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第八話 橋本さんの作戦、実行!

 五時間目が終わり、小休憩。

 次の授業さえ乗り切れば、あとはもう帰れるというこの時間。

 僕は、柏木さんに無理を言って、話す時間を作ってもらっていた。

 そうしてでも話さなきゃいけないことがあったんだ。


「はあ!? あーしから相合い傘してくれって頼まなきゃいけないわけ!?」

「う、うん。だめ、かな?」

「な、なんであーしが!? そ、その、恥ずかしいじゃん……」


 さっきまで食ってかかってきていた柏木さんが、急にしぼんだ声を出す。

 もう傘は隠しちゃったし、なにがなんでも柏木さんにやってもらうしかない。

 玖珂君の傘を見つけ出せなかった僕の落ち度だ。でも、言い訳になってしまうけど、これで不確定要素が一個減るんだ。


「いきなり作戦を変えちゃったのは申し訳ないけど、こっちの方が確実性が上がるんだ」

「そ、そうかもしれねーけど……」


 そう。具体的に言うと、こっちの傘がない設定で行けばある程度導くことができるのだ!

 まあ、これはさっき思いついただけだけど。

 どうだ、とドヤ顔を向けると、柏木さんは玖珂君の方へちらりと視線を向ける。そのままたっぷりと数十秒見つめると、ううーと、うなる。


「だー、もうわかったよ! 誘えば良いんだろ、誘えば!」


 ヤケクソ気味に、柏木さんが吐き捨てる。

 おお、へたれな柏木さんにしては決心が速い。こうじゃなくちゃ困るけどね!


「じゃあ、お願いね、柏木さん」

「わかったよ。やれば良いんだろ、やれば……」


 ぐちぐちと愚痴りながら、柏木さんは自分の席へ戻っていった。

 しぶしぶだったけど、あれなら任せて大丈夫そうだね。

 あとは、橋本さんと朝日向さんの方だけど……一応、ライン入れておこう。


『こっちはできたけど、そっちは大丈夫そう?』

『ふっふっふ。もう完璧だよ! ね、あおいちゃん?』

『うん。こっちもできてるから心配しなくても大丈夫だよ、寺沢君』


 ……二人とも返信がお早い。

 でも、大丈夫そう、か。なら心配するだけ無駄かもしれないね。なんてったって、あの二人は僕より活動歴長いわけだし!

 ふっふっふ、これであとは見守るだけだ!

 ──と、僕が一人ほくそ笑んでいると、ラインにメッセージが送られてきた。開いてみると、メッセージは瑛二からだ。

 あ、あいつもう授業まで時間ないのに何やってるんだ……。

 怪訝に思いながら開いてみると、


『何かが成功してほくそ笑んでるようだが……デコピン、忘れるなよ?』


 思わず瑛二の方へ視線を向けると、ゴゴゴ、と効果音が聞こえてきそうなほど圧を放っていた。周りの生徒達も避けているくらいだ。

 こ、怖っ!? グーパンじゃなくて少しホッとしたけど、これは速く帰れるようにしとかないとヤバいかもしれない……。

 授業が始まったら忙しくなりそうだ……!







「いたい……」


 放課後。朝と比べると少し弱くなったものの、ぱらぱらと小雨が降り続いている。

 僕は下駄箱に寄りかかり、額を押さえながら呟いた。

 橋本さんから、柏木さん達より先に昇降口に下りて待っておくように指示があったのだ。

 で、僕がなぜ額を押さえているかというと……瑛二にデコピンされたのだ。それも何回も。

 瑛二の奴ったらひどいんだ……。授業終わって、僕が急いで帰ろうとしてたら、いきなりこっちに来て思いっきりデコピンしてきたんだ……。

 全部同じところに! 僕、もうお婿にいけない……!

