波乱万丈!馬車の旅。後半
ちろるです、暑さに身悶えちろるは遂にチョコソースへと変貌を遂げた…
チョコは固まるのが意外と遅いのです(謎理論)
「寝ちゃった…さっきまで疲れてる素振りは見せなかったのに。おっちゃん、この子すごく疲れてる感じだったとかなんか様子が変だったとか無かった?」
仁を馬車の上まで運びながら寧は御者に聞く。
「私は何も…あぁ確か、酔いが回っていたらしく少し気持ち悪そうにしていたのを思い出しました。」
「んっそう…そっかぁ…なんで言わなかったの?」
(何?息が荒い…身体も火照りが凄い。)
「それが夕食前のことだったのですが、大したことないですと私に言って夕食を出したら普通に食べたしたので、大丈夫なのかなと…貴方も息が荒いですが大丈夫ですか?」
寧は体全体が湿り気を帯びてきたのが分かった。
明らかな身体の異常は、急速に寧を蝕んでいった。
体の奥底、芯が熱されていくような感覚…それと共に出てくる異常な量の汗。
「おっちゃん…す、水筒ってどこっ!」
「へ、へぇ水筒はここに…お嬢さんどうしました?肌が汗で濡れて…」
寧の変わり様と、気迫に押され、急いで水筒を取り出す御者のおっちゃん。早く早くと急かす寧は頬を赤らめ、切ない気持ちが頭を覆い尽くす感覚に混乱した。
「ちょっ、ちょっと?本当にどうしたんです!」
御者はかなり慌てているらしいが当の本人は原因を探っていた…(多分…"盛られた"ボクと仁も、でもいつの間?!あっくぅぅ…切ないっ…!でも…おっちゃんしか…盛れない…いい人なのに、騙された…?)
だらしない顔をしていることにも気付かず思考を続ける寧、問題は何処で薬漬けにされたかだ。
そんな寧に御者は近寄り、水筒を持つ手とは反対の手で服越しから力強く二の腕を掴む。
「っ!キミやっぱり…っ!」
明らかにこの場で御者がやるべき事は、体温計や症状を聞いたりすべきだ。二の腕を掴むという選択肢は無い、寧には御者が恐ろしく思えた。
「いやぁ…もう我慢出来ないですよ。」
遂に確信的発言をした御者は近く立つ木の根元に寧を叩きつける形で覆いかぶさる。
もう寧は声ひとつあげれば喘ぐ状態、今も歯を食いしばって快楽に耐えているが時期それも限界。
しかも犯人に襲われている、危険だ。
(…!やだっやめろぉ!)
御者は寧の汗で濡れた服を脱がせようとする。
寧は赤い袴に白の着物という巫女服のような着こなしである。覆いかぶさられ、男を後ろから見れば左右に寧の長い髪が夜風に少し靡いていた。
彼女はすっかり涙目になり、ひっぐ…と怯えた声と喘ぎが混ざった吐息を吐いていた。
「何か…助けてっ仁…!」
思わず寝ている仁に助けを求めるが、寝ている相手に
それは無理な話である…
「余裕が無くなったね…良いよ、その顔…はぁっ」
欲に染まりきったその顔は、彼の本性とも取れるだろう…思わず寧は目を逸らし、二の腕に掴まれていた腕を振り払う。
「反抗的だなぁ…大丈夫、痛くしないよ…ふひっ」
誰が見ても気持ち悪い態度に、耳を塞ぎたくなる。
その時、寧は自分の袖から何か出ているのが見えた。
(!あれは確か仁から貰った…)
先程、仁が眠る前に持っとけと寧に渡した、目の模様の入った不思議な御札…寧は思わず男の胸を押して地面に転ばせる。「痛っ、何すんだこの尼!」すぐさま札を取り出し集中する。
(札は霊力を込めないと発動しない…中身も分からないけど、取り敢えず目の前のあいつに犯されるよりかはよっぽど良い!)「…」寧は集中する、この世界では誰しもが霊力を持っている。誰でも霊力を行使して妖術を使うことが出来る。ただ、それには並ならぬ集中力と行使の技術が必要だ…寧にはそれがある。
今ここで妖術師が寧の行いを見れば驚愕するだろう。
寧は体の奥深くに眠る自分の霊力を引っ張り出す…手に持った札に霊力を注入し、本来の力を引き出す!
