第6章
・・・裁判ではその後、強制収容所に送られた被害者たちが、次々と証言台に立った。
『ホロコースト』の被害者たちが、こうして公の席で体験を語るのは、イスラエルの建国後、初めてのことであった。
近隣諸国との戦争が続く中で、ホロコーストの凄惨な記憶は、人々の胸の奥に秘められてきたのである。
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証言者A:
「ある時、母親と子供が到着し・・・その母親が、命令されて服を脱ぎながら、警官に唾を吐いた。警官は子供の足を取り、脳天を木にぶつけ、子供を火に投げ入れ、母親を逆さ吊りにした。 ・・・こんなことはよくあった。」
証言者B:
「貨車は死体で・・・あふれそうです・・・大勢の人が・・・扉を閉められないほど満杯で・・・」
証言者C:
「仕事が終わり寒い日で・・・囚人長は気の毒がって・・・『子供たち、外は寒い。ガス室は暖かいよ、もう誰もいないから・・・』」
証言者D:
「それは・・・失礼。(男性、両手で顔を覆う)」
証言者E:
「(質問者:「体験をすべて忘れたのですか?」)いえ・・・私は・・・(右手で涙をぬぐいながら)夜眠れません。まだ追われてるようで・・・(ハンカチで目をぬぐう)」
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(・・・証言者が英語やヘブライ語で述べた内容について、その同時通訳された音声をヘッドホンで聴きながら、ノートのような紙に細かく記録していくアイヒマン。
その後、検事長は、アイヒマンを追いつめていく。ヴァンゼー会議の結果を受けて出された『ユダヤ人絶滅計画』の通達書に、アイヒマン自身が署名していたからである。)
以下、映画『スペシャリスト』より
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検事長:
「・・・署名した、あなたに責任があるのでは?」
アイヒマン:
「もちろんです。署名は上司が許可したのですから、上司がいない以上、私が証言を。」
検事長:
「意味が違います。 ・・・責任を感じますか?」
アイヒマン:
「・・・それは、認めかねます。命令で署名したことで、なぜ私個人が罰せられるのか、理解できませんから。」
検事長:
「それは、何度も聞きました。ミュラーの命令だったという、あなたの主張はわかっています。でも、通達を作ったのは、あなただ。あなたが、命令を発したんだ。」
アイヒマン:
「・・・失礼しました、検事長。今朝言われたのを、忘れていました。ただ、私が司令官に命令したという類の誤解は、我慢できません。自動的に反論してしまいます。 ・・・今後は、気をつけます。」
検事長:
「今のが、反射的なのはわかっています。」
(傍聴人が、すこしざわめく。)
裁判長:
「傍聴人は静かに。 ・・・続けなさい。」
検事長:
「『私は次の命令を与える』と書かれた、この『私』は、あなたのことではない、というんですか・・・?」
アイヒマン:
「・・・それは、ドイツの『官僚用語』ですよ。私の個人的な手紙ではありませんから・・・。」