第九話 朝日向さんの作戦!
7/4 21:00頃
最後を少し修正しました
翌日。
僕らのクラスは、家庭科室に集まっていた。
『はーい、じゃあ調理実習始めますよー』
西条先生がホワイトボードの前でやんわりとした声で言った。相変わらず、ふんわりとした空気を醸し出している。
そう、今日の三、四時間目は調理実習なのだ!
本来の時間割通りならば、家庭科は三時間目だけだった。けれど、四時間目の南原先生が気を利かせてくれたみたいで、授業交換をしてくれたらしい。
さすが南原先生。強面な見た目なのに、意外と優しい。
そして、肝心の調理実習するグループなんだけど……柏木さん達と同じだった。
「よろしくな。寺沢、永島」と柏木さん。
「二人とも、よろしくね」と玖珂君。
「皆さん、美味しいカレーを作りましょう」と島崎さん。
「……よろしく」と町田さん。
「よろしく頼むッス!」と小松君。
「う、うん。みんなよろしくね」
「よろしく頼む」
この五人に加えて、僕と瑛二。女子三人、男子四人のグループだ。
ほんとに運が良いのか悪いのか……。
──と、こっそり柏木さんが歩み寄ってきた。
「て、寺沢。ちょっと言っておきたいことがあるんだけど……」
『まずは説明するから座ってねー。はーい、座って座って』
西条先生に促され、席についてから話を伺う。
『今日は、みんなでカレーを作っていきたいと思います! ご飯はこっちで用意してあるけど、それ以外の材料はちゃんと持ってきたよね? それじゃあ、手順の方だけど──』
「それで、どうしたの柏木さん?」
「なんか申し訳なくて言い出せなかったんだけどよ……あーし料理苦手なんだ」
「……え!?」
『どうかしましたか? 寺沢君』
「い、いえ。何でもありません」
思わず大声を上げて、先生に注意されてしまった。他の生徒達にも笑われちゃったし、気をつけないと……。
それにしても、柏木さんが料理苦手だったとは……。あれ、これもう作戦失敗じゃない?
「料理が苦手、かあ……」
手で頭を支えて、呟いた。
うーん、これは……料理上手で気を引くんじゃなくて、一緒に楽しい思い出を作る、とかの方向の方が成功しやすいんじゃないか……?
そんな僕を見たからか、柏木さんが不安気な声を漏らした。
「そ、その悪い……。作戦立ててもらったのに、申し訳なくて言い出せなかったんだ……」
「ああ、ごめん! 柏木さんを攻めたいとかじゃないんだ。ただ、少し作戦を改良させる必要があると思っただけで!」
「そ、そっか。……新しい作戦は思いついたのか?」
「作戦ってほどじゃないけど……みんなで楽しく作れば良いと思うんだ」
「そ、それ作戦って言わねーだろ!?」
『柏木さん、作戦って何かな?』
「……ごめんなさい。なんでもないっす」
大声を出した柏木さんが、先生に注意された。
まあ、あれだけ大きな声を出せばね……。
柏木さんは相当恥ずかしかったのか、顔を赤くしたまま話を続けた。
「一緒に楽しむって、作戦って言わないだろ!」
「いや、そうなんだけど……ここで無理してアピールするより、一緒に思い出作った方が、後々役に立つかなって」
朝日向さんには申し訳ないけどね。
「そうか……」
「だから、今は存分に楽しまないかなー、なんて」
「いいな、それ」
「え?」
まさか同意してくれるとは思ってなかったから、間抜けな声を出してしまった。
柏木さんはそんな僕にかまわず身を乗り出して、
「だからそれだよ、その作戦! よし、今日は存分に楽しむぞ!」
『柏木さん? 楽しむのはいいけど、まずは話を聞いてね?』
「ご、ごめんなさい」
ゴゴゴ、と効果音が聞こえてきそうなほど、西条先生は怒っていた。
三回も止められたら、そりゃあ怒るよね。おとなしく話を聞いておこう……。
そして、数分後。
先生の話を聞き終えた僕らは、早速作業を開始することにした。
「まず、切るところから始めていこうか」
「……賛成」
「包丁は三つもらってきたッス!」
玖珂君が見事なリーダーシップを発揮し、小松君が包丁を持ってきてくれた。
小松君、包丁の数え方は丁だよ……。
「Aさんが持ってきてくれた鶏肉は切ってあったから除外するとして……にんじんと玉ねぎ、じゃがいもの三グループに分けようか」
ここでちょっと操作したいな……。ダメ元でやってみよう。
「く、玖珂君」
「ん? どうかしたかい?」
「僕と瑛二でにんじん切るから、玖珂君と柏木さんで玉ねぎやったらどうかな-? なんて……」
「おい、俺はにんじん担当でいいなんて一言も──」
「ね? 玖珂君、どうかな?」
ケチをつけてくる瑛二を黙らせて、どうにかごまかす。
大丈夫かな? 少し不自然すぎるか?
