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十一話 神の器は儀式召喚を行う




ーー翌朝。


 ぽたぽたという音が何重にも重なり、ザーっという音を立てて生きとし生ける者や大地を黒く濡らす。


「はぁ…」


 そんな光景を窓越しに眺めながらため息をひとつ。

 メレストフェリスは雨が嫌いではない。なぜ嫌いではないのか、メレストフェリス自身よくわからないが、雨はどこかもの寂しげに降り注ぎ、行先もなく流れたり留まったりする。

 それがまるで自分を見ているようだったからなのかも知れないし、そうでないかも知れない。


 なので、あのため息の原因は雨が降っているからなどではなく、ある難しい悩みから来たものであった。


「ゴミの…死体の有益な使い方、ないでしょうか…」


 そう、未だ処理しきれていない死体の山の処理をどうするべきかが最大の難点で、未だに解決できない問題だ。


 死体など、消そうと思えばすぐに全て消すことも容易だが、それだともったいない気がしてしまい、どうしても処理できずにいた。


「蘇生…は普通にできましたし、マリオネットにすることもできて、あとは…。んー…だめですね…やっぱり、消してしまいましょうか」


 そう言って、死体を積んである教会跡の前までくる。

 

 その場は雨が死体を濡らし、この世の終わりを連想させるに相応しい場所だった。ましてやそれが崩壊した教会の前というその光景を、世の信徒たちは冒涜だと罵るに違いない。

 もっとも、この場にそんなそんな真っ当なことを言える者など居ないのだが。


 メレストフェリスは雨に濡れるのを厭い、自身に中域神秘ーー<祈りの盾>を施し、死体の山の前で再び頭を抱える。


「んんー…。ふゅ…」


 いくら思考を回転させたとて、活路を見出すことができなかった。

 

 一度目を閉じ、雨の音に耳を傾ける。何の変哲もない雨の音だ。

 目を開けると死体の山が何とかしてくれとこちらを呼んでいる気がした。


「そういえば、前の世界に、こんなダンジョン、ありましたっけ…。確か、生贄の砦ーー」


 その瞬間、メレストフェリスの脳内に一筋の光芒がさした。


「あ、そうだ。生贄。生贄の召喚術があるじゃないですか」


 生贄召喚とは、何かしらの代償を支払うことで、より高位の召喚物を召喚することができる召喚術だ。

 生贄とついているが、死体でも問題はない。それどころか死体を使用して儀式を行うことのほうが多い。

 また、その場で儀式を行うことから、儀式召喚術とも呼ばれていた。


「よい…しょっと」


 メレストフェリスはインベントリから三つ足の鍋ーー死儀式の(かなえ)を取り出し、死体山の前に置く。

 

 あとは、この死儀式の鼎を通じてスキルを使用すれば終わる。

 メレストフェリスは何を召喚するか迷いに迷い、ついに口を開く。


「えっと、スキルーー死儀式の(かなえ)ーー<堕天地の門・デモン=ベルフェゴル>」


 死儀式の(かなえ)を通じて、死体の山が赤い魔法陣で包まれる。

 魔法陣は幾重にも重なり、巨大な門を形造る。

 死体の山が掻き消えると同時に禍々しい音と光と共に深淵の底から1匹の、棘のついた車輪を首につけた2メートルほどの悪魔が顕現した。


 ボロ布と首にある棘のついた車輪、2対のツノと細い尻尾。

 悪魔だということは言うまでもなく伝わってくる。見た目からルーセントイビルよりも強そうだ。いや、実際に強いのだろう。


「あ、あれだけの死体の山で召喚できるのはやっぱりベルフェゴル程度でしたか…」


 しかし、その強さはメレストフェリスからしてみれば微々たるものでしかない。

 

「べ、ベルフェゴルさんは、筋力と技巧と耐久が高い、素手で戦う闘士系でしたよね」


 確認のために言葉に出してみると、ベルフェゴルはそうだと言わんばかりに頷く。


 一瞬、車輪、邪魔にならないのかなと思ったりもしたが無駄話をするのは生産性がないので踏みとどまる。

 ただでさえ死体の処理に時間を割いたのだ。これ以上のロスは避けたい。


 とりあえず命令を飛ばしておく。


「る、ルーセントイビルは、今までみたいに透明化をして、砦中を見てきてください、えっと、ベルフェゴルは私の側で、守護してほしいです…。その、検証も兼ねて、です」


 メレストフェリスの言う検証とは、儀式召喚で呼び出した召喚物は顕現できる時間に制限があるのかと言うものである。

 前いた世界では、儀式召喚で呼び出したものは、通常の召喚に比べ、時間が長かった。

 もしものことが起きないためにも、調べておく必要があるだろう。


 とりあえず死体の山の活用法が見つかり、上機嫌のままメレストフェリスは先ほどまで自分がいた部屋に戻って行った。


 その後、雨で濡れたベルフェゴルがそのまま部屋に入り床がべちゃべちゃになるなど、一悶着とまではいかないがそんなことがあったりしたが、そのまま夜が過ぎ、翌日になってもベルフェゴルは消えることがなかった。

 これは大きな発見であり、前の世界と異なる点だ。

 なぜそうなるのかはメレストフェリスには全く見当のつけようがなかったが、消えることのない召喚物は費用対効果が高いと言える。

 現に、MPを定期的に消耗するルーセントイビルの召喚はもうおこなっていない。ベルフェゴルだけで守りは十分なのだ。

 また、残存する召喚物を毎日呼び出し続ければ簡単に軍がつくれるはずだ。

 

「選択が広がるって良いですね…。さて、と…。明日にはここを、出ようかな…」


 荷物を整理しつつ、メレストフェリスはそう呟く。

 もはやこの砦で得られるものは何もない。更なる情報を得るためにはもっと情報の集まる街などに出たほうが圧倒的に効率が良い。

 外に出るのは怖いが、地図もある。地図も信憑性に欠けるが、ないよりはマシだ。

 それに、もし間違った情報が記してあったならまたその場で一から始めれば良い。

 今回の砦襲撃でなんとなくノウハウは得られた。今回の経験が次に生きるのは確実と言えるだろう。


「えっと、あとは仕上げをするだけですね」


 まあ仕上げは明日の早朝でも良いだろうと、メレストフェリスはベッドに横になり、周辺地理の再確認を行うのだった。

 最近日の入りが遅くなってきて春を感じます。

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