途端身体の火照りが邪魔をしてきたが、寧の癖である周りが見えなくなる集中のお陰でさほど邪魔にはならない…寧の心臓付近から桃色の光が血管を通るように枝分かれして手の甲まで伸び、札に繋がる。
「力を貸して!」そんな一声とともに僅か6秒の時間で術がその力を解き放った!
仁は異様な眠気にやはり違和感を感じていた。
寧に渡したのはこの眠気に対して持つだけで耐性が付く物と、双子の札…その効果は…
「痛ったい!来たか!寧?!寧どこ!」
仁を起こす為の強めの電撃。
「仁ここ!助けて!」
寧は御者…いや、男に襲われていた!
「くそ!野郎共はどうして美人にこう弱いんだよ!欲望丸出しであほ面晒して…」
怒りのせいかいつもより口調が荒い仁は、懐から3枚の札を出し、一枚を御者に投げつける!
札は紙とは思えない硬度と速度で御者の足首に突き刺さる。途端悲鳴をあげる男。
「お前が寧にやった事を倍にして返す!」
寧に向かって走りながら術の行使を準備する。
仁の固有妖術『1式・構築と破壊 氷室』
手に先程とは別物の双子の札を取り出し貼り付け、足首に突き刺さっている札と霊力を繋げる。
そして手を合掌、そのまま手の指と指が上下にむくよう手首を捻り、両方の指が両方の手首を掴める形にする。こうする事で術は完成する。
「構築、氷室!」男の足を札ごと凍結させる。
「い、いだァァァっ足、足がっがぐぁ!」
足は氷漬けにさせられ、札を中心に17寸(約51cm)程の円形の氷の球体が出来た。
「うるさい!氷室、壊れろ!」
仁は何故か閉じ込めた足を解放するように氷室を壊した。そしてそのまま男の背中に直接もう1枚の札を力任せに握りしめ、刺す!
御者は悲鳴をあげるが、構い無しとまた双子と突き刺した札に霊力を手に札が触れることで直接繋げる。
まだ先程の氷室の氷は溶けていない、それこそ仁の狙い…氷室は構築の際周りの湿りを吸収する。
その際に水分に霊力を含ませ、その霊力を引き寄せ水分を回収し、凍結させる。
つまりその氷にはまだ霊力は残っている、操作も可能。氷室の強みはここにあり!
