葛の葉病院にて。前編
ちろるです、いやぁ書きましたよ…6000文字。
13000文字までいったもので前後編と分けさせていただきます。
「こいつ重いな…なぁーんでこんなことになったかなぁ…旅は置いてけ世は非道、じゃなかったっけ?」「馬鹿行ってないで走りますよ、こちらの子は大丈夫ですがその子は霊力の回復で気力は持ち直したものの…体は危ない状態です。」
馬鹿言ってる兄に対し誉は溜息を付きながらその足を着々と京に近づけて行った。
元々二人は六拡散の封印要所の鳥居の丑の刻参り人形の家浄めと取り外しに来ていた…が、帰り道これだ。
二人は互いに言い合いながらも、(ついてねぇ…)と愚痴っていた。
「…何か雑談しましょう。」お?と銀は驚いた顔をする、こんな時に雑談とは誉らしくもない。
「こいつが血だらけなのにか?」確かに重傷を負っている人を背負って話す事ではない。
「死にはしません、危なくなっても私の薬がありますから。」訝しむ銀。「…あれ、高いだろ?」誉は類を見ない笑顔で…「旅は道連れ世は情け。」
一言で片付ける誉に苦笑をする。
「で何話すんだ?」「先ほど馬車を漁った時、その子の霊力と合致する双子札が出てきましてね…」
「…嘘だろ?」「いや、ここに。」誉はポケットから双子札の一対を取り出す。
「おいおい、こいつ坊ちゃんか?」疑問の目を背中に向ける。
「知らないですが…双子札を買える辺りそうなんじゃないですか?」
誉の話も聞かず銀は双子札を観察する、あわよくば描けるように紋様を覚えようと思ったのだ。
「んー?でもこれなんか…あれ?違ったけか?」「どうしました?」銀は双子札を欲していた、それは鬼人化等の近接妖術しか持ち合わせていないためだった。
双子札について、双子札は雌雄一対で揃う特殊な札でこいつの良いところは霊力を”雌雄で共有する性質”にある。それはどう行った良さなのかというと…ズバリ近接で発動する妖術を遠距離で発動させることができる。妖術は昔から強ければ強いほど、遠くに送るまでに消費する霊力が馬鹿にならないので、強力な一撃を持ち、尚且つ遠くに送るのが困難な妖術を近接型妖術と単純な呼び名だがそう呼ばれてきた。使い方は雌雄どちらかの札を対象の地点に投げるだけ、別に霊力消費も必要としない…
まぁ他の札と違って雄だけでは術を発動出来ない、使い切りなどの難点も抱えているわけだが。
それでもその有用性は測り知れない、がその性質故に久野咲個人が買い占め、相場を引き上げ簡単に買えないようにするなどの処置が行われている。
「んーこれな、なんか普通の札と模様と違うんだよ。多分これちゃんと発動しないんじゃないか?」
「なんでそんな物持ってるんでしょうね…まさか模造品販売者…?」銀の背に乗ってる少年を見てまさかと目を細め、眉を中心に寄せる。
「それは無いだろ、久野咲受けれなくなるじゃん。第一こんな金持ちがか?」
「では元々その気がない又は変装という線は?」
「捨てきれないっ…が、それもこれも葛の葉に運んでからだな。」銀は足をズザザザザーっ!と勢いを止めて目の前を見る。京だ、始まりの地とも言われる知らぬ者はいない場所…繁栄の地、この国の代表。
数多い名前が謳われるそんな京だが、何故か兄弟はこそこそと門を移動していた…大きな門、瓦屋根で夜でもその黒さがわかるほどの光沢を放っている。
ちなみに門印は狐の形である、特徴的で稲荷門とも愛称が付けられている。「兄者、別にこんな…」
「馬鹿!神奈に見つかるぞ…ほらっあそこに居る。」
銀は門の目の前にいる短髪の女性をさす、釘野神奈、同級生である。下駄に赤の袴、緑の上着に菊の模様が入った簪を付けている。そんな上品の服装には似合わない”釘”を何本か指と指で挟んでいる。ここ京では夜でも断然人通りが多い為、その格好は断然目立つ。
通る人々は通って良いですか…?と聞く必要も無いのに小声で聞く人がなぜか居るぐらい物騒な雰囲気を出していた。と、急に神奈が銀達の居るところを向き歩いてくる。実は彼女、”目が見えない”否、見えないよう布で目を包まれている、それは彼女の固有妖術が原因なのだが、それは割愛しようと思う。それよりも見えないのに何でこっちがわかるんだ?!と毎回冷や汗垂らす銀とは裏腹に誉はこっそり逃げようとしていた…が。「誉くん、逃げても無駄よ。」やけに透き通った声は彼らの耳にしっかり届いた。釘野神奈は特殊な釘を使って個々人の霊力と波長を捉える事が出来る、それが理由だとはつゆ知らず…
