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のっぺら無双  作者: やあ
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記録五:研究室〜祭壇

 キノクニは敢えて触手に抗いませんでした。このまま連れて行かれれば、自ずと遺跡の最深部に辿り着けると考えたからでした。

 "お前はお前の目的を果たせ。"とは、"私は私の目的を果たす。"という意味だったのです。

 別のグリモアがあれば、そのグリモアに自分の事を聞けばいい。あのグリモアよりは、情報を持っているだろう。と、キノクニは考えていました。キノクニは、自分のグリモアを全く信用していなかったのです。

 

 「…」


 シュルルル…


しばらく引きずられた後で、触手の動きが緩くなりました。どうやら終点のようです。


 「…ふんっ!」


 ボンッ!!


 キノクニの体が一瞬発光し、筋肉が膨張しました。触手はひとたまりもなく、弾け飛びました。

 ビチャビチャとしたたる破片をものともせず、キノクニは周囲を見回します。


 「…最深部という訳では無いようだ…」


 実際、そこは遺跡の中腹であり、何か意図して作られた部屋のようでした。


 「…家具は新しい…この遺跡と共に在る物では無い…」


 キノクニは注意深く観察しましたが、これと言った情報は得られませんでした。大量の本や、なにかの器具や機械は沢山ありましたが、興味を惹くものはありません。探索を打ち切り、通路に出て、より深く潜り始めます。


 「…」


 音を立てず、ゆっくりと通路を進みます。時折触手が襲ってきますが、一瞬で斬り伏せ、突き進みます。


 やがて、キノクニは祭壇のような部屋に辿り着きました。大人が20人は入りそうな、だだっ広く円い部屋です。


 台座が部屋の中央にあり、そこに何か刺さっています。


 「…」


 よく見るとそれは、純白の手斧でした。

 柄だけでなく、刃まで真っ白な手斧は、不思議な魅力を放っています。


 キノクニは、慎重に手斧に近づきました。


 カチッ


 「ふっ!!」


 バシッ!


 床にスイッチがあったようです。キノクニのこめかみを目掛け、矢が飛んできました。ただの矢ではありません。先に黒い液体が付いています。恐らく毒か何かでしょう。キノクニはそれを掴み取り、投げ捨て、先程よりも慎重に、手斧に近づきます。


 カチッ、バシッ!


 カチッ、シュバ!


 カチッ、ガキン!


 あるスイッチは床から針を生やし、あるスイッチは天井からギロチンを降らせてきますが、キノクニはものともせずに進みます。

 後1歩のところまで近付いた、その時でした。


 「キエエエエエ!!」


 ガギィィィィッ…バキン!


 最後に天井から、頭は禿鷹、身体は人間という、異形の生物が降って来たのです。

 その嘴が刺さるすんでのところで、嘴を剣で防ぎましたが、刃が折れてしまいました。中程からポッキリと。


 「ギエッ!ギエッ!ギエッ!」


 シュインッ…!


 禿鷹男は嘲笑うかのように鳴き声を上げると、真白の手斧を一息に抜き、構えます。


 「小賢しい…」


 キノクニは剣を背中のホルダーにしまい、距離を取ります。


 「ギエッ!ギエエッ!」


 ブンッ!ブンッ!


 禿鷹男が鳴き声に合わせ、手斧を振って来ますが、キノクニはヒョイヒョイと躱していきます。


 ドンッ!


 しかし、ついに背中が壁に当たりました。もう逃げ場はありません。


 「ケェ…ケェ…ギエッギエッギエッ!」


 ブワァッ!


 今度こそおしまいだと言わんばかりに、禿鷹男は手斧を振り下ろしました。このままキノクニは死んでしまうのでしょうか?


 「ぬりゃあ!!」


 フォンフォンフォンフォン…

             ドゴン!!


 キノクニは、背中の折れた剣を思い切り引き抜き、勢いそのままに投げつけました。

 禿鷹男にではありません。天井にです。


 「ギッ…ギエッ!?」


 禿鷹男も、訳が分からず、思わず手斧を止め、天井を見上げました。

 それが、命取りでした。


 「愚か者が。戦闘中によそ見をするな。攻撃を止めるな。」


 キノクニがガッチリと禿鷹男を捕まえます。両腕を捻り上げ、跪かせて、首を晒させました。


 「ギギッ…ギエエエ!!」


 禿鷹男はバタバタと暴れますが、暴れれば暴れるほど、腕はギチギチと捻れます。


 「ギッ…ギェアアアアア!」


 ガララランッ…!


 ついには手斧を落としてしまいました。

 

 メキメキメキッ…!!


 天井が剥がれて、瓦礫が2人の上に降って来ます。そこには、ギロチンがありました。

 あと数秒もかからずに落ちて来るでしょう。


 ガララッ…!


 ギロチンが瓦礫と共に落ちました。真下には禿鷹男の首があります。

 

 「ギッ…ギイイイイ!!」


 禿鷹男が叫びます。何かを呼ぶように鋭く、激しく。


 「無駄だ…大人しく…」


 ズブシュッ……!!


