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残虐な表現があります。

 

 体力に自信があった紅矢だが前を走る琥太郎に追い付くことができない。


「紅矢、戦闘になったらオレの側を離れるな。オレが隠れろ言うたら隠れろ」


一番最後に走り出したはずの隆吉は余裕の表情で紅矢に並び話しかけてきた。


「ーー!オレもっ!!」


ハッハッと息が切れる。


「今回は雑魚を相手にするわけやない。刀の扱いが素人のお前を前に出すわけにはいかん。それこそ足手纏いや」


言われているのは当然の事だ。


「ーーっ分かった。隆吉さんの言う通りに動く!」


ハッハッと息が切れているのは自分だけだ…。

もっと修行しないと、もっと強くならないと。



山牙族の村に近付いてくると周りの空気が一変した。出た時とは全く違う妙な騒めきがした。

琥太郎が今までより更に早く走り出し、紅矢は完全に置いていかれた。


「ハァッハァッ」

「大丈夫か?獣人に追い付くのは到底無理な話や。追い付くには術か何か使うかせな無理や」


息も切らさず隆吉が話しかけてきた。


「ーーハァッ。術っ…ハァッハァッ」

「憑依の術か、変化の術、筋力強化の術…やな」


術…。


紅矢の村では術使いはおらず、行商の護衛として来ていた人が術使いだった事はあったが、直接どういった物か見た事はなく教本等の書面上での知識しか無かった。



「ーー。術が使えると使えんじゃ、戦い方が全く変わるんや。高位の術師は術のみで戦う奴も多い…高位の術師になればなるほど憑依や召喚を使うたりする」


「ハァッハァッハァッ…」


「人並に術を使える奴は刀や弓に術を乗せて戦うんや。それだけで何も無く物を切るより何倍の威力になる」


術って凄い…どうやって使うかなんて知らないし使えるか分からないけど覚えてみたい、と思った。  




ーーーザッザザッ


「紅矢」


隆吉に肩を掴まれ走りを止められる。


「隆吉…さん?ハァッハァッ」

「…。一匹近づいてくる」


隆吉は柄頭を一撫でし柄を握る。


「とりあえず、妖術持ちの相手にでも術無しでも戦える所を見せよか…。紅矢、ちと離れとき」


「ーー!はいっ!」


いつも飄々とした雰囲気の隆吉が鋭い眼差しになり、纏っている空気が変わった。


周囲からは殺気を隠そうともしないモノが近付いてくるのが分かる。

牙狼なのだろうか。


「こういう殺気だだ漏れな奴らに対しては楽にやれる」


ニヤリと笑んでスラリと刀を抜いた。

その瞬間ザザッと木々が揺れ牙狼が飛び出して来た。


「ッギャーーーーッ!!!」


大きく吠えながら隆吉に飛びかかって来る。

高く飛び上がり両手が何か纏っているように光っていた。



隆吉はスッと構えて向かって来る牙狼に、片手で持った刀を頭からストンと降ろした。


牙狼は縦半分に割れた。

そんな状態なのに勢いそのままに隆吉を通り過ぎ、その後血を吹き出して崩れ落ちた。


「……凄い」


紅矢は目を見開いてその光景を見ていた。

初めて妖を見た。


その興奮もあったが隆吉は本当にただ刀を降ろしただけ。

力を入れて切った感じは一切なかった。

信じられない物を見た、そう思った。


懐紙で刀を拭い鞘に納める。

一連の動き全てが、特に今何も切らなかったというような錯覚を起こす。


「ほな、いこか」

「ーはいっ」


ザッと再び走り出し何て事のないように隆吉が話をする。


「さっきの牙狼は下っ端も下っ端やな。けど、ただの獣や人間よりは格段に強い奴らや」


「そうなんだっ。っでも、牙狼は妖術を使うってっ、手が光って、たのがそうっ?」


息が少し整って走りながらでも話ができるようになったので聞きたい事が聞けた。


「そうや。下っ端でも使える。全ての妖、魔のモノは大なり小なり妖術が使える」


「ハァッハァッ。隆吉、さんはっ、使える?」


「ああ。オレは法術が使える」


「っほ、法術っ?」


「…話は終わってからや」


村の入り口に着くとあちらこちらから戦いの音がした。


「ーーっ!!」


山牙族は皆、面を付けて戦っている。

刀ではなく弓や短刀での戦闘が主らしい。

体術に優れているからか接近戦で戦っている。


牙狼族は妖術を体術に乗せて戦っている。

牙や爪が武器だ。


「牙狼の爪は毒や。当たらんように用心せいよ」

「わかった」


ドクドクと心臓が高なっている。

カチャリと腰の刀に手をやり落ち着け…と自分を鼓舞する。



戦いは激しく地面に山牙族も牙狼族も関係なく倒れている。



「紅矢こっちや」

「ーーっはい!」


ガチガチになっているのが分かる。


さっき初めて妖を見たんだ。

妖術だって初めて見る。

そんな奴を相手に戦おうなんて…なんて無謀な事を言っていたんだ。


隆吉に付いて行ってしっかり学ぼう。

戦い方を教えてもらおう。




「ーーック!!」


牙狼と対峙して戦っている琥太郎を見つけた。


牙狼は手足を妖術で強化しており、琥太郎は短刀で受け流しながら蹴りを入れている。


琥太郎の短刀が牙狼の爪に弾かれ地面に突き刺さった。


あっと思った瞬間に琥太郎が牙狼の後ろに回り込み首に腕をかけグイッと持ち上げると「ギャッ!」と牙狼が鳴いた。


ボキィッ


骨の折れる音がする。

琥太郎が牙狼の首をへし折ったのだ。


「ーーフゥッ」


「コタッ!」


「紅矢、隆吉さんも…勝手してすみません!でも、ありがとう!」


「…貸しやぞ」


「はい!」


「終わったらしこたま飲むからな!上等な酒と女用意しとけよっ」


「女は無理ですが酒は浴びる程飲めるように用意しますよっ!」


「楽しみにしとくわ」


隆吉の後ろから牙狼が襲いかかってくる。

琥太郎が飛び上がって蹴りを繰り出そうとした瞬間、隆吉の刀が牙狼の腹を裂いていた。



ドサッ



「コタッ!お前何でここにっ!!」

「壱にぃ!大丈夫かっ!?」


琥太郎に走り寄ってくる大きな身体の面の男を琥太郎は兄と呼んだ。


「大丈夫だっ!だけどお前は客人っ」


話している途中でも牙狼が襲いかかって来る。

琥太郎は力一杯牙狼の腹に蹴りを入れ腹を破った。


「オレだって村を!皆を守りたい!」


「……コタ!()られるなよっ!!」



琥太郎は強い。

紅矢の出る幕なんて本当に無い。


ワッと一際大きな騒めきが聞こえ、琥太郎と兄の壱岐は騒めきの方へ走り抜けた。

紅矢と隆吉はその場に立ち視線だけ追いかけた。



「紅矢?」

「皆、強い…」


「何かを守ろうとする奴は敵味方関係なく強いもんや」


「……。」


「紅矢、お前も強くなりたいと思うなら守りたいモノを作れ」



隆吉が紅矢の後ろから襲いかかって来た牙狼の首を一振りで落とす。



「失ったばかりで辛いかもしれん。でも作らなあかん。何でもいいからそういうモノを…」



隆吉は遠くを見てから紅矢を見つめた。


紅矢は隆吉のこの言葉を心に刻み込んだ。






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