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シルヴィアの憂鬱

 はじめまして!

 初めて投稿させて貰います。見て頂けるとモチベが上がりますので、興味がありましたら見てください。

 更新は不定期になると思いますが、なるべくテンポ良く投稿できるよう頑張ります。よろしくお願いします。

 (きら)びやかな帝都の建物が並ぶ上流階層区の中、一際大きく豪邸と呼ぶに相応(ふさわ)しい邸宅(ていたく)の一室に一人の少女が険しい表情で椅子(いす)に座っている。

 ギルメス帝国の統治を支えるシルヴァンス家の一人娘であり、四人兄弟の末の長女であるシルヴィア=シルヴァンスが、迎えに座っているテーブルを挟んだ二人の壮年の男女を苦々しい表情で見据えている。


「ああ……可愛いシルヴィ……あなたも十五歳になったのだから、剣ばかり振り回すのも良いけれど、有力な貴族との繋がりを今の内に作る為にも、そろそろ夜会にも参加して欲しいわ。それにシルヴィの美貌(びぼう)を見れば、将来有望な殿方にも見初(みそ)められること間違いないわ」


 そう言ってシルヴィアの母親は自慢の娘を見ている。


「そうだよ、母さんの言う通りだ。しかし私も母さんも責めている訳ではないんだ。シルヴィの将来を心配しているんだよ」


 帝国では重臣(じゅうしん)の立場ではあるが、我が子の前では父親であるジークハーディンは心配そうに愛娘(まなむすめ)の様子を(うかが)ってはいるが、基本的には母親の味方であり、その瞳や姿勢から断固して意見を変える気がないという明確な意思を感じる。


「父上、母様、先程申し上げた通り、私は兄様と同様に騎士になりたいと考えております。故に私はドレスのようなヒラヒラとした動き辛い服は着たくはないし、殿方に微笑んで優雅に話を弾ませ(とりこ)にするような器用な事は出来ないのです」


 シルヴィアは険しい表情で応える。両親との話が平行線を辿(たど)り会話の終着点が見えず、剣術の稽古(けいこ)の時間も迫ってきていたからである。


「とにかく私は稽古(けいこ)があるので、これで失礼します。父上、母様、多忙な所、私の為に、お手間を取らせて申し訳ございません」


 そう言うとシルヴィアは早足で出口に向かい、あっと言う間に部屋から出て行った。


「シルヴィ待って!」


 母親の声が聞こえていたが無視して 稽古場(けいこば)に向かう。

 屋敷の庭園に出て(あゆみ)を進めると木造建築の瓦屋根(かわらやね)の建物が見えてきた。

 シルヴィアは、入口から木剣(ぼっけん)を手に取り稽古場(けいこば)に入ると中央で立っている一人の壮年の男に話しかける。


「師匠、お待たせ致しました」

「おう! 来たかシルヴィ!」


 無精髭(ぶしょうひげ)を伸ばしているゲンが快活に短く応えると木剣(ぼっけん)木盾(こだて)を用意する。

 ゲンはシルヴァンス家では剣術修練の師範代と呼ばれる一人である。

 彼は長年の経験や修行を経て編み出した東西混合流という我流の剣術を教えている。

 大陸東部の剣術は盾を使用せず、攻撃を(かわ)す事で自身の動作の速度を落とさず、間合いの中で素早い剣撃を行う剣術であった。

 一方、大陸西部に位置する帝都カラメルンの最もメジャーな剣術といえば西部の剣術であった。

 西部の剣術は盾を使用し、攻撃を受け流しながら、自身の最も力の入る構えで、体勢の崩した相手に重い剣撃を行う剣術である。

 東西混合流は平たく言えば東部と西部の良い部分を取り込んだ剣術である。基本の型は東部の剣術ではあるが、攻撃を(かわ)すだけではなく、(かわ)すのが難しい攻撃は、盾や障害物で受け流し素早い剣撃を行う。

 より実用的な剣術であるが、率直に悪く言えば不格好な剣術であると言われている。

 シルヴィアは数ある剣術の中で、帝国内でも屈指の実力者であるゲンの剣術の稽古(けいこ)を熱心に受けていた。

 他の師範代と異なり帝都の(もよお)しなどで人に魅せる為の剣術などではなく、私により実戦的な動作の稽古(けいこ)を教えてくれているからだ。


「師匠、お願いします」


 そう短くシルヴィアが告げると稽古(けいこ)が始まる。木製の剣と盾を構え呼吸を(ととの)え相手を静かに見据える。見据えられたゲンの穏やかな(まなこ)が獰猛な肉食獣の様に獲物を狩るものに変わった。

 一瞬で間合いを詰めたゲンは一気にシルヴィアの首筋へ木剣(ぼっけん)を叩き込みにくる。

 シルヴィアは寸前のところで反応し木盾(こだて)で弾くが、ゲンの怒涛の連撃は止まらず、シルヴィアは守る事で精一杯で反撃は一度しか出来ず、それも空振りに終わった。


「首は人間にとってもモンスターにとっても急所だ。稀に首のない奴もいるが、大抵首を切られりゃ死ぬ。それに首を一度攻撃されると、どうしてもそこを重点的にガードしちまう。いいかシルヴィ、剣を叩き込みたい時は、まずは相手が恐怖する所を狙え。そうすりゃ次に叩き込む場所は自然と決まる」


 ゲンは一通りの修練を終えた後、シルヴィアにそう言い残し豪快に笑いながら稽古場(けいこば)を去って行く。

 師匠に稽古(けいこ)をつけて貰い十年になる。その間、立ち合い稽古(けいこ)では一度も勝ったことはない。

 それどころか一太刀ですら浴びさせた事もないのだ。


(私は将来立派な騎士になれるのだろうか……)


 時々、そんな疑問と不安が心の奥深くから暗い顔を覗かせる。

 自身の憧れである帝国騎士になる為にゲンとの厳しい修練の日々を耐えて、帝国騎士である兄との手合わせを週に何度か行い、毎日の(ほとん)どを剣術に費やしている。

 そして、その漫然(まんぜん)とした将来像以外にもこの大陸では、どのような風景が広がっているのか。

 兄から話だけは聴いているが、大陸に巣食う怪物(モンスター)とは実際に、どのような生態なのか、帝都より外に出た事がないシルヴィアは知りたかった。

 シルヴィアの未知への好奇心と変わらない日常への不満は爆発寸前であった。

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