「痛いぞ、歯を食いしばれ…!」
仁は文字通り霊力の高ぶりによって『怒髪、天をつく』状態にあった、栗色の髪は先が光って何かに下から吹かれているかのように、ゆらゆらと髪が揺れている。瞳の中には仁の霊力が青い火を灯している。
仁は氷室の再構築を行い、三本の鋭利な弧を描く氷に変形させる。
「三本・鋭利氷結爪」
冷たく告げた仁は、服の袖が勢いで振り回されるほど強く手を後ろに下げ、一気に男の背中を引っ掻く様に天まで手を上げる。
三本の氷の爪はそれに呼応する様に宙に浮き上がり、男の背中を痛めつける。
「いだっいだぃぁぁぁ!つめだいだぁぁっ背中、背中が…あっっつ…だ、誰がおい!お前ら、数で攻めろ!こんなガキに怖気付いてんじゃねぇ!」
(仲間?!気づかなかった、札を…ぎっ、やばい。
霊力の枯渇…寧っ、寧。)
大人の身体が子供より大きい様に、子供の霊力を貯める器は小さい。怒髪天なんて状態まで放出すればそうなるのも当然の理、迂闊だった。
急いで寧の元まで近寄ると、感じた…複数の気配。
寧に向けられる欲望の眼差し。
「じっ仁!ふぁぁ、良かったぁ良かった…」
格好が凄いなんて思考を一瞬でもした自分を心の中で殴り飛ばす。
「立ち上がれるかっ?!怪我は…無いか。」
「起きれないっ身体が麻痺しゅてる…」
「毒を貰いまくったな…あいつら最初からお前が目的か。」仁は寧を抱え、馬車まで走る。
「仁っ危ないっ!」寧は霊力の素だしによる暴走反応を起こす…"矢が迫っていた"。暴走反応で爆発が起き、仁は背中を焼かれた。服はじりじりと焦げ、肌は炭化寸前…いや炭化していた。
「あっがぁぁぁぁ!」「仁!ごめんねっごめんね…」
寧はまた目尻に涙を溜める。
爆発の衝撃で意図的では無い舌噛みにより何とか意識だけは持っていかれなかった仁はまた走る。
痛みはこれ以上無いほどの苦痛と化していたが、感覚の麻痺か何かで歩きに支障は無かった、が。
(目の前がふらっと…爆発のせいかっ!)
三半規管が衝撃によりやられたようで、目の前がくらくらする。炭化するほどの爆発なら当然だ。
察した寧は仁と同じくふらつく手つきでさっきの札を取り出し、霊力をまた込める。
電撃が仁を何とか持ち堪えさせ、おぼつかない足取りで馬車まで向かう。
爆風により起こった砂塵により矢が四方八方から、我武者羅に放たれている。
我武者羅にうった矢が当たるわけもない。
そのおかげか何とか馬車まで辿り着いた。
馬は暴れまくっていたが、荷台に取り付けられた杭によってまだその場に残っていた。
急いで荷物と一緒に寧を荷台に乗せて馬なんぞ乗った事がないが御者の見様見真似で馬の背中に鞭を打つ!「ひひゃぁぁぁぁん!」奇声を発しながら馬は前進し、杭は爆発のそれもあってかすっぽり抜けて馬の進行を妨げる物はもう無くなった。
(これどうやるんだ?!道なりに走ってくれてはいるが…にんじん棒みたいなの持ってたな。)
痛む背中に舌を噛みながら耐え、急いで目を左右に振る。「仁…これっにんじんの袋!」
寧は歯痒さを感じる体を力いっぱい動かし、にんじんの入った袋を仁に投げる。
受け取った仁は近くにやはり棒があったと釣竿を手に取り、焦る気持ちを抑えて何とか餌を竿に括り付ける。なれない形で両手で餌と鞭を弱った体でなんとか操作して、馬を早くに走らせながら、寧に札をひとつ持たせる。
「仁、これは…?」
「すまない、それに霊力を込めてくれ…あいつらが追ってきてる、感覚だがお前を狙っている以上確定だろう。だからこその邪魔だ。」
寧は言われた通り、霊力を込めるがなかなか上手くいかない…寧だって三半規管によるふらつきの中でも
お得意の集中力を活かせるわけでは無い。
そんな超人がいる訳無いのだ…
そんな中、後ろから馬の顔が見え始めていた。
「仁ぅっ…おっひゃん達が…」
奴等か、と言うのは野暮だろう。しかし一言一句違わず言ってしまう程、仁と寧は追い詰められていた…が
「よしっ釣竿にかかった!馬がっいい感じ!」
(信仰なんてしないが、この時ばかりは天に感謝しとかないとな…)
仁は何となく馬と一体化した感じがした、餌にここで釣られるのも彼等が爆発による生命の危険を感じたからだろう。
少し事情が違うが心が繋がっている気がした。寧も込め終わった札を後ろに思いっきり投げる、途端地面が突然の浮上、追っていた馬車の一部は宙に放り投げられたが、追ってきた奴らの一部は避けた様である、しつこい。
馬は全力で平面とはとても言えない、凹凸の激しい坂道を降りていく…かつて何処かの本で見たある戦の崖を馬で降りた勇気ある英雄を思い出す!