「ボクと凜で玉ねぎ担当、か。ちなみに、どうしてボクらが玉ねぎ担当が良いと思ったか、教えてもらってもいいかな?」
「え、えっと、それは……」
玖珂君が、純粋に疑問に思ったように聞いてくる。
どうしよう、何か理由を……だめだ、思いつかない。ええい、適当にでっち上げちゃえ!
「任せられると思ったんだ! 玖珂君と柏木さんなら! ほら、玉ねぎって切ると涙出てきちゃうし!」
「そっか……うん。そういうことなら任せてよ!」
玖珂君がめちゃくちゃいい笑顔で頷く。
ああ、やめて……そんないい笑顔をこっちに向けないで……。
思わず顔をそらした僕をスルーした玖珂君は、みんなへ組み分けを伝え始めた。
「じゃあ、島崎さん、まっちー、小松でじゃがいもお願い。凜はボクと一緒に玉ねぎ担当だよ」
「わかりました」
「……了解」
「綺麗に切るっス!」
「お、おう。あーしと玖珂で玉ねぎだな!」
「じゃあ、始めていこう!」
「「「おー!」」」
玖珂君のかけ声で、一斉に作業に取りかかり始める。
「瑛二、僕らも始めようか」
「はいはい」
瑛二は呆れた声で返してくる。
きっと今日も作戦のこと、バレてるんだろうなあ……。
ひとり苦笑を浮かべ、にんじんを洗い、皮をむき始める。
にんじんは動かさず、包丁を──って難しいぞ? 途中で途切れたり、厚く切りすぎたりと、なかなかうまくいかない。
「それにんじんを動かすんだぞ」
見るに見かねたのか、瑛二がアドバイスしてくる。
試しにやってみると、まだ厚いものの、途切れることはなくなった。
すごいな、これ! 少ししか改善してないけど、ちょっと楽しいぞ!
「瑛二、これ楽しいね!」
「よかったな。でも、あんまり厚く切りすぎるなよ?」
「りょーかい!」
料理って以外と楽しいものだね! これからはお母さんの手伝いで、料理してみよう。
そういえば、柏木さん達は……。
視線を向けると、二人は目に涙を貯めて、笑い合いながら玉ねぎを切っていた。柏木さんが泣きながら玖珂君を叩き、玖珂君はそれを避けて笑みを浮かべている。
とても楽しそうだし、あれなら大丈夫かな。
よし、こっちもやっていくか!
順調に下準備を終えたにんじんを、テーブルにまとめておく。
「あれ? 寺沢達も終わったのか?」
「あ、俺達も終わったッスよー!」
ちょうどみんなも終わったようで、じゃがいもと玉ねぎを同じ場所に置いてくる。
みんなのも綺麗に切れててすごいなあ。
全員が下準備を終えたのを確認したのか、玖珂君が再びリーダーシップを発揮する。
「みんなうまくできてるね! じゃあ次、炒めていこうか」
「え? 炒める? 煮込むんじゃねーのか?」
「うん、最初はね。確か、余計な水分を飛ばすとか、煮崩れを防ぐとか……詳しくは分からないけどね」
「へえ、玖珂くわしいんだな。そういえば、さっきの玉ねぎも手際よかったし、もしかして料理好きなのか?」
「うん。趣味みたいな感じだよ」
「そうだったのか……」
玖珂君は苦笑を浮かべながら言った。
玖珂君の新しいイケメン要素を発見した。料理ができる男ってイケメンだよね。
「じゃあ、早速炒めていこう! 早くやらないと、昼休みまで削れちゃうからね!」
「了解ッス! じゃあ、玉ねぎでも……」
「ちょっと待った!」
「ど、どうしたッスか?」
「最初に炒めるのは鶏肉。それから野菜を炒めていくんだ」
「へー、了解ッス!」
炒めるのはみんなに任せて、僕は洗い物でもしておくか。
先に、包丁やまな板をシンクの中に入れておく。スポンジに洗剤を軽く垂らし、わしゃわしゃと泡立てた。そのまま、包丁を包むように洗い始める。
すると、柏木さんがこっそりとこちらに近づいてきた。
「これ、寺沢の作戦で正解だったかもな。玖珂が料理好きなんて初めて知ったぜ」