 ううっ! と、手で顔を覆っていると、


「ゆうやっちー! おそくなっちゃった!」

「寺沢君! 柏木さん達、もう行っちゃった?」


 朝日向さんと橋本さんとが階段から下りてきた。

 そういえば、二人は柏木さん達を二人きりにさせるための工作をしてたんだっけ。


「まだ大丈夫だよ。それで、工作の方は大丈夫だったの?」

「それはもちろん、ばっちりだよ!」


 朝日向さんが胸を張って、ドヤ顔で言う。

 それならよかった……。でも、二人きりにさせるって、どんな工作したんだろ……?


「あの、朝日向さん。工作ってどんなことを──」

「──しっ」


 橋本さんが、僕の言葉をさえぎって静かにさせる。

 あ、あの。工作ってどんな……。

 答えを聞き損ねて軽く落ち込んでいると、橋本さんは階段を指さした。視線を向けると、仲睦ましく会話している柏木さんと玖珂君が、階段から下りてきた。


『みんな、いきなり用事がある、なんて言い出してどうしたんだろうね?』

『あ、あーしはわかんねーけど、きっと何かあったんだろ!』


 朝日向さんの言葉は本当だったようで、柏木さんと玖珂君の二人っきりだ。いや、信じてなかったわけじゃないけどね?

