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青春は逃げない、逃げてるのはお前だ

青春って何なんだろうね。

ジャッジを下すのは君じゃあない!!!!


「はい、ということで走りまーす」

 まぁ、理由は分かるだろう。痩せるためだ、俺じゃなくてデブ男Aがね。

 デブ男Aというのはなんとも悪口くさく、主人公にあるまじき言い草だが、俺は主人公じゃないだろうしいいだろう。許容範囲内という奴だ。


「えっと〜、どれくらい?」


「ぶっ倒れるまで」


「え! じょ、冗談ですよね」


「いや、マジ、あぁ、だけどお前じゃなくて俺がだから。大丈夫!」

 親指を上に向けて立てながら俺は笑顔で言った。

 実質実刑判決ものだがな。


「どう考えても佐月先輩の方が体力多いですよね!?し、死んじゃいますよ」


「大丈夫、大丈夫」

 肩を押して校庭まで連れ出す。


「まぁ、じゃあ最初は1レーン走りな、俺2レーン走るから」

 

「は、はい」

 

「あ、その前に準備運動するぞ」

 準備運動をしながら計画を話していく。

 残念ながら俺はダイエットをしたことがないので、スポ根式だ。


「食事制限はあんまりしなくて良いけど、夜食とコーラとか禁止な」


「あ、はい」

 最終的に腹筋が割れてたら万々歳か。


「よし、走るぞ」


「は、はい!」

 レーンに着いたのを見て走り出す。

 最初はゆっくり一周走ってそのあと、少しスピードを上げた。

 とは言っても長距離だ。

 そこまで速いというわけじゃないし、2周目から差はそこまで出ないか?


「ちょ、ま、待ってください。は、速い……」


「おせぇ!」

 いや、もっと頑張れ。自分の体重に足がついていけてねーじゃん!

 

 まぁ、最初はこんなもんか。









「ホントに走ってる……」

 なんだか、自分と付き合うためにと思うとむず痒い。

 でも、本当にハンカチを拾っただけだ。

 その内、いや、すぐに音を上げるだろう。


 きっと、今はあの変態先輩に流されてるだけだ。

 

「千香〜。何してんの?帰ろ」


「あ、うん。今行く〜!」

 友達の葵に教室の外から呼ばれ、すぐにバッグを持って出て行く。


「何してたの?」


「いや、何も?」


「そう。あのさ、今日内遊びくる?」

 少し、モジモジしながら葵が聞いてくる。

 この前まで仲が悪かったというか一方的にイジワルしていたのでだが、とある一件から仲良くなってからはその可愛さに気付いて来た。

 

 まさか、自分から誘ってくれるとは……。

「え? 良いの?!」

 驚きと嬉しさが湧いて来る。さっきまで何か考えてた気がするけど良いや。


「弟がまた遊びたいって言うから……。二人も部活終わったら呼んでね」


「そうだね。あ〜、でも弟くん独り占めしたいなぁ」


「あ、あげないからね!」


「分かってるよ」

 あぁ、葵ちゃんも弟も可愛い。






「ほら〜、頑張れ〜」


「ほら、ゴホッ、全然、佐月先輩、疲れてないじゃないですか…!」


「だって、遅いんだもん」

 あ、悪魔だ、この人。変態じゃなくて鬼とそういう類だ。


 必死に腕を振って太ももを上げる。でも、全然、進まない。


 足がもつれて、とうとう、転んでしまう。


「も、もう。無理です」


「立て」


「いや、もう……」

 そんな優しさを微塵も感じない言い方に怒りすら湧いてくる。

 恨みがましく見上げると、佐月先輩も息を荒くして、汗をかいていた。


「早く立て、そんで歩け。走った後に急に止まると心臓に悪いぞ」


「……え」


「はぁ、ほら手、かすから」

 差し出された手を掴むと強引に引っ張られる。


「あ、汗とか。汚いとか思わないんですか?」


「いや、男と触るとき。そんなこと考えないわ。別に俺は潔癖症じゃないし」

 気持ち悪いから触んなって言われたこともある。

 太ってて生理的に無理、そういう視線が普通だった。

 この人なら太ってるお前が悪いとかそういう酷いこと言いそうだけど。


「佐月先輩、なんで変態とか呼ばれてるんですか?かっこいいのに」


「あ、俺かっこいい?」


「はい、顔は」


「あはっは、言うじゃん根暗陰キャぼっちオタクデブの癖に」


「過去一辛辣!それにオタクはもう悪口じゃないですよね!?」


「何だって褒め言葉で使えば褒め言葉だし。イケメンだって悪口で使えば悪口だ。そんで今のは悪口のオタク、オタクぶってて真のオタクの風上にも置けないオタクだ」


「あんたはボクの何を知ってるんですか!!」

 全く、無茶苦茶だ。


「女の子が好きだから」

 ボクが呆れていると佐月先輩がボソっと呟いた。


「え?」


「さっきの解答。正確には可愛い女の子が好きだから」


「は、はぁ」

 それだけでこんな学校中で嫌われるのだろうか。


「そんで、まだ走る? 俺、まだ倒れてないけど」


「…………」

 正直もうやめたい。

 でもせっかく先輩も付き合ってくれてるし。変わりたい。

 痩せて、藤原さんにちゃんと告白したい。


「まだ、走ります!」


「お前意外と熱い男なのな」

 佐月先輩がまた走り出す。

 俺もそれについて行こうと、また足を上げた。







「はぁ、そろそろ良いか。帰んねーと行けないな」


「は、はひぃ」

 随分と情けない声を上げるデブ男A。


「じゃ、俺帰るから。気を付けて帰れよ」


「あ、はい」

 俺は荷物を持って走り出す。


 特に走る意味はないからなんとなくだ。

 倒れてはないけど、3時間近く走っていたんじゃないだろうか。

 思った以上に走ったな、これだと明日は走れないかもしれない。


「ま、なかなか見上げた根性じゃないの」



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