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職人冒険者ギルド

 シルヴァンス家に発見される事を恐れたシルヴァはシルヴィア=シルヴァンスという素性を隠蔽(いんぺい)する事にした。

 (うるわ)しき流麗(りゅうれい)の銀髪をバッサリと切ると宿屋に置いてあるトビガエルの背脂で髪をオールバックに固める。

 胸部には(こしら)えた布のサラシを巻き、グランツの防具屋で購入した初心者用の職人冒険者用装備を着用し、フードを深く被ると、早朝の朝日と共に宿屋を跡にすると下流階層区へ向かう。

 目的地は帝都郊外に隣接(りんせつ)する街であるソルミッドの職人冒険者ギルドを目指す。

 シルヴァは職人冒険者という職業は殆ど名前だけではあるが知っていた。

 帝国騎士団に入団するには二つの方法があり、一つは帝都にある帝立騎士団養成学院に入学し、優秀な成績を収めて卒業する事である。

 もう一つの方法は職人冒険者として帝国に貢献できる程の実績を残した者は、帝国騎士団にスカウトされる事があるのだ。

 現在では元職人冒険者の帝国騎士は決して珍しくはない。

 シルヴァとしては騎士団養成学院に入学し、騎士を目指す事を当面の目標にしていたが、両親の反応を見る限り入学は絶望的であった為、職人冒険者から騎士になる道を選ぶ事にした。

 自身にとっては、どちらも険しい道程(みちのり)だと感じてはいるが、真剣に騎士を目指す事自体が嬉しかった。

 元々、将来の選択肢の一つとして視野に入れていた事もあり、職人冒険者になると決めた時には迷いはなかった。

 下流階層区では珍しい石畳(いしだたみ)で舗装された道を抜けると帝都の門の前である。

 まるで、巨人が造り上げたような巨大な城壁と門を間近で眺めて、自身の胸の鼓動(こどう)が高まるのを感じていた。

 乗合所に停まるソルミッド行きの馬車に乗車し(しばら)く待つと、馬のいななきと共に動き出し城門の外へと緩やかに進み出した。


(――ついに私は帝都の外に出たんだ。これから知らない街に行くんだ)


 馬車内では、正面に座る同じ年齢位の武装した男女が何やら興奮しながら会話している。

 しかし、心地良い馬車の揺れと、時折、聞こえる小川のせせらぎの安らかな音に、眠気に襲われてしまい、彼等の騒音や雑多な音は()き消えてしまう。

 (しばら)く馬車の揺れに身を任せて、うたた寝をしてしまったが、起きてチラッと馬車の外を覗くと道の先に帝都よりは二回り程度、外観が小さな城壁が姿を現す。


(あれが、職人冒険者の街、ソルミッドか……)


 ソルミッドは多くの新人職人冒険者が集まり、新規志望者も最初に行くべき場所であると推奨されている。

 城門に辿り着き、兵士と御者(ぎょしゃ)が話し、(しばら)くすると城門が開き馬車が街に入る。

 到着した馬車から降り、シルヴァは高鳴る胸の鼓動(こどう)を抑えて初めて来た街の外観を見渡す。

 街自体の造りは帝都の中流階層区に似ているが、住民の風貌が全く異なっていた。

 この街の住人は背中や腰に剣や槍を武装しており、肌も白き者、浅黒い者、細身の者、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の者、様々な人種も混在している。

 (しばら)く街の光景に(ほお)けていたが、目的を思い出すと職人冒険者ギルドの場所を目指す。

 武装した住人が歩いて来てる場所を辿(たど)って歩いていくと、一際大きな造りの建物を発見した。

 看板が立っており職人冒険者ギルド・ソルミッド支部と書いてある。


(ここか、どんな場所なのだろうか)


 早速、シルヴァは扉を開き職人冒険者ギルドに足を踏み入れる。

 ギルド内は酒場のような作りになっており、カウンターに東部の神官服の格好をした妙齢の女性が立っていた。

 シルヴァは神官服の女性が立つカウンターへ歩いて行くと彼女が(にこや)かに話しかけてきた。


「ようこそ! 職人冒険者ギルドへ! 御用は何でしょうか? クエスト完了届ですか? クエスト依頼ですか? 素材買い取りですか?」


 シルヴァは何を言っているのか全然わからなかったので、まずは深呼吸して冷静に話しかける。


「あー……すまない、初めて此処(ここ)に来たんだ。職人冒険者になる為に来たので、なる方法を教えて欲しい」


 神官服の女性はフードを目元まで被り、よく見えない少女のような顔をした少年を見ると、再び笑みを浮かべながらながら話しかける。


「失礼致しました、新規登録の方でしたか。初めまして、私はギルド受付嬢のミコトと言います。以後、お見知りおきください」


そう言うと彼女はシルヴァに深々と一礼し(にこ)やかに微笑んで説明する。


「早速ですが、職人冒険者登録について、ご説明させて頂きたかったのですが、お時間を頂いても大丈夫でしょうか?」

「構わない、私の名前はシルヴァだ。説明をしてくれると非常に助かる」


 シルヴァはミコトの黒曜石のような瞳を見つめながら、微笑みを返すように応えた。

 彼女は変わらず(にこや)かな表情であったが、シルヴァの銀色に輝く瞳を見て一瞬見惚れてしまうが、ハッとして我に帰ると、表情が崩れた自身を取り(つくろ)うように説明を始めた。


「ありがとうございます。基本的に職人冒険者はギルドより発生したクエスト依頼を遂行して、報酬を受け取り生活する職業です。一見、傭兵と同業に見えますが、傭兵とは存在意義が全く異なります」


 ミコトの話を要約すると職人冒険者は、至高(しこう)の存在である鍛治の女神(ディアン=ケヒト)から、新たな名前を与えられる事で、恩恵を享受(きょうじゅ)する事ができるという。

 恩恵により鍛治の女神より造られたと伝わる“命ある剣(ライフソード)”を与えられるとの事だった。

 “命ある剣(ライフソード)”は聞いた事のない単語であったが、会話の腰を折るのは良くないと思い、彼女に話を続けて貰う。


「“命ある剣(ライフソード)”は職人冒険者と共にクエストや試練を乗り越えて成長していきます。今一度、確認ですが職人冒険者になる際、貴族の方は家名を廃棄(はいき)する事となり、新たな名前で生活していく事になりますが、よろしいでしょうか?」


 彼女は職人冒険者の世界への第一歩を踏み出そうとしている少年の決断を(うなが)すかのように静かに彼の言葉を待っていた。

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