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少し残虐な表現があります。


 村の全員を埋め終わる頃にはもう夜中になっていた。


最後にじぃさまとばぁさまの所へ戻り自分の手で2人を埋めた。


いくら拭っても涙が溢れ出てきてどうしようもなかった。

今までありがとう。そしてさようなら。感謝してもしきれないくらい愛情をくれた2人に、もう会えないなんて…


墓を作り手を合わせていると、ジャリッと足音がした。


「…隆吉さん。オレ…強くなりたい」


後ろを振り返ると隆吉が顎に手をやり腕を組んで立っていた。


「…じぃさまとばぁさま…村の皆の仇を取りたい」


「…そうか」


「隆吉さん、オレを戦えるように鍛えて下さい!お願いします!!」


ガバリと土下座をし砂を握った。



「…鍛えるも何も、オレは人に教えるのは苦手なんや」


「お願いします!お願いしますっ!」



涙がボロボロ零れ落ちた。



「……しゃーないか…ついて来るか?」


溜息混じりに隆吉が頬を掻きながら答えてくれた。


「っっ!!あっありがとうございますっっ!ありがとう…ありっ…」


涙と鼻水でグチャグチャになりながら額を地面に擦り付けた。


「ほいじゃ、立って。いつまでも地面にへばりついとったらあかん」


グイッと腕を掴んで立たされた。


「かっるいのぉ。まだ13やったっけ?お前さん名は?」


「…紅矢…です。紅の矢で、紅矢」


「ふむ。いい名や。あと、丁寧に喋らんくてええ。むず痒い」


「はい。あ!はい」



ガハハッと豪快に笑い、ポンと肩を叩かれた。


背の高い隆吉を見上げると

空には月が煌々と光っていて、いつもとなんら変わりのないその夜空の表情に無性に腹が立った。



「…とりあえず行こか」


「…行くと言っても…どこへ?」


海には船があったが全て壊されていたはずだ。

移動手段が無いのでは?と紅矢は心配になった。


「山を越える」


「え?山を?」


「そうや。簡易食料になるもんと水は持って行く。荷物の準備をしたら行くぞ」


「は、はい」


山を越えるという隆吉の目に曇りはなく本気で行くんだと言っていた。

旅の荷物を軽くまとめ、首に下げている紅い矢尻のようなモノをギュッと握りしめ


「じぃさま、ばぁさま、今まで本当にありがとう。仇を取ったらまた帰って来る」

と呟いた。



「隆吉さん、準備できたよ」


「ん?おう。紅矢は刃物は持ってるか?」


「…懐刀なら…あとは木刀しかないで…す」


「ふむ。少々心許ないかもしれんな…お前のじぃさまは刀持っとらんかったか?」


「…一振りあったかも」


まだ自分が幼い頃にじぃさまが手入れをしていたのを覚えている。触ったらいけない、と強く言われていたのを思い出した。

荒らされた家の中に戻りじぃさまの物を探す。


「見当たらない…」


「そういう時は、ここや」


隆吉がバリッと畳を剥がすと隠し扉のような物があった。

ほらな、という顔をして隆吉は扉を開いた。


すると、一振りの刀と見覚えのない柔らかい布と小さい巾着袋が出てきた。


「ふむ、良い刀や。コレ借りていけ」


隆吉が手に取って見ていた刀を渡してきた。


「…じぃさまは、なかなかの使い手やったんかもしれんな」


「え?」


「名は入っとらんが、しっくりと手に馴染むような柄、鞘もしっかりしとる。ちょいと抜いてみな」


恐る恐る柄を握って鞘から抜く。

キラリと光る刃先が見事だった。


「こんなキレイな状態っちゅうのは手入れが行き届いとる証拠や。刀を扱うモンにとって命みたいなモンやから、放たらかしにはできん」


手に馴染む。しっとりと湾曲した姿が美しかった。


「ただ、手練れやったらこんなやられ方はせんと思うが…」


「…じぃさまがどうやってこの刀を手にしていたのかわからないけど、大事にお借りします」



カチンと鞘に刀身を戻し腰に刀を下げる。


一緒に入っていた柔らかい布と巾着袋も一応持っていく事にしようと荷物に詰め込んだ。


