もいないか」
そう言って気落ちする人間。
メレストフェリスは考える。
(あの高座に、登るっていうことは、この集い内でも、有数の権力を保有しているかも、しれませんね)
先ほど、あの人間が口を開いた瞬間、ロビー内の流種達はおとなしくなった。もしかしたらかなりの力も保有しているのかもしれない。
(接触を図るのは、リスクがありますけど、人間の詳しい情報が、得られるかもしれませんからね)
メレストフェリスは、あの砦の一件から思い切った行動を取ることを目標としている。
失敗を恐れていては成功を掴めないという主人の言葉を胸に、メレストフェリスはフェルベールに命令を下した。
いつのまにかpvなるものが1000を超えておりました。
よくわかりませんがありがとうございます(*´ー`*人)
感謝の気持ちを込めて今日は少し長めに書かせていただきました。(だからって10時頃に投稿は馬鹿みたいですけどね…)とりあえず、明日も投稿できるよう頑張ります!