 柏木さん達は会話を続けたままクツを履き替え、昇降口を出ていく。

 柏木さん大丈夫だろうか……。やってくれるって言ってたけど、ちゃんと言えるかな。

 軽い不安を抱きながら、昇降口の出口で空を見上げている二人の会話に耳を傾ける。


『ま、まだ雨降ってんな』

『もう梅雨入りって言ってたからね』


 空を見ると、二人の言うとおり、空はどんよりとした雲に覆われていた。なんでこんなに曇ってるのに小雨なのか不思議なくらいだ。

 僕がそんなことを考えていると、柏木さんはバツが悪そうに、恥ずかしそうな声音で切り出した。


『く、玖珂。あーしの傘ないんだけど……その、傘入れてくれね?』

『ん? 別に良いけど……傘ないって、今朝、傘で登校してたんじゃないの?』

『そ、そうなんだけど……』


 しまった! 言い訳についてはなんの助言もしてなかった。うまく言い逃れてくれればいいけど……。


『その、誰かに取られたみたいで見つかんなくてさ。だ、誰だよ取った奴!』

『そっか、じゃあ仕方ないね。一緒の傘で帰ろうか』

『お、おう……』


 玖珂君は、じめじめした雰囲気を吹き飛ばすような、朗らかな笑みを浮かべて、傘を差す。そのまま二人で傘に入り、柏木さんをエスコートする。

 よかった、どうにかうまくいったみたいだ。


「じゃあ二人とも、行くよ!」

「うん!」「はい!」


 僕らは、橋本さんの指示に従い、バレないように柏木さん達の後を追う。

 柏木さん達は体育館前を通り過ぎて、そのまま正門に向かう──って、あの二人正門から帰るの!? いや、問題があるわけじゃないけど、僕の帰り道裏門なんだよね……。

 でも、仕方ない。依頼のためだし、ここはぐっと我慢しよう……。


「寺沢君、何やってるの? 早く行くよ?」

「ゆうやっちー! はやくしないと追いてっちゃうぞ-!」


 橋本さんと朝日向さんに軽く謝ってから、正門を出て二人の後をつける。

 って、これ傘のせいで表情が見れないぞ……。そこまで雨降ってないから、かろうじてどんな会話しているかは聞こえるけど……。

 すると、橋本さんも同じことを考えていたようで、


「うーん、これだと顔が見れないなあ。声が聞こえるだけまだマシだけど……。仕方ないし、このまま観察続けようか!」

「りょーかい!」


 このまま観察続けるのね……。

 いや、僕が何か策を思いつくわけじゃないから文句は言えないけど。


 こうして、十数分ほど二人後を追って、順調に観察を続けるも──特に何かが起きるわけことなく時は過ぎていった。

 そう。何かが起きることなく(・・・・・・・・・・)、だ。

 柏木さん、相合い傘してるっていうのに、いつもと変わらないように他愛ない会話しかしていなかった。むしろ、いつもより会話も少なかったんじゃないかってくらい。

 はずかしいのはわかるけど、ここはがんばって欲しかったなあ……。

 これがへたれの底力! いや、役に立つどころが害しか無いけど。


『い、家まで送ってくれてありがとな、玖珂』

『傘取られちゃったんだし、仕方ないよ。じゃ、また明日ね』

『おう、またな』


 二人は柏木さん家の玄関前で、そんなやりとりをしてわかれた。

 家まで送ってもらってて進展なし、か。

 これで今日の作戦は終わりだ。あまりの気まずさに、僕は何も言い出せない。

 ぽつりと、橋本さんが呟いた。


「終わっちゃったね……」


 あまりにも、あっさりと。

 もしかして、橋本さんはこの展開は予想してなかったのかな……。


「だ、大丈夫ですよ橋本さん! 明日は朝日向さんの作戦だけど、まだ挽回のチャンスはありますって!」


 賢明に励まそうと声をかける。が……橋本さんの反応はない。

 そこまでショックだったのかな。

 ボーっと橋本さんを見ていると、朝日向さんが話しかけてきた。


「ゆうやっち、あおいちゃんはだいじょーぶだよ」

「え? でも……」

「あれは次のことを考えてる顔。だからだいじょーぶ」


 そう言われ、改めて橋本さんを見てみると、その表情は弱々しいものではなかった。真剣な様子で考えごとをしていて、諦めるどころか、むしろ前より燃え上がっている。

 そんな負けん気を色濃く匂わすような表情だ。

 思い過ごしだったようで、とりあえず安心だ。よかった。

 その様子を、二人でじーっと見つめていると、橋本さんはハッと気を取り直す。


「じゃあ、今日は解散ね! 反省会はラインでやろう!」

「さんせーい。ここまで来たのに学校戻るのめんどーだし」

「僕も賛成──って、来た道戻るの僕だけか……」


 朝日向さんに賛同するも、その事実に気付いて軽く肩を落とす。

 まあ、いいけどさ。どうせ家帰ってもゲームくらいしかやることないし。


「さようなら、寺沢君」

「じゃあね、ゆうやっちー」

「橋本さん、朝日向さん。また明日」


 僕は二人に挨拶して、一人来た道を引き返すのだった。







『じゃあ、反省会始めます!』

『お-、ぱちぱち!』


 家に着いてすぐ、ラインにそんなメッセージが送られてきた。

 僕、たった今家に着いたところなんだけど。反省会始めるのはやくない?

 仕方ないか、とラインを返しながら自分の部屋に向かう。

 リビングでもいいけど、姉にかち合ったりでもしたら最悪以上の何でもないからね……。


『それで、反省会って、具体的には何やるの?』

『その名の通り、反省会だよー? 反省点あげたり! 良かった点あげたり!』


 画面の向こうで、朝日向さんがはしゃいでるのが見える。

 ……まんま反省会だ。いや、特殊なものを期待してたとかじゃないけど、なんかこう……ね? あるんじゃないかなって思ってただけで。


『早速反省点を出していこうと思うけど……私、あの二人を二人っきりにしない方が進展すると思うの』


 それは……僕も何度か思ったことがある。

 誰かが背中を押してあげなきゃ、もったいぶってしまう。それくらい、柏木さんはヘタレなのだ。

 でもこればっかりは仕方ないとも思う。柏木さんの性質なんだし。

 橋本さんは、それを少しでも和らげるために二人っきりにするのはは避けるべき、と言っているんだと思う。


『二人っきりにしないのー? でも、そっちの方が進展しなそうだよ?』

『そう、何の事情も知らない人がいても意味が無い。だから、私たち仲人部の誰かがいてあげるの!』


 そう、そうなんだ。

 確かに事情を知ってる誰かが背中を押してあげれば、どうにかなる可能性が高い。

 橋本さんか朝日向さん、それか僕。瑛二は……事情知ってるけど、協力はしてくれなそうだからなあ。

 って、ちょっと待って? なんだか嫌な予感が……。


『だから、寺沢君! 明日の、家庭実習で料理上手をアピール作戦の命運は、寺沢君にかかってるよ!』


 さ、さいですか……。

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