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十四話 神の器は金を知る

 遅くなり申し訳ございません。

 





 次の日もフェルベールの肩に乗ったままひたすら移動する。

 森を抜けると現れた殺風景な草原は、日照りが続いているのかところどころがひび割れており、乾燥して死んだ草からは哀愁が漂っていた。もはやこれは草原というよりも荒野と言った方が近いのかもしれない。


 ここに心優しきものがいれば、寂寥やうら寂しさなどを感じたかもしれないが、ここにいるのは人面獣心な少女とただの悪魔だ。

 足元の植物に向ける感情など、せいぜい無関心。あるいは足に絡んで鬱陶しいだとかその辺りだろう。


 そんな変わり映えのない荒野を歩き続けて四回ほど夜と朝を出迎えた頃、遠くの方で、テントのような明らかに誰かしらが手を加えた、文明を感じるものが見えた。

 しかし、メレストフェリスの視力を持ってしてようやく見えたそれは、歩いてかなりの距離があるようで、着いた頃には黄昏時になっており、大地が赤に染まろうとしていた。


「えっと、フェルベール。何かあった時、今から貴方のことをお父様と呼びます、ですから、私のことは呼び捨てで、お願いしますね」


「…承知した」


 低い声だが、人間種にも似たような声のものはいる。

 たとえば多分、人間と近縁種であろうトロールも低く轟く声をしている。


 そんなことを考えながらテントの密接地帯に入る。


 あたりはすっかり暗くなっているが、この場はランプや松明によってあかりが設けられていた。


 よく見ればテントから小さな机を出して、ゴミのような物を並べている者もいた。その場の生き物のほとんどが流種であり、今のところそれ以外は確認できない。

 メレストフェリスはそのゴミを並べている流種に話しかけるようフェルベールに思念で命令する。


「失礼。この天幕はどのような目的で張っているんだろうか?」


 急に背後から話しかけられた流種は一瞬驚き、振り向いて驚愕した。

 それものそのはずで、くすんだ薔薇の騎士が音もなく近寄ってきて振り向いたらその甲冑がお出迎えなど、驚くほかないだろう。


「お、おう。驚かさないでくれよ…。毛が抜けるかと思ったぜ…」


 なんとか持ち直した流種は若干腰を抜かしつつも、簡単に説明してくれた。


「俺たちはキャラバンだよ、小規模の。この天幕は俺の店兼家だな。んで、俺たちはこの辺りをもうじき、真種様が送られた騎士団が通るって言うから稼ぎ時だって言ってここにきたのさ。どうだい?情報を提供した例だと思ってなんか買ってかないかい?そっちの人間なんて、こんなのが似合うんじゃないかい?」


 そう言って差し出してきたのは汚い花のついた棒切れだ。

 なんの用途で使うのか、全くわからない。

 

 そんなことを思っていたメレストフェリスはある重大なミスに気がついた。


(あっ…。お金、持ってない…)


 そう。金の存在に関して全くの無知なのだ。

 砦を散策したが、金らしき物は特に発見できなかったのだ。


(前の世界の通貨ならあるん、ですけど…)


 前の世界の通貨がこの世界でも同じとはメレストフェリスは考えていない。


 メレストフェリスが黙ってしまったせいで商人の流種はキョトンとしている。

 違和感を抱かせないためにも、話を合わせるしかないだろう。


「えっと、わ、私はそう言うのは別にそんなにいいかなって、思うんです」


 この辺りの言葉が当たり障りないと判断し、言葉をつなげる。

 その言葉選びは効果抜群だったようで、流種はそうかいそうかいといって引き下がったかに思われた。


「んまぁ、それなら、人間にはこれ、ただであげるよ。人間と会う機会はあまりないからね。なんと言うかほら、旅の思い出さ」


 そう言って流種はその汚い手と棒切れをメレストフェリスに近づけてくる。

 即座にフェルベールに命令してその棒切れとその醜悪な手を止めさせる。と言ってもフェルベールが棒切れを受け取っただけなのだが。


「…すまない。メレストフェリスは私以外の者が苦手でね」


「いやはや、この人間は人見知りが激しいそうだ。こりゃ、失敬」


 そう言ってやっと完全に引き下がった。

 と同時に、フェルベールに命令を飛ばす。


「…そうだな。もらってばかりだと申し訳ない…そうだ。貴殿はこの硬貨を知っているか?」


 そう言ってフェルベールが取り出したーーように見せて、先ほど後ろでメレストフェリスがフェルベールに渡した前の世界の硬貨を見せる。

 すると、流種の商人は驚いたような顔をして口を開く。

 

