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 食事を済ませ身支度を整えて、与えられていた部屋の片付けを済ませ部屋を出る。


廊下には琥太郎の姿があり長の部屋へどうぞと促された。



「そろそろ行かれるか?」


対面でドッシリと座る長の機嫌が良い。


「そうやな。メシもたらふく食わせてもらったし」


「あ、お食事ありがとうございました。美味しかったです」

「よい。久方ぶりの客人だ。もっとゆるりとしていかれてもいいくらいだ」


ハッハッと大きく笑って長は髭を撫でた。


「山を越えてからどうされる予定で?」


と長が話しを始めた時に急に廊下の方が騒がしくなりバタバタと走り寄ってくる音が大きくなった。


「失礼します!長!お話し中すみません!」


「…どうした」


「偵察隊の白蘭と設楽が、怪我を負って戻ってきました。牙狼の奴らと鉢合わせたようで…」


「…牙狼」


今朝、話に出ていた妖の事だ。


「…他の者は?」


「残りの者は応戦中との事です!人数は50程村に向かって来てるそうです!こちらも偵察隊残り2名に加えすぐに一部隊向かわせております」


「ふむ。更に増える可能性は?」


「分かりかねます。可能性は無いとは言い切れません!」


「…分かった。他に増援が必要なら…壱岐(いつき)の部隊を。全員、戦闘の準備に入れ」


「畏まりました。では、失礼します」


タタッと面を付けた獣人の男が去って行った。


「…失礼した。客人よ。案内は…琥太郎」

「はっ」

「お前が山向こうまで案内を」

「恐れながら!自分は牙狼の方へ…」

「ならん。客人を頼んだぞ。では、客人また会う日まで」


長は立ち上がると振り返りもせずに部屋を出て行った。


案内役に指名された琥太郎は拳を握り締めて立ち竦んでいた。




 長の家を出て忙しそうに準備を進める皆にお礼を言い、山の獣人達の村を出る。


琥太郎はあれから無言で目も合わない状態だ。



「隆吉さん、こんな時に自分達だけ村を出てもいいのかな?なんか…申し訳ない…んだけど」


ビクリと琥太郎の肩がふるえた。


「…山の獣人達と牙狼との間に何かある?長がオレに話聞いた時も牙狼?の事気にされていたようだし…」


サクサクと歩きながら問いかけてみる。


「…オレが答えていいもんかわからんが。正しい情報とも限らんし」

「?」


「…まぁ、ええか?」


チラリと琥太郎を見るが、琥太郎は無表情で先を歩いている。


ふぅ、と溜息をついて隆吉が話し始めた。


「山の獣人の山牙族と狼妖の牙狼族とは昔からの因縁の関係ゆうやつで、どっちが強いか、どっちが上かやりあっとる。…昔、牙狼が妖になる前は主従関係があって山牙族が牙狼族を従えとった」


「ーー!そうだったんですね…」


牙狼は元は妖じゃなかった、その事実に驚く。


「そんな頃の話や。山牙の長の娘と牙狼の長の息子が恋仲になった。山牙は自分らより下のモンの牙狼の所になんて一人娘をやれんちゅうて男の首を落として見せもんにした。娘は山牙の一族の中で無理矢理結婚させられた」


「…………」



「まぁ牙狼は元々獣人やけど獣の血の方が強かったし、山牙のやり方は…酷いとは思うが仕方ない部分もあったんかな?昔の事でようわからんけど」


「獣人だった…んですか…」


「そうや。で、牙狼の長が殺された息子の怨みって復讐の為に戦い始めた言うのが因縁の始まりとされとる。その頃から完全に牙狼は妖になった。…オレが知っとるのはこんな感じや」


「…悲しい…話だね」


「………」


琥太郎が何かを言いたげに瞳を揺らした。


「コタ?どうしたの?」



「……。山牙族の…伝承では…娘は牙狼の男に殺されそうになった。それで仕方なく娘が男を刺殺した。とされてる。実際どうか分からないけど、常軌を逸した瞳で娘に飛び掛かって来た…という文も残されてる」



