人造キメラの脅威
「シャムティ、助かった……よく動けたな」
「麻痺毒では死んでも、死にたくないッスからね……この位余裕ッス」
そう大口を叩くが、未だ麻痺毒は効いているようで、大鎚を地面に突き立てて息を切らせている。
「エマもありがとう。エマが援護してくれなければ、今頃、私達は敗北していたよ」
「ううん、私が動く事が出来たのはロイのおかげだよ。ロイありがとう」
「姉ちゃん、ごめんなさい……俺、こんな事になるなんて思ってなくて……本当にごめんなさい……」
ロイは大粒の涙を零し、エマに縋るように抱きつくと彼女は背中をさすり、穏やかに語りかける。
「ロイ、お姉ちゃんは大丈夫だから、此処から早く出なさい」
「姉ちゃん、絶対、絶対、帰って来てね」
ロイは三人に一礼をすると地下室の出口へ全力で駆け抜けて行く。
三人は弟を見送ると騒ぎに紛れて逃亡しようとしているファミリーの幹部とボスを見据える。
「ほ、ほんの出来心だったんだ! 本当だ! た、助けてくれ! 金はいくらでも払う! 何なら、この豚をくれてやる!」
「ラッドォォ、貴様ァ!」
仲間割れしている二人を拘束しようとした時、背後の瓦礫が崩れる異音と共に寒気が襲う。
咄嗟に振り返ると死んだと思っていた黒いローブの男が糸で操られた人形のように起き上がり空虚な瞳で此方を見ると、不気味な空笑いを浮かべる。
「ほーら、見ろォ! 奴が復活した! 殺せ! 私以外の此奴ら全員ブチ殺してしまえ!!」
ガラモスが吠えるように叫ぶが、男の耳には入っておらず、何やらブツブツと独り言を呟いている。
「ゴホッ! 主よ……あぁ……感謝します……教主ベルカよ……愚鈍で浅薄な僕をお赦し下さい……すぐに貴方の傍らへ私も……」
(さっきの手応え……間違いなく致命傷だったはずッス……何故、この男は生きてるッスか……)
生きているのも不思議な男が防具から笛のような魔道具を取り出すと、残り僅かな生命力なのか震えた手を動かし笛を吹く。
笛は不気味な音色を奏でて地下室の室内に響き渡る。
「今ッ! 貴方の御許へ!」
男が口元から鮮血の泡を溢しながら、断末魔のように叫ぶと天井に亀裂が入り、強烈な悪臭や瓦礫と共に一気に何かが地下室に傾れ込む。
男の背後から這いずるように姿を現した得体の知れない触手の塊のような巨大な怪物を、一同、驚愕の表情で凝視していた。
「あ、あれは……」
ラッドは絶句して思わず言葉が漏れたが、我に帰ると全力で出口に向かって走り出す。
ラッドの動きを察知したエマが間髪入れずに道を塞ぎ問い質す。
「ラッド、あれは何?」
「どけッ! エマ! アレはやべェ」
エマも突然現れた怪物に言い知れぬ不安があり、少しでも情報を聞き出す為、焦燥を隠せないラッドに試作の杖の照準合わせて構える。
「答えなさい、ラッド……」
「ったく! アレは、人造キメラだ! 周りの食料になりそうなもんを、どんどん食ってデカくなる化物だよッ!」
ラッドはそう言うとエマを押し除けて、地下室の出口まで全力で駆けて行き、瞬く間に姿が見えなくなった。
視線を移すと男が人造キメラの触手に絡め取られ包まれていく。
「ああ……侵る、挿入って来る……我等、同胞、この影を喰らい……その生命、尽きるまで奪うがいい……犯すがいい……」
男はその言葉を最期に所持品を落しながら完全に触手に捕食され、姿が消えると人造キメラは形状を大きく変化させていく。
――コレガ、ニンゲンノ、アジカ……モット、モット、クワセロォォ――
その容貌は皮膚のみが溶解したような剥き出しの獣であり、竜に酷似した面貌と苦悶の表情を浮かべる人面と触手が完全に融合している双頭の悍ましい醜悪な獣が姿を現した。
その巨大な怪物は空腹なようで口腔内の夥しい量の鋭牙を剥き出しにして此方に突進して来た。
「そうだ!! 殺せ!! 皆、死んでしまえ!! 俺に逆らう奴は、皆、死ねば良いんだ!! お前等――」
悪態を吐く前に逃げ遅れたガラモスは下半身を置き去りにすると腹部の内容物を撒き散らしながら、上半身を食い散らかされ、一人娘を溺愛する五十六歳の生涯を閉じた。
シャムティはグリーンポーションを飲み干し、心底嫌悪した表情で話す。
「オエ〜ッ! 酷い臭いッスね……オマケに人語も学習してる、グロテスクモンスターッスね」
「だが、此奴を此処で止めなくては、スラムは確実に崩壊する……」
「ラッドは人造キメラと呼んでいたよ……多分、吸収した生物の知能や能力を獲得するんだと思う……」
辛うじて突進を回避した三人は赤紫色に変色した皮膚の人造キメラを警戒しながら話す。
幸い怪物はファミリーのボスだった食べ残しに、ご執心のようで、熱心に貪るように食べている。
エマは覚悟を決めると二人に真剣な表情で提案する。
「私が囮になるから、その隙にシルヴァちゃんとシャムティちゃんで攻撃して――」
「却下だ」
「却下ッスね」
あっさりと断られたエマは動揺を隠せず、焦燥した表情で二人を見る。
「エマ、責任を感じているかもしれないが、仲間が一人も欠ける事なく、必ず三人で帰る為に私は此処で戦うんだ。」
「それに、エマチーが突っ込んだら、誰がアタシ達を支援するんスか〜?」
シルヴァとシャムティはお互いに勝気な笑みを浮かべて、涙ぐむエマの背中を軽く叩くと、眼前の魔獣や魔人とも表現する事が出来ない未知の怪物に武器を構えた。