「おぉ…。これは立派な金貨だな。俺も商いを長く続けているが、まだ見たことがない…。一体どこの代物で?」


 やはり見たことのない代物だったようで、早速食いついてきた。

 その後の会話はすでにフェルベールに命令済みだ。


「この金貨は以前旅したーーすまない、どこかは忘れてしまったが、旅の途中で入手した品だ。そうだな、その金貨、貴殿に譲り渡そう。貴殿の眼を信じて問うが、貴殿の見立てでその金貨はどれほどの額になると考える?」


「あんた、そんな大層な鎧なんて持っているからにはかなり持っているんだろうな。っかー!羨ましい!こんな金貨簡単に渡してるんじゃこりゃもう願ったり叶ったりだな。よーし、ちょっと待ってくださいな」


 そう言って流種の商人は天秤を天幕から引っ張り出し、よくわからない石数個と金貨を乗せた。


「ふむ…重さで言うなら60フリムと同じだが、材質が金…。よし、これは20000フリムと見た。それで!?ほんとにこれ貰っていいんだよな!?」


 金貨を持ち、夜中に大声ではしゃぐ流種。正直言って不快以外の何者でもないが、この流種は良いことを教えてくれた。

 通貨名がフリムという名らしい。

 もう少し色々試したいことがあったのでメレストフェリスはフェルベールに命令する。


「あぁ、構わないとも。それでなんだが、その金貨とこのーー」


 そう言って先ほど商人が渡してきた棒切れを見せる。


「ーーこれの差額分の金銭を少しだけ貰えないだろうか?最近割りの良い仕事が無かったのもで、正直きついんだ」


 そんなどこからどう考えても怪しい鎧の言葉を、馬鹿な流種の商人は信じ、話に乗ってくる。


「かっちょいい鎧着てても大変なことはあるんだな。…正直俺もこんな貴重なもんもらって悪いと思ってたんだ。すぐ用意する、まっててな」


 そういって天幕の中でゴソゴソと何かを探る音がする。

 次に流種の商人が天幕から姿を見せた時、人の頭一つ分ほどの袋を左手に持っていた。


「ほら、だいたい12000フリム入っている。本当にありがとうよ。今日という日を忘れないように生きるとするさ」


「あぁ、こちらこそ厚かましい願いを聞いてもらってすまなかった。そろそろ私達は移動する。ではまた」


「オウ!俺はルバマンだ!もし、アンバによる時があったら俺の店を訪ねてきてくれ。じゃあな!」


 店主らしき流種は手を振り、見送る。

 それを一瞥してからメレストフェリスたちはそそくさと店を去る。


 変に交流をすると悪目立ちするかもしれない。


 そう考えてメレストフェリスたちはすぐにキャラバンからも離れることにした。

 メレストフェリスはフェルベールの肩の上でフェルベールが持つ袋の中身を確認するよう命令する。


ーー石。あの天秤に乗せられた石。それがこの世界の通貨のようだ。

 そして思い出す。

 砦を破壊する際に一緒に埋めてきてしまったことを。


「むぅ…。今更考えても、後の祭りですか…」


 メレストフェリスは後悔し、ふと後ろを見る。

 キャラバンを仄かに照らす光はいつの間にか遠くなっていた。


 何かを思い出したようにフェルベールに先ほど流種の商人ーールバマンが渡してきた棒切れを渡すよう命令する。


「あっ…」

 

 メレストフェリスの小さな手に乗ったそれは、フェルベールの大きな手の内でくしゃくしゃに折れ潰れていた。

 花の紋様が星の光を反射してキラリと光る。

 メレストフェリスはその光景を美しいと感じるのだった。

 まるで、逆境にて潰える、一輪の花のようにーー。



 (*´ー`*人)ブックマークありがとうございます。

 とてもとてもかなりだいぶ相当励みになります。明日も遅くなるかもしれませんが、楽しく書かせていただきます。

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