適当9
「はぁ、気分が乗らん」
ため息をすると幸せが逃げるらしいから控えるとして。
いつもの俺ではないな。元気百分の三倍凪マンだ。モーニングルーティンなんてもん持ってないがそれっぽく歯磨いて、パン食べてラジオ体操をしてみる。
暇だ、そして宿題が終わる気がしない。何故ならやる気がでないから。
「散歩してくるわ!」
それだけ言って俺は外に出た。目的地は決めてない。家出みたいな感じなこの感覚が良い。意外と最近は家出より先に自殺が浮かぶ人が多いのだろうか。年を取るとなんて言い方はおかしいか。
強いていうなら大人に近づくにつれて。
いや、もう中学生ぐらいになるとで良いか。なんて言うか自殺って選択肢が見えてくる。
俺ぐらいが得れる情報は案外同世代のものが集まる。
それを聞いて。昔、小学生時と比べて判断するのはおかしいだろう。
結局分かんない。日本は今も昔も自殺者は多いんだろ。
武士も切腹するし。
「あぶなっ」
角の所でいきなり人が出てきた。危うくぶつかるところだった。一応軽く謝罪の意味を込めて頭を下げると向こうも下がった頭をさらに少しだけ下げた。
「下、向いてると危ないですよ。俺、歩きスマホしてて人とぶつかることなんてないだろって思ってやってみたんすけど一キロ歩いたら三回ぶつかったんですよね。二回はわざとぶつかられたんですけど」
通り過ぎようとした人が立ち止まる。そして振り返って会釈をしてまた下を向いた。うーん、美少女オーラ。顔を見てみたい。
「よし、先回りしよ」
角を曲がって走る。目的地なんて元々ないし良いだろ。これもまた一興だろう。そしてあれから二度角を曲がり先回りに成功した。
◆
「あぶなっ」
角を曲がろうとしたところで人にぶつかりそうになった、中学生の男の子だと思う。
頭を下げてきたのでこちらも下げる。特に何も言ってこないのかと思い通り過ぎようとしたところで声を掛けられた。
多分下を向いてると危ないとか忠告してくれてるんだと思う。
それに私は頭を下げてまた下を向いた。
しばらく歩いたところで道端に屈んでる人見つけた。見覚えがあるような。知人だったら嫌なので気力もなくとぼとぼ歩いていた足を少し速める。
「あ、四葉のクローバですよ、見て下さい」
びっくりした。
私に声を掛けてきたの?
明らかにこっちを見てるし。え、でもなんで。
というかこの人さっきぶつかりそうになった人だ。何でここに?
「あ、角曲がってすぐに走りだして待ち伏せしてたんです」
何でもないことのように言う少年。中学生に見えるけどもしかして危ない人?
思考こんがらがってきた混乱している。
「な、何でですか?」
少し怖くて後ずさる。
「やっぱお姉さん可愛いですね。顔が気になったから見るために先回りしたんです」
やっぱり危ない人だ!ストーカ予備軍?逃げて大丈夫なのかな?追ってきたりしないよね?
「嘘です。嘘です。冗談ですよ」
私の怯えた様子に気付いたのか少年が笑って言う。
「あなたが僕よりも浮かない顔してたんでからかってやろうかと思って待ち伏せしたんですよ」
それでも良く分からない。
とても自然な、中学生らしい、或いはそれよりも幼い無邪気笑みなんだけどこんなことで楽しそうにしてるのが逆に怪しかった。
「下向いてると視野が狭まるっていうじゃないですか。あれ嘘ですよね~。別に人間の構造が変化するわけじゃないんだから視野角変わらないじゃないですか。見えるものが変わるだけなんですよ。四葉のクローバー、下向いてないと見つけられなかったんですよね。入ってくる情報が変わるだけなんすよね。前に進む上で前に必要な情報が多いだけで、幸せになるために、嬉しくなるために、楽しくなるために、生きるために。必要な情報がどこにあるかって分からないんですよね。俺、海の上に立ってみたいんですよ。下手したら上見るより下見てるほうが得られる情報多いと思いません?」
少年は楽しそうに話した。
そして私の顔を覗いて
「場所変えましょっか」
と言ってまた笑った。
「向こうに公園があるんですよ。ブランコもあるんで丁度いいですね。行きましょ。俺振り返らないんで付いてきて下さいね」
それだけ言うと本当に少年は振り返らずにちゃんと横断歩道まで行って道を渡りだした。どうしても気力が湧かなくて顔を上げる気にならなかったのに私は自然とその少年の背中を追って顔を上げていた。
私との距離は結構空いてきたのに本当に振り返らない。でも、どうしよう。付いていく?いや、でも帰らないといけないし。私は少し迷ったけど知らない人に声を掛けられても付いていっちゃダメっていうし無視して帰ることにした。
少しして、気になって公園の方を見た。さっきの少年が一人でブランコを漕いでいた。ここからじゃ表情なんて見えないけど少し寂しそうに見えた。
その姿を見ると罪悪感のようなものが湧いてくる。
◇
「あ、来ました?」
もう来ないかと思ってたけどお姉さんは以外にも公園に来てくれた。
「ブランコ、隣空いてるんで」
紳士的?に俺は隣のブランコを指さして勧める。
「高校生にもなってブランコって少し恥ずかしいけど……」
お姉さんはそう呟いた後で少し思案し結局、ブランコに座った。
「......」
「......」
俺から話さないと気まずい空気が流れたままだよね。
「どうしたんですか?何か辛いことでもありました?」
「......」
付いてきたけど話してくれないんだ。
「......」
お姉さんの方は向かずに前を向いて黙々とブランコを漕ぐ。
まぁ、いきなり聞かれてもって感じだよなぁ。
「全く関係ない人だからこそ話しやすかったりはしない感じですか?てか、聞きたいんで話してください。あなたの気持ち、気にしないで聞いていいですか?」
「気にしないで話してくださいっていうとこじゃないの?そこは」
お姉さんが笑ってはないけど突っ込んでくれた。
「まぁ、こっちが無理に話聞くんですからね。気にするのはそっちの方でしょ」
「......」
くそ、上手い返し出来なかった。
「俺、四葉のクローバーを取ったりしないことにしました」
「え?今決めたの?何を思って?」
「はい、今決めました。あれって小さい頃にまぁ今も小さいけど。その、子供?の頃に踏まれたか何かで傷がついたのが四葉になったりするらしいじゃないですか?取ったら可哀そうじゃないですか?」
「そうだね......」
「優しいアピールこんな感じで良いですか?」
親しみやすい優しい相談できる人な雰囲気をね?