傷とは裏腹に、仁はかつてない高揚感に心が満たされていた。(今どこだかは見た事あるから分かる…
だからこの森を一直線に抜ければ近い!)
無謀とも取れる選択を仁は取る。木々の間に馬車を割り込ませ、荒い坂を駆け下りていく。雨風を凌ぐ屋根は枝によって無残に破られ、
車輪もきしっきしっと音をたてながら限界が近づきつつある中で坂を転がる。
がさっがさささっ!びりびりり!そんな馬車の壊れゆく音が仁の心を揺さぶる。
(頼む…持ってくれ!今だけは!)
実はこの六拡散には、六つで一つの妖怪と呼ばれる妖が封印されているという噂がある。
噂ではあるが実際に警備や巡回が居るらしいので何かがいることは確かだ、問題はそこじゃない。
巡回がいるという事は、この大きな馬車の壊れる音でこちらに気づくかもしれない。一つの賭けであった。
「おい、何か来るぞ!」「何ですかあれ?!」
巡回の警備兵(仮定)は迫ってくる馬車を把握出来ず、一度後ろに跳び馬車を避ける。
馬車はそのまま京に繋がる川に落ちる…所でギリギリ落ちなかった。
「見に行くか?」
「行った方が良いです、行って確かめて水路警備だのに任せれば良い。」
二人の男は顔を見合わせ、恐る恐る馬車に近寄っていく…近寄っていくと誰ともしれない呻き声が聞こえてきた。男性のものだろうか?
「おい!誰か居るのか?!」
「返事してくださーい」
呻き声に気づいた男二人は急いで坂を駆け下りつつ返事を求む声を掛ける。
(勝った!賭けに…かっった…ぁ…)
「じ、仁助けが…!っ仁!仁!返事して!誰か!」
女の声?と首を傾げる二人は取り敢えず馬車に近寄り、警戒しながら中を除くと…
「!おいお前!怪我、大怪我じゃねえか!」
「キミ誰…?もしかしてさっきの!お願いボクはなんでもする!仁を!男の子をっ」
さっきってなんだと自分でも思いながら必死の叫ぶ寧…
「さっきだぁ?初対面だよ!おい誉、そこの女もなんか様子がおかしい、助けてやれ!」
「銀!貴方に言われなくても!」
二人は仁と寧を岩陰に横になるよう仕向け、銀と呼ばれた男は腰につけた小さな鞄から包帯を取り出し、
誉と呼ばれた男は何やら薬瓶を取り出していた。
(!よく見たら髪型違う…)
誉という男は長髪を後ろで一つにしていて、長い前髪は癖になっているのかふわっとしていてぱっつんと
揃っている…銀は全体的にアホ毛が気になる、短髪で前髪は左右に分けられていて額の中心に札が貼ってある…二人とも高身長で寧は162あるのにそれすら小さく見える。
「何があった!この傷っ炭化しかけてるじゃねぇか!」
「ボクのせい…霊力の暴走で近距離暴発を起こした…お願いします!ボクは良いから仁を…その子を!」
「落ち着きなさい、君は何か薬でも盛られたのか?」誉は寧の体に近づき鼻をすんすんと匂いを嗅ぐ。
「…!媚薬だろう?体が熱い、この薬を飲みなさい。彼はあの人が助けてくれますよ。」
誉は薬瓶から液状の薬を、腰につけた鞄から粉薬3種類を取り出し、薬瓶とは別の瓶にそれらを混ぜ合わせ
むせない様に寧の口に流し込んでいく。
「なんでっわかったの…?」
相変わらず苦しく悶えている寧の体を抱き起こし、薬を飲ませる。
「薬師ですから、そんなに強いものを使用されれば薬自体の匂いも強くなるんですよ。」
難なく誉は言っているが普通の嗅覚では匂いを感じ取れるのは困難に等しい、かなりやり手の薬師…なのか?