 唐突に、キノクニのからだが揺れました。そして真っ赤な血が噴き出します。


 キノクニの肩に、禿鷹男の手から落ちたはずの手斧が深々と食い込んでいました。


 「ギッギッギッギッ!!…ギィ?!」


 しかし、キノクニの拘束は微塵も緩みません。それどころか、さらに強く、禿鷹男の腕を捻り上げます。


 「これで終わりか?このくだらん手品で。」


 「ギッ…ギキャアアアアアアアアアアア!!!」


 ズブッ!!


 ギロチンは見事に禿鷹男の首を斬り飛ばしました。禿鷹男の顔は、死に対する恐怖と、血を肩から噴き出しながらも、自分を抑え続けるキノクニに対する恐怖とに染まり、絶望の表情を浮かべていました。ブシュブシュと、切り離された首から、血が噴き出します。


 「最後まで愚かな禿鷹よ…拘束を解きたくば、私の首を狙うべきだった。」


 グッ…ズジュッ…


 死体を蹴たぐり避けたキノクニは、手斧を掴むとゆっくりと引き抜き、手斧を腰のホルスターに掛けます。


 「任意に操れる手斧か?…使えるかもしれんな。」


 純白の手斧は、付着したキノクニの血を吸い尽くし、その白地をあらわにしました。

 キノクニは知らぬ内に手斧と血の契約を交わし、所有者として認められたようです。手斧にはよく見ると、白銀の装飾が施してあり、非常に美しい様相を呈していました。

 実のところ、血の契約にしくじると魔力が暴走し、先程の禿鷹男のような化け物になってしまうのですが、キノクニは運が良かったのでしょう。


 そして、キノクニは剣を取り出し、折れた刃と刃を合わせ、気合いを込めます。


 「ふんんっ……!!」


 ミキビシパキパキパキ…キィン!


 剣は見事に繋がりました。もちろんこの剣も、ただの剣ではありません。くすんではいますが、金の鍔に金の刃紋、黒い柄を持つ名剣です。

 まだキノクニが冒険者として各地で暴威を奮っていた頃、敵から奪ったものでした。

 本当は鞘も金色だったのですが、遥か昔に失われてしまっていました。


 修復を終えると、剣の血を軽く払い、背中のホルダーにしまいます。


 「…ふうぅ…」


 ところで、キノクニの肩の傷はいつの間にか塞がっていました。何事も無かったかのように、綺麗に、跡も残さずにです。

 まだまだキノクニには謎が多いようです。キノクニ自身にも、自分の力の何たるかは、分かっていませんでした。

 

 今回の探索で自分の情報を得る。


 そう強く考えながら、キノクニは静かに、慎重に歩き始めました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 所変わって、こちらは先程までキノクニが居た部屋です。

 メールとグリモアを捕らえた色白男が戻って来ました。この部屋は色白男の研究室だったのです。


 「クカカカ!!!…意図せず2つも材料が手に入った!!!生娘に魔法書(グリモア)!!!これなら秘薬が創りだせるかもしれない!!!」


 男は歓喜の声を上げ、小躍りさえしていました。踊り慣れていないのでしょう。とてもぎこちなく、気持ち悪い踊りです。


 「~~~……ぶあっはあ!!!こら!クソ魔族!秘薬てなんやぁ?!オレ達に何する気や!てか離せこのモヤシ男!!口に手ェ突っ込んで、奥歯ガタガタ鳴らしたろかい?!えぇ?!」


 「…下品で、威勢だけは良い魔本だ…!!!貴様から混ぜよう!!!そうしよう!!!」


 「せやからなんやねん!!混ぜるて何を…」


 「"クワイン"」


 「むぐっ!!」


 グリモアは再び沈黙させられてしまいました。カッとなると相手に罵詈雑言を並べ立て、苛立たせてしまうのがグリモアの悪い癖です。そうするぐらいなら、超音波攻撃をした方がよほど効果的だと思われます。


 しかし、いくら後悔しても後の祭りです。グリモアはもう超音波どころか声も出せません。

 色白男は、いくつかの本と巨大なスプーン、大量の薬品を片手に抱え、哀れなメールと間抜けなグリモアをもう片手に担ぎ、床をトントンと軽く蹴ります


 シュバババババババ!!


 すると、どうしたことでしょう。床の石材が端に避けていき、できた隙間から大量の触手が這い出て来ました。

 触手達は愛おしむように色白男を包み込みます。


 「さあ!!!連れて行っておくれ!!!地下の実験室まで!!!」


 触手達は男の命令を嬉々として受け入れ、男ごとシュルンと地面に潜りました。

 もちろん、抱えられたメールとグリモアも一緒に。


 果たして、男の言う秘薬とは何なのでしょうか。そして、メール達はどうなるのでしょうか。

 何より、キノクニの情報が見つかり、旅は終わるのでしょうか。


 続きは次回のお楽しみです。



 

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