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 あれで良かったのか不安になって隆吉を見ると、よっこいせ…と立ち上がった。



「紅矢、メシでも食わしてもらおうか」 

「え?」

どこで?と琥太郎を見てしまった。


「…こちらへ」


琥太郎が部屋を移動するように襖を開けた。


「隆吉さん、いいんですか?」


「あー?あん時の獣の新鮮な臓物、宿代代わりに渡しとるからええやろ」



傍若無人な隆吉の態度に不安を覚えたが琥太郎が呆れた顔で苦笑いをしたので安心した。



促された部屋に入ると、お膳にご飯、汁、香の物、昨日の獣の肉を焼いた物、野菜の煮物が出された。


思ってもみないご馳走に喉が鳴る。


「こんなご馳走…いいんですか?」


給仕してくれた女性の獣人に話しかけた。


「長がもてなせと言っておりますから。どうぞ召し上がって下さい」


「夜ならば酒も出せたのですが、まだ朝食の時間ですので…」


「酒ならいつでもええのに…」

「隆吉さんっ!」


ぶちぶち言いながら隆吉はいただきますと両手をパンッと合わせ、豪快に飯をかき込み始めた。


「紅矢、食わんのか?食わんやったらオレが…」

向かい合わせに座る紅矢のお膳に箸を伸ばしてきて肉を取ろうとする。


「ちょっ!だめ!止めてよ!!」


肉を取られまいとお膳ごと持ち上げヒラリと躱した。


「お!紅矢やるやないか!」

「ちょっと!隆吉さん!大人気ないっ!!」


お互いに立ち上がり執拗に箸をサッサッと伸ばしてくる隆吉に紅矢は辟易としながらも応戦する。


隆吉は紅矢の足を引っ掛けようと足を伸ばし紅矢はその足をぴょんと飛ぶ事で回避した。


お膳の上の食事は微動だにせず、汁物もこぼれてはいない。

着地した所に隆吉が再び箸を伸ばして肉を突き刺そうとしてくるが、紅矢はくるりと回転して箸から逃れ、回転を利用してそのまま隆吉の箸の上に汁を乗せた。


「おっ!っとっと!!」

「隆吉さん、食事の席で埃もたつからやめてよ。皆さんすみません」


ペコリと頭を下げてお膳を置き、正座した。


箸の上に汁を置かれた隆吉も器用にもそのまま紅矢の向かいに座り直し

「なかなかやるのぅ」とニヤリと笑った。



朝からもう!っと紅矢は怒りながらも、いただきますと手を合わせて挨拶をし、隆吉から汁を取り返すと食事を始めた。


うまい!うまい!と飯をかき込む2人を給仕の女性達は唖然としながら見つめ、琥太郎は驚きを隠せない表情で見つめていた。


「今日はこのまま出るの?」


もぐもぐと、口一杯に米を頰張りながら隆吉に問いかける。


「ん?そうやな。本当は獣人のおねーちゃん達と戯れたいんやけど…」


デレデレとしただらしない顔で給仕の女性達に視線を送り肩を組もうと腕を伸ばした。


「ちょっ…!」


やめなよと声をあげようとした瞬間に襖の方から箸が飛んできて、隆吉はそれをヒョイと躱し箸で箸を掴んで止めた。


「コタっ!」


肩を組まれそうになった女性が大声で襖の方を向いて声を上げる。


「すみません。でも…」

「本当にお客様に向かって!すみません!ほらっ頭下げなっ!」


ぐいっと琥太郎の腕を掴んで頭をパシンと叩き、押さえ込んで土下座させた。


「お、おぉ。大丈夫や。なんか…すまんな…」


「ごっごめんなさいっ!隆吉さんのせいだよ!あんまり変な事しないでよ!恥ずかしい!」


「お、お前…恥ずかしいって…」


「琥太郎さん!頭上げて。悪いのは全部隆吉さんなんだから、隆吉さん!ちゃんと謝って!」


紅矢は隆吉の頭を掴んで下げさせた。


「す、すまん」


「琥太郎さん、すみません」


隆吉の隣に座り手を着いて同じように頭を下げると琥太郎と獣人の女性達がまた同じように頭を下げた。


クククッと隆吉が笑い出し、つられて琥太郎も笑い出した。女性達もフフッと顔を伏せて笑いを堪えていた。


紅矢はそれをポカンとした表情で見てなんで笑ってるんだろう?と不思議に思ったが、自分も何故か笑いが込み上げてきて笑ってしまった。


…あんな事があった後なのに楽しいと思ってしまう自分に驚く。


楽しいと思ってしまった自分に戒めを…とも思ったが隆吉のペースに巻き込まれている自分も自分なのだ、と素直に思えた。




「ご飯、お代わりもありますので沢山食べて下さいね。では」


給仕の女性達が笑いを堪えながら部屋を出て行った。

琥太郎はそのまま部屋に残っている。



「琥太郎、言うたか。昨夜もそうやったがもうちっと殺気抑えんとすぐにバレるぞ」


もぐもぐと再び食事を始めた隆吉が茶碗を琥太郎に突き出してお代わりといいながら話した。


「っっ!!」


正直、琥太郎の殺気なんて紅矢には微塵も感じなかった。


琥太郎も隠し通していると思っていた殺気を指摘され驚きを隠せない様子だった。


「さっきのおねーちゃんとなんか関係あるんか?」


隆吉はニヤニヤと意地の悪い顔で琥太郎を挑発している。


「…あの人は兄の婚約者です。だから、ああいう事をされると困るので」


茶碗に米を山程よそって隆吉に突き返した。


「ほーん」


ニヤニヤが止まらない隆吉はバリボリと香の物を口に放り込みながら話を続ける。


「好いとるんか…?」

「っっ!!」


琥太郎がおひつをガシリと掴んで投げようとする。

それを見た紅矢はそんな事されては米が勿体無いと、サッと琥太郎の手からおひつを奪い取った。


「っっ!!」


琥太郎が空投げになった自分の手を見つめ、驚いたように紅矢を見つめた。


「ご飯を無駄にしてはいけません!お天道様は見ておられます!」


プンプンと頬を膨らませて怒る紅矢とは対称的にニヤニヤ笑う隆吉と驚きに震える琥太郎の朝食の時間は

賑やかに過ぎていった。






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