「おい、お前こいつには薬を盛られたりとか見てないか?」
仁の背中に布を押し付けながら銀は寧に問う、押し付けた布からは血と体液が染み付き少し流れるほどだった、その傷から目をそらしたくなる衝動を抑え寧は落ち着いて答える。
「ねっ眠いって…凄い眠気って言っていたから眠り薬だと思う。」
寧は誉の薬で一気に意識が覚醒する、同時に快楽も消し飛んだ…誉は声をあげて溜息をつく。
「行き過ぎた快楽は拷問に繋がる、誰だこんな媚薬作ったの。」
どんな感情も当てはまらない目をして誉は静かに怒る…先ほどの仁の様に怒髪天状態だ。
誉を見て銀は口元を歪める、いいじゃねぇかと呟く。
「誉、それ寄越せ。強めでも良いから俺にぶつけろ。」
誉は銀に言われ溢れ出る霊力を手に収束させる、精神力なはずなのに物体的圧力を感じる程力は強い様だ。(まさかこれをもらうの?バカなの?!)
「だめだっ」
「良いから見てろ挑発ボク娘、誉、いいぞ。」
「ボク娘って何?!」
誉は銀を目の先に捉えると、直径2メートル近くまで大きくなった霊力の球を銀の右手の甲を狙う。
霊力の球体は近くの岩を触れただけで削り取った…(何考えてるの?)
「来いっ」「行きます。」
誉は足を力一杯前に踏み込み銀の手の甲に擦り付ける。誉自身も強大な霊力に集中しなければ制御できない様だ…そして、それは起こった。
「!?な、なんで、なんで球が消えてくの?」
「俺と誉は双子の幽鬼族、こんなこと造作もない。」
(幽鬼族?何それ…)不安にさせる族の名前に少し戸惑う寧。銀はでこの札を引き千切って捨てるながら、「これで最後ぉぉ!」
銀は大きく声をあげると光る右手を仁の背中の心臓付近にかざし、一気に放出。普通直撃すれば仁の器であれば壊れるはずだが、銀は大幅に辺りに自分を介して放出している様である、証拠に銀の体は蛍光の様に発光していた。
「一見仁というあの男は衰弱状態ですが、霊力枯渇に見られる生気の抜けが見えます。」
一気に怒髪天状態から抜けた誉はかったるそうに首をコキコキ回している。
「霊力枯渇?あっ…ボクのために札を消費して、それで…」
誉は考察する。(札を…なるほど、慣れないものに力を使った?いや、違うか。)
しばらく寧と誉は銀を眺めながら雑談する。
「キミ…いや、貴方達は誰?どうして助けてくれたの?」
「不思議な事を聞きますね、助けてと言ったのは貴方でしょう?」
「そうだけど、普通無視とか関わりたくないとかそう言った感じで助けないとか…」
誉は相変わらず無表情、何を考えているかは言動でしかわからない。
「なるほど、幽鬼族は別に心まで化け物じゃありません。人を助ける心ぐらいは持っています。」
今のは嫌悪を兼ね備えた解答だろう、寧は幽鬼について何も知らないので首を傾げる。
「あぁ…知らないのですか、珍しい。人皮鬼なんて聞いた事ありません?」
「昔文献で…キミ鬼なの?」
「キミか貴方か、どちらかに揃えて下さい気持ち悪い。」
ごめんなさいと謝る寧に、背の高い誉はかがんで額の髪を搔きわける。
(?何か…額に付いてる、あ、札…)なんだか今日の寧は札に縁があるらしい。
誉はゆっくり額の札を剥がそうと手を掛けたところで…「よいしょぁぁ!おわっタァ!」
びくっと身を震わせ寧が声の方を向くと。
「おい、さっき何でもするって言ったよな?」
先程まで仁の側にいた銀…らしき人?は寧の真ん前にいた、それよりも迫力が凄い。
「えっあ、うん…」ほんのり赤く頬を染めながら肯定する寧はそう言えばと忘れそうになった事を。
「じ、仁は?!」
銀の脇から見れば息はある様だが…?
