適当4
き
「おい!あんた!」
怒鳴りつける声が聞こえた。現在俺は電車の中。声のした方を見てみるとおじいさんが優先席に座る女子高生らしき人に怒鳴りつけていた。女子高生の方はスマホをいじっている。あれは多分自分に対してじゃないと思ってるな。
「あんたじゃよ!スマホ弄ってる」
ここでやっと女子高生が顔を上げる。
「私?」
そう言って自分を指す女子高生。
「そうじゃよ!」
あぁ、飛沫が。怒り心頭って感じだなあのじいさん。
「まったく、まだ若いというのに優先席に座りよって。近頃の若いやつらはどんな教育を受け取るんじゃ」
老害って奴か。やれやれ。あのおじいさんみんなから白い目で……。見られてるよね。あぁ、でも女子高生の方にも注目行ってる。おろおろしてんなぁ。優先席ってのが不味かったのか?怖いな教育、ホントどんな教育受けてんだよ。周りのことを、相手のことを見よう。
「えっと、その」
「あんた学校どこや!言い訳しようとしてんのとちゃうやろな!」
押されてる、女子高生に反抗の意志と悪気はあまりない模様。何も言えなくなっちゃってる。立とうにもあんな目の前で怒鳴られちゃあね。こりゃ、ちょいやりすぎだな。
とはいえ、優先席に座ってた。というのは、まぁ確かになぁ。
「ホント、どんな教育受けたんだよ。あんた」
「ほら、そこのガキにも言われてるやないかい」
ガキってw。まぁ、そうなんだけど。多分口悪い人なんだな。ミスったぁ、でも今更か。よし、あとのこと要員イケメン起動。隣で寝ている慎也にエルボーを入れて起こす。意味深な視線だけおくっときゃどうにかなるだろ。絆レベル八はある気がするし。
「違うよ、あんただよ。じいさん」
老害は飲み込んだ。口を悪くしすぎるのもよくないしな。ただ、自分がどんな目で見られてるか知ることも重要だ。
「ここさ、公共の場何だよね。電車の中。そんな大声出されると迷惑なんだよね」
「それはこやつが優先席に座っているから」
「いや、大声出さなくてもいいでしょ、言い訳しないでくださいよ。大体、優先席って言ってもさ。椅子なんだから座らないと意味ないよ。見たところ妊婦さんとか骨折してる人とかも居ないみたいだし。じいさんもそんだけ元気じゃん」
「しかし、こんな若いのより疲れてる人がおるじゃろ!」
あぁ、やだ。あんまりご老人のイメージを下げることをしないでくれ。良いおじちゃん、おばあちゃんも沢山いるんだ。そういう人には席を譲りたくもなる。残念ながらコイツには席を譲りたくならない。どうせ自分が座りたいんだろう、かと言ってそう堂々とも言えない。そんなところだろ。
そんなことを考えていると後ろから視線を感じた。危ない、危ない。決めつけてしまいかけた。正義感なのかもしれないだろ、嫌いな奴のことはつい悪くみてしまう。ありがとよ、慎也。今度何か奢ってくれ。
「ちゃんと、この女子高生のことも見て下さいよ。スマホ弄ってて良い気をしなかったのは分かります。ただ、この時間に学校のカバン持ってる。てことは部活帰りですよね?制服じゃないし運動部ですよね?」
威圧的な態度は取っておく。下手に回るとパッションで押されたりしたら面倒だからな。
「え?あ、はい。バトミントン部、です」
さっきから突然の状況に戸惑っているようだ。たじたじである、可愛いなぁ。
「何時からですか?」
「十二時から、三時間……」
「三時間。バドってさ、シャトルが風で動いちゃうから扇風機とか空調つけないようにしたりするんだよね。もう動いてたら結構熱いよ。三時間部活してきたこの人より疲れてる人~!」
「こら!」
俺が周りに確認を取ろうとしたところで拳骨を喰らう。
「すいません、うちの馬鹿が。えっと、まぁお互い悪いとこはあったということで。取り敢えずおじいちゃんに優先席座ってもらってあなたはコイツの席でも座って下さい」
「え、悪いですよ」
「いや、俺たち次降りるんで」
丁度、駅に着く。俺は慎也に引っ張られる感じになってドアを超える。
「あ、痴漢に気を付けてね」
俺は笑顔で言いながら手を振った。
そして、扉が閉まる。
「私も、この駅だったんだけど......。まぁいっか」
「腰の形覚えたから今度あったら声かけよ、名前聞いてないし」
「気持ち悪いからやめてくれ。......。何で助けたんだ?」
「え?あの子が可愛かったから」
エゴだよ、エゴ。
俺は続けてそう言った。
所詮そんなものなんだ。
正義の男ではなく。
俺はあくまで変人奇人の逆張り野郎なのだから。
く