「そこか。」カタカタと下駄を鳴らしながらこちらに歩いて来る姿は不気味である、観念した銀は誉の首根っこを掴んで神奈に近寄る。
誉は「珍しく素直ですね」と呟く。
「こいつ、そろそろあぶねぇからな。」
「あ、銀!遅いですよ。」神奈は銀の声にいち早く反応して近寄る辺り慣れている。
「神奈、至急だ。葛の葉はやってるか?」
神奈は突然病院のことを話題に出され困惑する。
「?まだやってますよ、どうしたんですか?」
「怪我人、背中が一部炭化しかけてるし、血だらけでな。」背中からは包帯から血が滲んでいた。
「分かりました…大怪我ですね、これは絞られるんじゃ無いんですか?」
「やめろ、怪我人から搾取してもらう。俺は知らん、命より精子大事にする奴なんていないだろ」
下品ですよ、と誉が寧を背負い直しながら言う。
「こんなこと話してる時間もねぇ、早く行くぞ。」
「君達遅い時間に何しに来た?今29日になったとこだよ、つまり0時、遅えよ。」
目の前の男気発言をする女は薫。果凪淫一族の者である。
果凪淫一族とは族全体の繁殖能力が凄まじい一族である、果凪淫どうしで生殖行為に及んだ場合、果凪淫の血が産まれるが、例えで仁と薫が生殖を行なった場合仁の血が反映される。尚果凪淫一族の男性が他の一族の女を産ませた場合も同様。この不思議な体質を持つので太古の戦争で戦後の子孫繁栄に強く貢献した一族、幻術を得意とする素質を持って生まれてくる。
今もそれは変わっておらず性に対する執着が凄い、また一族全体美形揃いが生まれてくる事でも有名。
由来は戦後の終わりの風として復興に淫らな彼らを見た柊木が付けたらしい。
柊木、または柊木一族については割愛する。
豊満な体の持ち主で族があれなだけに余計色っぽく見える、肌が焼けており白衣との温度差が彼女が医者という事を悟らせない、彼女は着たくて白衣を着ている訳ではないが…
「うっせ、俺だってこんな時間しかも重症患者背負いたくて背負ってんじゃねぇ。」
爪を弄りながら、怪訝な目で薫は問う。
「拾って来なければ良いじゃ無い、そこんとこどうなのよ。」銀はうぐっと図星を突かれ喚く。
「あぁ〜もうめんどくせぇ!取り敢えずコイツ死にそうになってんだよ!おん前本当に医者かぁ?!」
五月蝿いと眠い目を擦りながら小さい片手を前に出す薫に銀は嫌な予感がする。
「…なんだ、お代ならコイツが」
「お前の精子、くれ。」「…?」
とんでも発言をするこの女医の言葉に銀は理解が出来ず誉に目線を送る。
「……」誉は目が迷ったが一歩前に歩き少し息を吸って言う。
「お代はこの子に払ってもらいますので…」
「嫌、精子。」
「…何故銀の精子を?」疑問もっともだが…
「いやぁ、私の体でも幽鬼って産まれないのかなって?」「「…?」」
思わず誉も黙るこの酷さ、一族の特性を抜いても彼女を正常にはとてもみれない。思わず兄弟揃って彼女を二度見してしまった。と言うか銀は気付いてないが地味に誉は銀を売った、酷い。
「えー?またタダ働きはやだよ?」無駄に可愛く振舞っているのが腹たつ、溜息をついた銀は強引に。
「お願いだからこいつ取り敢えず見てやってくれ、ほら、金払ってくれるらしいし。」
(適当なので保証はしないがな)
「あーもう只働き…えっ何これ?!炭化…?」
銀が仁の服を破いて背中を見せると、薫はやっと真剣になってくれた。
「なんで早く見せなかったのさ?!なんだこの傷?!ぐあーめんどくさい!君!」
薫は近くにいた帰る所の男性医師を呼び止める…慣れた様に男性医師は。
「はいはい、手術室2番が…これはこれは、やけどにしては酷いですね。」
「運ぶよ!」「はい!銀さん誉さん帰って良いですよ…おや、その子もですか?」
「あぁ、薬漬けにされてた、頼む。」「分かりました、おい!その子も見てやれ!」
男性医師は手早く他の看護婦などに声を掛ける、担架が到着して仁が運ばれて行く。それを見届けた仁と誉は神奈を連れて久野咲へと帰るのだった。
仁はその2日後に目を覚ました。
(…?なんか暗いな…布?僕今どこにいるんだ?と言うか何してた?俺久野咲に行こうとして。)どこかに寝転んでいるらしいが、背中には何も感覚がない。
ゆっくりと仁は起き上がると、目の前がしゅるると言う音と共に光が目を焼ける様に照らす。山に広がる秋の光景…ではなく、褐色肌の白衣の女の人がいる。
「ほぇ?」と間抜けな声を出した仁は急速に思考が加速し、ようやく事態の問題に直面した。
(ふむ、目に眼帯が巻かれててそれが取れて…で目の前の…あ?)
