あまいほしながれぼし
かあさんを大好きなとうさんが
仕事でうちにいない夜。
ぼくはかあさんと、まだちいさな弟と三人で
流れ星を見ていた。
「おかあさん、ほしがいっぱい! すごいねー、きれいだねー」
とうさんに負けないくらいかあさんが大好きな弟は
かあさんと夜ふかしできてごきげんだ。
ぼくもかあさんは好きだけど
かあさんはときどき子どもみたいなうそをつくから
ちょっとこまってしまうんだ。
今もぼくたちにふり向いたかあさんが
いたずらを思いついた時のかおをしていたので
ぼくはやっぱりこまってしまう。
「知ってる? 流れ星って甘いのよ」
それはうそだ。ぼくは知ってる。
ぼくがまだうんと小さかったとき
今とおんなじことをかあさんに言われて
まんまとだまされちゃったからだ。
小さい弟はあのときのぼくとおんなじ。
やっぱり信じちゃった。
「ええ!? すごい! おかあさんぼくたべてみたい!」
「よしきた! かあさんがんばるよ待ってなさい」
夜空にのばしたかあさんの手が
流れ星をつかまえようとうろうろしている。
少しして急に両手をのばしたかあさんが
ぱちん!
と手のひらをあわせて大声をだした。
「やっとつかまえた! ほら」
そっとひらいたかあさんの手の中には
とがった小さな青いかけらがひとつ
ころんところがっている。
「おかあさんすごい!」
かあさんが流れ星をつかまえたと
弟は大はしゃぎだ。
でもぼくはかあさんの手の中の
青いかけらの正体を知ってる。
「口を開けてごらん」
「あーん」
大きくあいた弟の口に
青いかけらがとびこんだ。
「あまい!」
弟の目は夜空の星に負けないくらいキラキラだ。
それがとってもまぶしくて
ぼくは思わず目をそらしてしまう。
かあさんの言ったことはうそなのに。
ほんとは流れ星なんかじゃないのに。
まっすぐにかあさんの言ったことを信じている弟が
ぼくはちょっぴりうらやましくなった。
だってぼくはもう小さくないから
かあさんのうそがわかっちゃうんだ。
「ほら、おにいちゃんも口を開けてごらん」
うつむいて、くらい地面を見ているぼくに
かあさんが言った。
小さく開いたぼくの口には
赤いかけらがとびこんだ。
あまいかけらがほろほろと
口の中でとけていく。
「ね! ながれぼしあまいでしょ、おにいちゃん。おかあさんはすごいねえ!」
弟がまっすぐぼくを見あげてる。
かあさんを見る目とおんなじだ。
弟はぼくのことも信じてるんだ。
「うん。流れ星はあまいね」
うそだよ。
ほんとちがうんだ。
小さなかけらは流れ星じゃなくてこんぺいとうなんだよ。
でも弟がすごくうれしそうで楽しそうで。
幸せそうで。
ぼくはほんとのことが言えなかった。
「そうだね、かあさんはすごいね」
笑顔で弟にそうこたえると
かあさんは「でしょう?」と、とくいげにぼくを見た。
ぼくが流れ星の正体を知ってるのを
かあさんも知ってるのに。
弟に話をあわせただけだと知ってるのに。
「おかあさん。ながれぼし、またつかまえられる?」
「そうだね。いつかまた、つかまえられるといいね」
星空を見上げたかあさんは流れ星を見ながら
右手で弟を
左手でぼくの頭をなでた。
その手がとってもやさしくてあたたかくて。
ぼくはむねがいっぱいになって
なんだか泣きそうになってしまった。
かあさんはこどもみたいだ。
そしてときどきこどもみたいなうそをつく。
そんなかあさんをとうさんは大好きで
弟もかあさんが大好きで。
ぼくはかあさんを取りあうふたりにいつもあきれてしまう。
でもね。
ほんとうはね、かあさん。
ぼくはとうさんにも弟にも
ほかのだれにも負けないくらい
かあさんのことが大好きなんだ。
だからあんまりこまらせないでね。
(おしまい)