十二話 流種の王
引っ越し作業に追われているため本日も若干少ないです。
ーー[流牙の都・アウトメコン]
数多ある建造物の中に一際目立つ、荘厳な建物が大地に根を張り聳え立っていた。
その威厳のある建築物で最も格式高く、下品にならない極限まで飾り立てられた一室。いや一室と形容するにはあまりにも大きいその部屋に、怯えを無理矢理噛み殺したような声が響く。
「る、流種において随一の御力を持つ、偉大なる真種様におかれましてはーー」
『長いのは好かん。用があって来たのだろう?早々に話せ』
目の前に顕現する、力そのものに流種の大臣ーーギリウバムは深い礼を持って謝罪をし、口を切った。
「申し訳ござません、真種様。本題ですが…。真種様、辺境警備に当たっていたあの…[流種の砦]が壊滅した可能性があるとの報告が上がってきております」
力の権化の体が一瞬硬直する。しかしそれは一瞬で、目の前にいる上種の動体視力を持ってしてもわからなかった。
『ふむ…?』
力の権化が続けろ、と目の前の上種に顎で指す。
「はっ!話の出所はかの砦にて任に当たっていた上種ゾルゴルでして、彼奴はあろうことか、外敵の存在にいち早く気が付いたにも関わらず、それをろくに伝達もせず、あまつさえ自分が助かればと砦が崩壊する前に任を放棄し囚徒の樹林ベルへと逃竄をはかりーー」
ギリウバムの弁舌に熱が入る。
それも仕方がない。同じ上種が戦いもせず逃げ出したなど恥である他ない。それどころか真種様に、上種は無能。と切り捨てられるかもしれない。
そしてその弁解も含め、さらに熱弁さが増そうとした時。
『もうよい!それにくどい! それとも何だ?そんな上種の恥を私の耳に入れてその上の立場である私を愚弄する気か?』
その熱に覆い被さる水の如き怒声がギリウバムの鼓膜を震わせた。ギリウバムが謝罪の言葉を述べようとするが、真種様の大きな口は閉じないままだ。
『それで…?ゾルゴルが逃げ出したのはその相手と戦ったら自分は死ぬと悟ったからであろう?もっと詳しく聞かせてくれ。ただし、お前の私情は挟むな』
「二度も申し訳ございません。はい。そのゾルゴルが逃げ出した相手のことを聞こうとゾルゴルを預かっていた詰所を尋ねたところ、ゾルゴルが行方をくらましてしまいまして……現在捜索中なのですが、未だ確保には至らずという…」
『ふむ…。これは確かに責任感が強いお前が負い目を感じるのも無理がない。先ほどはすまなかったな』
真種から下されたいきなりの謝罪にギリウバムは頭が真っ白になる。
「い、いえ!真種様が謝罪されることはありません…。私の、このギリウバムが悪いのです。話の顛末を簡潔にまとめていなかったこと。そもそも、ゾルゴルに多くの監視の目ををつけていればこのようなーー はっ、幾度も申し訳ございません!」
謝罪も長すぎると相手にくどいと感じられ、さらに印象を下げてしまうと気づいたギリウバムは三度目の謝罪をする。
『まあよい。それで?砦の方に外征隊を派遣したのか?』
「は、はい。情報の収集と、戦闘ができる上種8名と騎士位を真種様より賜った100の流種が[流種の砦]に向けて、昨日から進行させております。あとは情報を持ち帰るのを待つだけかと」
『ふむ。それで話は終わりか?』
「…はい。まだ砦が落とされたのか定かではないですし不確定要素が多い中、下手に考察して肩透かしを喰らうのもどうかと思いましたので…」
そう。まだ砦が落ちたかすらわからない。もしかしたら何かしらの国家反逆を考えたゾルゴルの策かもしれない。
最も、目の前にいる真種様がおられるだけでどれだけ神機妙算な策でもその圧倒的を超えた力だけでどうとでもしてしまうのだろうが。
『話はわかった。[囚徒の樹林ベル]の付近だ、警戒は怠るな。……それとだな、お前はもう少し休んだ方が良いと思うぞ』
ギリウバムは感動した。
なんと嬉しい言葉だろう。数多投げかけられた言葉の中でこの言葉よりも嬉しい言葉はない。
「もちろん、最大の警戒を。それと真種様、私はまだ働けますとも。それでは、失礼します」
そう言って大臣ギリウバムは謁見の間の扉から出ていく。
『フフ…ギリウバムも変わらぬものだ。さて…囚徒の樹林ベルの魔物か。もし本当にいるのらーー楽しめるのやもしれんな』
フフ…っと不適な笑いを残して、真種・アウトメコン=ガルバド・レガリアのその巨体は、霧のように掻き消えた。
明日はできたら投稿します。明後日は引っ越し当日ですので少しかなりだいぶきついと思われます…。