「ふん。昔の事や。オレらには分からん何か別の事があったとしてもおかしない」


「………」

「コタ?」



「…オレ案内を頼まれてるけど…牙狼が来ているなら行きたい」

「コタ…」


「…オレの母も牙狼にやられたんだ」

「えっ!?」


「少し話してもいいですか?」


苦しそうな表情で琥太郎は2人を見つめてきた。

紅矢と隆吉は顔を見合わせ、琥太郎に向かって頷く。


琥太郎はフッと息を吐き意を決して話し始めた。


「母は…獣人の中でも戦闘力が高くて、法術も少し使えたらしく山の偵察部隊の中でも中心的に動いていたんです。オレを産んでからもすぐに戦闘に参加してた」


「ーー!獣人で法術が使えたんか?めずらしい」


「そうなんです。先祖返り…と言われていたけど獣の姿になる事はできなかった。でも並の男よりは強かったから、母に勝てるのは父…長くらいで誰も止められなかった」


「コタは長の息子…?」


「うん。…ある時牙狼が村の近くに来たって偵察部隊から連絡があった。村の皆は母がいるから大丈夫だろうって思ってた。実際は牙狼の中でも上位種の奴らが複数来ててかなり苦戦してたんだ」


「ーーっ!!」



「結果的に牙狼は撃退したけどコッチはかなりの痛手を負った。母は牙狼の上位種によって毒と呪いをかけられてた。…さっき言ってたように獣人には術を使う事ができない。唯一使える母がそんな状態に陥った」


「毒は何とかなっても呪いは…」


呪いは術使いに解術してもらわなくてはいけない。


「そう。母はそのまま息を引き取った。オレが産まれてすぐだったからか…。長はオレをあまり戦闘に出してくれない」


悲しそうな顔で琥太郎が俯く。


「あー、そりゃそうやな。妻を失って息子まで…ってそんなん避けたいに決まっとるわな」


「ーー!でも、兄は一個隊を率いて戦ってる!」


「そりゃ、万が一にも長の息子2人死んだら困るってやつやろ?片方は残す。それは一族の長としてゆう事だけではないと思うがな」


「長の気持ちは痛い程良く分かる。でも、オレだって皆を守りたいっ!!だからっ!!」

「牙狼の所へ行きたいゆう事か?」


「はい!」

「あかん。お前は長に案内役を命じられとる」


「ーーっっ!!」

「お前の気持ちは分かるが、長の気持ちも考えたら、…あかんとしか言えん」



紅矢は話を聞いていて、琥太郎の気持ちが自分の事と同調してどうしても行かせてあげたいと思った。


「隆吉さんっ!!」


思わず、と言ったように隆吉を呼んでいた。


「あかん」


何も言ってないのに隆吉は首を振る。


「隆吉さん!オレ…コタを行かせてやりたい!」


「そう言うと思っとったが…。他所の一族の事に頼まれても無いのに首を突っ込んだらあかん。そう言う暗黙の了解みたいなもんがあるんや」


「暗黙の了解…」


「そうや。琥太郎を牙狼の所に行かせたとして、オレらはどうする?琥太郎と一緒に牙狼の所に行ったとしても、特にお前は足手纏い以外の何者でもない」


「でも!!」

「無駄死にするだけやぞっ!!」


隆吉が今までにない真剣な表情で紅矢の肩に手をグッと乗せた。


ヒクリ…と喉の奥が熱くなり頭の奥が痛んでくる。精一杯の虚勢を張って隆吉を見つめる。


「お前はまだ弱い、実際に自分の村の人間誰も助けられんかったやろ!」


「ーーっ誰も助けられなかったオレと違ってコタはまだ戦いに行ける!」


「紅矢!」


「まだ間に合うかもしれないんだ!コタがもし一人残されてしまったら?…後悔しか残らないよ」


肩に置かれた隆吉の手に力が入る。


「…オレと同じ思いをさせたくない。山牙族は強い、でも万が一がある。その時コタに後悔して欲しくない」


風が強く吹き曝してドゴッと地が割れたような音が聞こえた。


「ーー!!集落の方からっ!?」



紅矢が振り返ると同時に琥太郎が走り出していた。

琥太郎を追って紅矢も走り出す。



「あー!!もうっ!!しゃーなしやぞ!!」


頭をガリガリ掻いて二人を追いかけて隆吉も走り出した。


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