「まぁええか。紅矢、刀の使い方は分かるか?」


「普段は木刀で鍛錬はしていたけど、刀を触ったのは今が初めて」


「…まぁ、道すがら振っていったらええか」


そして2人は山側の道へと歩いて行った。




「…隆吉さんは、今回の犯人知ってる?」


「うーん、知っとると言えば知っとる。知らんと言えば知らん」


「…?どういう意味?」


「対峙した事がないって事や。見た事のある者もおらんし、あくまで噂でしか知らん」


「…そうなんだ」



ふと、陸多を助けようとした時に魔のモノと目が合った事を思い出した。



「…オレ、見たよ」


「っっ!どんな風体やったか覚えとるか?」


「目が合った程度だけど、紅い瞳だったと思う、猫みたいな瞳孔だった」


燃えるような色だったのは覚えている。


「後は?人型だったか?獣型だったか?ツノ、羽、尻尾はあったか?」


「一瞬だったから…詳しくは見てないけど、人型だった。ツノとかはわからなかったよ何かを巻いていたような?でも髪は黒かったと思う。それ以外はごめんなさい。覚えていない」


全体的に黒っぽい中で瞳が真っ赤だったのが印象的だった。


「そうか…。人型か…。瞳は紅。それが分かっただけでも収穫や」


うん、と頷いてザクザク山道に入っていく。


「紅矢、今日はこのまま朝まで歩いて行こう思っとるがついて来れるか?」


「はい。体力には自信があるから大丈夫だと思う」


「ハハッ。頼もしい限りや。途中獣やら何やらが出てくると思う。山の手前はまだ弱い奴等ばっかりや、刀を振る練習やと思ってがんばり」


「っはい!」


「刃こぼれはさすなよ?丁寧に振る事を心がけるんや」


腰の刀の柄をそっと撫でて頷いた。



あれだけ静かだった山の中は今は夜中の音が沢山聞こえる。

ガサッと木々が揺れホーホーッと鳥の鳴き声がする。

木々の間から光る瞳がコチラを覗いている。


空の月と星の輝きで暗闇の中を何とか歩いていると


「うん。紅矢、じきに獣…猪かなんかが来る。準備しときや」


「はい」


ふぅ、と息を吐いてカチャリと柄を握った。


「無理そうやったらオレが切るから安心し」


スラリと刀を抜く。引っ掛かりも無くまるで意思を持っているかの如くスムーズに抜けた。


今度は大きく息を吸い、吐き切った。


その時目の前の木々の間がガサガサッと動き荒い呼吸が聞こえて黒い影が飛び出してきた。


目の前に獣が向かってくる。

いつもは木刀で叩き落としたりしていたが、刀で切るというのは初めてで緊張する。


再度大きく息を吸い込み、刀を振りかぶった。


向かってくる獣の勢いに合わせて振りかぶった刀をスッと振り下ろす。

その瞬間獣が止まっているかのように見えた。


ザシュッと音がしてプギャッという鳴き声と共に獣の勢いが止まり頭が落ちた。

ゴロリと頭が落ちてから血が吹き出す。


「…ホンマ良い刀や。こりゃ切れ味良すぎるかもしれん。扱いが難しいか…」


ハァハァ…誰の呼吸だ?息が荒い


ドクンドクン…心臓の音がいつもより大きい。


握りしめた柄が汗で滑る。


初めて生き物を切った。

思っていたより重みも無く切れて少し怖くなった。


「紅矢?大丈夫か?」


「…ハァッ…フゥッ…。だ、大丈夫」


「見事な切り口。初めて切ったとは思えんな…。ホレこれで血を払え」


「っはい」

受け取った懐紙で血を拭い去り鞘に納めた。


返り血なども浴びる事なく切った獣の首と胴体を見る。

「すごい…」


「この刀はかなりヤンチャ娘やな。反りが合わんと上手く動いてくれんタイプや」


「…切れ味が良すぎて…振りまわされる気もします…」


「ハハハッ。ヤンチャ娘の手綱ちゃんと握っとらんと逆に切られるかもしれんな」


ガハハッと笑って獣の心臓と肉の一部を切り取り

「こんだけは持って行く。あとは他の獣が食うやろ」


ザッザッと歩き始める隆吉の後を紅矢は少し放心状態のまま追いかけた。






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