「んー?ありゃ長生きするな、俺の霊力放出を器の昇華によって受け止めやがった。」
長生きという単語は寧の体を動かすのに充分な心強い言霊となった、急いで仁の近くまで走る寧。
「仁…!よがったぁ…うぅっごめんねっごめんなさい。…」仁に寄り添う寧を見てちっと舌打ちする銀、舌打ちは寧に届いた様で寧は振り向き。
「助けてくれてありがとうございまっ?つの…!?」
「あ?何で驚くんだよ、お前誉から幽鬼について聞いてんだろ?」
「ボク聞いてない!」
寧が見た銀は先程より細いがしっかりした体格、長身ではなくて。あまりがっちりした印象は与えないがでかい腕と超長身…そして黒い目は青の炎を映す鏡の様に、小さな光を放っている…そして何より凄いのは額のぶっとく鋭いつの。
すっかり身を引いてしまった寧に銀はイラっと顔に書いている顔で溜息をつく。
「んだよ何でもするっつったのに…」
「限度があるでしょう兄者。」
どうやら誉は弟らしい、何となくわかるが。
「いっいや、キミ達は助けてくれたし…別に…」
ごにょごにょと口ごもる寧。いや口ごもらなければ問題だが…二人の鬼兄弟は目を合わせる。
「…とりあえず医者に見せに行くか、京の葛の葉ならこの時間でもやってるだろう。」
「そうですね、ここからかなり遠いですけど…まぁ大丈夫でしょう。」
(病院…本当に助かった…あぁ仁ぅ!助かったよっ…あぁ…)疲れからかばたっと倒れる寧を誉は支え、背中に背負う。
「誉、良い男じゃねぇか。」「茶化すな兄者。」
「こいつら何あったんだろうなぁ…課題言い訳って怒られっかなぁ…」
「怒られるでしょうが証言者としてこの二人を持ってくれば良い。」
「それもそうだな、あっそう言えばこいつらが乗ってた馬車。なんかあんじゃねぇの?」
あぁと誉も何か思う節があるらしく、立ち去る前に漁ることにした。
「銀、霊力の光が見えますよ…貴方のその少年が使ったものじゃないですか?」誉は怒髪天後の兆候である
髪の先の変色を指摘、確かに栗色の髪は先だけ何故か白くなっていてそこだけ老化したみたいだ。
「多分こいつら…いや、こいつら久野咲受けにきたんだろ。」札や霊力の扱いに慣れている辺り銀はなるほどと察した。
「でしょうね、霊力や幽鬼を文献で知ったとこの子が言っていました。」文献ねぇ…と銀は呟きつつ馬を馬車から離してやる、馬は一声鳴いてどこかに去って行った。
「荷物も持って行ってあげますか、あとあと貸しにして。」言っていることが酷い…人の心は無いのか。
「お前もえげつねぇが…慈悲ゆえだろ?」
「どうでしょうね、それで言えば銀。貴方もでしょう?」見ず知らずの人を助けるのは慈悲である。
どうだろうな、と笑って荷物らしき袋を背負う。
誉は額の札を破って鬼人化している…やはり封印的な何からしい、誉は楽々とでかい鞄を抱いている。
「帰りましょう、この姿を見られると面倒です。」「同感、行くぞ」
遠目から野盗達は悔しい目をしていた。
「くそっ上玉だったのによぉ。」
長くなりました、書きたいことかけたのでなんか良いかなと思ってます。
媚薬を盛られたのに濡れ場という濡れ場ではない…どういう事だ。
まぁ姦淫の一族が出てくれば濡れ場は解決するでしょう、次回は遂に京です!