出していこう。
「あは、それ言っちゃうの?」
お、笑ってくれた。良い感じかな?
「柄じゃないはずですから」
「はず?」
「はずです」
また二人の間に沈黙が流れる。今度口を開いたのはお姉さんの方だった。色んな話をしてくれた。でも、どれも漠然としたてたり大したことなかったり。でも、何てこと無い風にいうその姿はとても辛そうだった。
「分かんないけど、辛いんだ。もっと世界には不幸な人もいるんだろうけど幸せなはず何だけどなぁ。だから自分が嫌になる。あはは。中学生にこんな話するなんて情けないなぁ」
それは俺に話しているようでもあり独り言のようにも聞こえた。
「みみっちいですね。何もないけど何故か、幸せなはずなのに辛いなんて」
「......そうだね」
「他人と比べてどうすんですか?自分の中で比べなきゃ。幸せかなんて分かんないじゃないですか。人によって感じ方違うんですから。知らんけどあなたは心が弱いんです。まぁ、今までも今も割と幸せなんでしょ。辛いことはないけど辛いこれにハマると自己嫌悪で疲れちゃうんですよね。強くありましょう!」
「そんなの、無理だよ......」
「じゃあ無理っすねー。他の方法考えますか?」
「え、えっと、うん」
「心を独りで強くするなんて無理なんすよ。出来る人もいるんでしょうけどとても俺には出来ないっす。だから他人の力を借ります。武者修行しても心は強くならないんで、俺が力貸すんで。支えがなあると強くなるでしょ?」
少年はそういってまた楽しそうに笑った。何が楽しいんだろう。分からない。
「うん、そうかも知れないね」
どうやって力を貸すのかは分からないけど。
「まずは、自分を受け入れてみてください。こぼれそうだったら話してもらっていいんで。ごめんねって自分の心に行ってみてください。苦しめて、嫌いだなんて思ってごめんって。自分自身に」
ごめん?自分の心に?自分自身に?
ごめんね。私。返事なんてない。ただ、少し分かった。自分で自分を傷つけるってとても馬鹿なことなんだ。
「ちょっと、話していいですか。みみっちい、小さな人間っているんですよ。どれぐらい居るのかは知らないですけど。疲れちゃうですよね。多分疲れやすいんですよ。周りに合わせても幸せになれない奴がいる。じゃあ、周りに合わせず幸せになるしかねぇなって。幸せって言うと大げさですね。俺にとっての幸せは俺が楽しく過ごせて、俺の周りの奴らも出来るだけ楽しくて。時々、あなたみたいな綺麗なお姉さんとゆったりと話すことです」
「君は凄いね」
「まぁ、人生三週目なんで」
◇
あー。ヤバい。笑みがこぼれる。いつもの俺だ。無責任にも口出しして、専門家でもないのに助言する。その場で思いついた適当なことだ。俺は俺が楽しいのが一番良い。俺がカッコいいのが一番良い。
「お姉さん」
「何?少年」
少年。俺のことか。
もしかして俺マウント取られてる?
いや、いっか。
「俺が話したいだけだったんすよ。さっきのでスッキリしました。あぁー最高だ。意味わかんないこと言い出して。助けたみたいな雰囲気だして、良い気分に浸れる今が。いつもの俺だ。変人で奇天烈で、特別な俺だ。ありがとうございます!」
俺はそういってブランコから降りた。ブランコの勢いを止めずに降りたので背中にブランコがぶつかった。痛い。ゴム製にしてくれよ。座るときは板が好きだけど。俺は手を振りながら走って去っていった。
「あ、お姉さん!普通あんな怪しいやつが居たら声かけても通り過ぎたほうがいいですよ!」
◇
何故か私が悩みを打ち明けていたはずなのに感謝され、少年だけ元気になって帰って行った。ずっと楽しそうだったけど最後は飛び切り楽しそうだった。嬉しそうでもあったな。無邪気な笑顔で去って行った。
「ホントに何だったんだろう」
何故かちょっと笑えた。今度誰かにこのことを話そうか。変な中学生にあった話。そういえばさっきちょっと嘘を吐いた。少年だけじゃなく、私も少し元気になっていた。今だけな気がするけど。
◇
「いやー、マジ最高!病み期終了!楽しかったな、道であった人と公園であんな真面目な話するなんて」
出会いも含めて、偶然が重なった偶然。下を向いてなきゃこうもならなかったとか今日外に出なければとか含めると下らないことが奇跡みたいで嬉しかった。
「はぁ、人生って面白い!」
ため息をすると幸せが逃げるって言うけど。今は溢れそうなくらいだしいっか!