「は?は?は?あなた誰ですか?!」
顔に驚きを貼り付け思わず後退しようとする。
「は?とは酷いね、君を救った命の恩人と名乗っておこうか」(命の…恩人?)
「僕を…救った?」「そう、君、背中の火傷が酷かったよ、金槌で肌を叩くなんて初めてだ。」「…は?」
「はいはい、一から説明するよぉ。おーい寧ちゃーん?」よく見れば隣にも障子を抜けて布団があった、こちらを泣きそうな目でみつめる寧の姿があった。それを引き金に様々な光景が脳裏や思考を焼いて回った。(そうだ!野盗達に襲われてそれで寧の暴発で背中が焼かれて…助かったのか。)
「思い出しっ」「はい、説明が先、お代も貰ってないんだから仕事を優先させろ。」
高圧的な喋り方に気圧された仁は黙った。
「よし、先ずは仁君。君は背中の真ん中から円形に肌が炭化してた、まぁ有り得ない傷だと自分の目を疑ったね、その為に私の固有妖術・再生の水を使う必要があった。だからね炭化した肌を砕かせて貰った、まぁ端的に言うと金槌で硬く黒い肌を叩いて割ったってこと。」「…砕く?僕の?え?あっ」
仁の顔が青ざめ、強烈な吐き気が食道付近を襲う。
「うっがはっ…はっ…」
胃の中が空なのか吐けない苦しみに悶える。
そりゃ想像すればそのエグさに吐き気ぐらい催さないほうがおかしい話というもんだ。
「仁…」寧は仁の吐けそうで吐けないその辛みを顔に出すのを見て目を背けたくなる。
「まぁ治ったから良いじゃない、ちなみに君、手術中痛みでおかしくなってたよ。
幻術が効かない痛みって相当だねぇ。」
いらぬ情報である、何かがまた目の前に現れそうになったが多分手術中の光景だろう、仁は思考を転換させて強制的に忘れることにした。
「それ要らない…」「一応必要だと思ったんだけど」「要らないですいいです。」早急に断らせてもらった
「んで、次に寧君。君は媚薬で薬漬けだね全く誉君に同感だね、行き過ぎた快楽は拷問に等しいうちの薬師も…っと話が逸れた。まぁ今言った通り媚薬で体全体が性感帯状態になってね。強力な解毒剤を投与した、頭がくらくらしないかい?それが副作用だ時間が経てば治るから気にするものでもない。」
かなり早口で彼女は喋っている、気だるそうな態度がほんとに医者なのかと疑問を抱かせる。性感帯と聞いて布団に顔を埋める寧、耳が赤いので恥ずかしいのだろう。
「幸いにも誉君の応急処置で媚薬は脳の環境を破壊しなかった、九野咲行ったら誉君と銀に礼を言いなよ?」
「はい…あの、先生もありがとうございました。」
「私は医者だからね、礼では無くお代を貰うもんだよ、ただ働き真っ平御免。」
そう言いながら先生は二つの紙を仁と寧に渡す…請求書であろう。(どんなものか…?!)治療方法の荒さに比べそれは意外にもお高いお値段でした。
寧の方もちょっと眉をひそめている、二人とも心境は同じく、(実家に手紙かかなくちゃ…)
という思考で満たされていた。
そんな二人…いや、寧を置いて置いて褐色先生は仁の元へと妙な色気を出しながら近づく。
(これは…親父に頼るのは御免だが今回の件は完全に予定外、親父も仕方なしと了承はするが…何を引き換えにだろうか?)
ちょこっと恨めがましい目を先生に向けようと先生の場所へ目を向けた仁は先生が居ないことにん?と目を開き気配のある寧の方へ視線を向けると…そこに居た。本当に目の前で額がぶつかりそうな距離である。
「どうしました?まだ何か…まさか入院料は別途ですか?!」違う違うと言いながら色気を振りまき近付く仁は、褐色先生の豊満な体つきを見てある事を思い出し少し恐怖を覚えながら聞く。
「先生…お名前を何と?」先生はニコニコ笑っているが目が笑っていない、欲望に取り憑かれた目だ…あの御者と同じ目をしている…!