「ね? 僕ので正解だったでしょ?」
まな板を洗いながら、笑顔で応じる。
まあ、玖珂君が料理好きなのは、今初めて知ったんだけどね。
水で泡を流し、端に立てかけておく。
洗い物終わったし、後は完成するまで待ってるか。もうやることなさそうだし。
「じゃあ、柏木さん。行っておいで」
「え? 行っておいでって何が?」
「玖珂君達と思いで作ってきなよ」
すると、柏木さんは間抜けな顔をする。やがて気を取り直し、満面の笑みを浮かべた。
「おう、行ってくる!」
「よしよし、あとは完成するまで見守ってるか」
「もう良いのか? 何か作戦でもあったんじゃないのか?」
柏木さんを送り出すのを見ていると、瑛二に声をかけられた。
こういえば、今日は静かだったな、瑛二。なんか企んでたり……ってそんなことする意味ないか。
「ううん、大丈夫。今日は楽しい思い出を作ろうってだけだから」
「今日は作戦っぽくないな? 何かあったのか?」
「いやー、ちょっと情報交換がうまくいって無くてね」
言いながら、僕はテーブルに視線を移す。
五人は、慌ただしく騒ぎながら、楽しそうに笑い合っていた。
うん、あれなら楽しい思い出が作れたんじゃないかな。
「お前ららしくないな? ま、たまにはそういうのも良いのかもな」
「でしょ?」
瑛二と笑い合っていると、玖珂君達がこっちへ来た。
「二人とも、完成したから食べ始めよう」
「うん、分かったよー」
「おっけー」
そのまま玖珂君の後ろをついてテーブルまで行くと、柏木さんがお皿を手渡してくる。すでに盛り付けされており、福神漬けまでのっている。とってもおいしそうだ。
瑛二も島崎さんから、カレーを受け取っていた。
「寺沢、今日はありがとうな。おかげて楽しかったぜ」
「当然だよ。だって僕は、仲人部の部員なんだからね」
「二人とも、どうかした?」
「「いいや、なんでもない(よ)」」
「じゃあ、食べ始めようか。いただきます」
「「「いただきます!」」」
みんなで手を合わせて、食事を始める。
スプーンでカレーをすくうと、美味しそうな匂いが食欲をそそる。ああ、おいしそう。
そのまま口に運んで、味わう。
ピリッと辛い刺激がカレーのうまさを引き立てる。噛んだだけで崩れるじゃがいもがホクホクでおいしい。
うまい。
お母さんの作ったカレーよりはちょっと劣るけど、それでも十分に美味しい。
「うん、美味しいね」
「……おいしい」
「うまいッス! まじうまいッス!」
みんなも同じ感想だったみたいだ。うん、これはすごく食が進む。
こうして、笑い合いながらカレーを食べるのだった。
そして放課後。調理実習でのことを、仲人部の二人に話していた。
「──それで、皆で美味しく食べておしまい?」
橋本さんが少し怒ったような声音で言う。
け、結構怖いな……。
「は、はい……」
「わ、悪い……言い出せなくてよ……」
「まあいいけど、次は連絡とかくれると嬉しいかな?」
「「ごめんなさい」」
僕らは素直に平謝りする。
最低でも、連絡だけはしておくべきだったね。
すると、朝日向さんがずいっと橋本さんの前へ出てくる。
「それで、あたしの作戦が誰かさんのせいでパーになったわけだけど」
「うぐ……」
朝日向さんの嫌みに、たまらずうめきごえを上げる。
僕が変えたようなものだし、仕方ないけど……。
「もちろん、そんなゆうやっちの作戦はすごいんだよね?」
朝日向さんが問うように、ちらりと視線を向けてくる。
なんだ、そんなことか。当たり前じゃないか。僕だって、自分の作戦に自信がなかったらあんな提案しないさ。
たまらず笑みがこぼれた。
「まあ、見ててよ! 僕の完璧な作戦で、今回の依頼は成功させてみせるから!」