「気づいたか少年…感が良すぎるのは危ないよ?」
不穏な空気が流れ始める…「あの、先生?」
先生の変わり様に寧は気圧される。
「はーい寧ちゃんは御退場!」へ?と気の抜けた声がでた寧は先生によって障子を閉められる。
「…果凪淫?」顔が恐怖に染っていく。
「ご名答!よく勉強してるねぇ九野咲受かるよ?」
「嫌だァァァ!」絶叫する仁。「仁?!何?何がどうなってるの!先生?何してるの?」混乱状態の寧。
「こら傷だらけの体で逃げるんじゃなあいの♡」
先生は部屋の隅に追いやられた仁を優しく見詰め詰め寄る、その優しい顔が今はとても不気味に見える。部屋は阿鼻叫喚となった…
「何で?!何で僕?!」最もな疑問だが…んーと顎に人差し指をあて可愛く唸る先生だが正直な話男から見れば恐怖の対象でしか無い。
「だって…最近だあれも私に精をくれないもの。欲しくて欲しくね…」
(やはり理由が逸脱している…絞られる、こんな形で"頂かれる"のは嫌だ!)補足として入れておくが精の飢餓に陥った女性果凪淫は絞り尽くすまで喰らうと言われ、非常に危険である。その為の法まであるのだから今の状況は本当に笑えない、彼女も殺す気は無いだろうが本能と欲求のままに喰らわれたらもうどうしようもない、しかも今は札も陣も何も持ち合わせていない…そんな所に救世主が!
「ほらこうなると思いましたよ。」突然よく通る男性の声が障子の向こうから聞こえ少し落ち着く仁とチッと舌打ちをする薫、障子が開け放たれ誉が姿を現す。
「何しに来たの誉君。」薫は睨みをきかせ誉を睨む、誉は臆する事無く淡々と事実を並べる。
「銀に見て来いと言われましてね、今日は休みを取らせて貰ったので序で寄ってみたらこの有様…
果凪淫は法で無理搾取は駄目と決まっていますよ、その子を離しなさい。」
「えー」「えーじゃないです。」
仕方無しにと薫は仁を離す、その際舌舐めずりを忘れない辺り無理搾取をかなりして来たのでは?と仁は恐怖に駆られる。
ごほんと咳払いをした誉は仁の方をむく。
「君は初対面ですが僕は君を助けてましてね…その時を覚えていますか?」
「え?あっいえ…野盗に追われて必死で馬を動かした事ぐらいしか覚えてなくて。」
「なるほど、今日は事情を聞きに来ました、覚えている範囲での回答を求めます。」
仁は頷く、それを見て微笑を浮かべる誉。そして反射的に誉は表情そのまま部屋の一角を人睨み効かせる、視線の先に居るのは薫。
「薫先生、今日の診察は終わったでしょう、私の見立てでも憎たらしい事にあと5日はあれば治る。貴方の再生の水のお陰でね。」
「そうでしょうそうでしょう?だからお礼に…だめ?」誉は前より眼力を込めて睨む。
「良いわけ無いでしょう。大体幾ら貴方の固有妖術が強力とはいえ何ですかあの治療方法、仁君が訴えれば普通に有罪ですよ。」
有罪と聞いて少しびびったのか動揺を隠しきれない態度で自分を弁明する薫。
「だ、だって炭化した皮膚なんて治すの初めてだったもの…あんなの逆に私以外後遺症が傷のみで治まる医者なんて居ないわよ!」「僕の薬。」「あ…」
忘れていた…と呟く薫、それを見てジト目になった誉は出て行くよう諭す。
「はぁ…もう良いでしょう?貴方は他の方にも必要とされている、仕事に戻るべきです…夜の仕事は昼にすべきことでは無いです。」
薫は不満を口にする。「だって興奮が収まらな」
「僕の薬、これ上げますから飲んでおいて下さい。寧さんの媚薬効果を無効化した代物をもっと煮詰めて希少な生薬を入れました、それ飲んで仕事に戻りなさい。」「やったあ!戻るー!」
薫は上機嫌になって戻って行った、芝居のような一幕に呆気にとられていた仁は誉のさて…という声に我に返る。
「話が大幅に逸れましたが、とにかくあの夜何があったのかという事を聞かせてもらいます。寧さんもですよ、よろしくお願いします。」
「「はい、分かりました。」」
僕達は…珍しく声が揃った。
次回投稿は2日後になるかと、修正等を丁寧に入れさせて頂きます。
活動報告も書きたいですし…23日に投稿です。