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第四話 ぐだぐだ、作戦会議

「じゃあ、まずは……寺沢君。脈なしじゃない、とのことだけど……その情報は確定と思って良いかな?」

「確定……で大丈夫だと思います」


 無事に朝日向さんから解放された僕は、橋本さんの質問に頷いて返した。

 うん。二人で笑い合ってたし、今思い返してみても脈なしなんてことはないと思う。

 橋本さんは、そんな僕を見て深く頷く。


「その様子だと、むしろ脈ありの可能性大って感じだね」


 橋本さんはくるっと方向転換して、耳障りな音を立てながらホワイトボードに『脈ありの可能性大』と書き込んだ。

 僕、この『きゅっきゅっ』って音嫌いなんだよね……。なんかぞわぞわっとするというか……気持ち悪いんだよね。

 しかし、橋本さんは気にならなかったようで、何事もなかったかのように続ける。


「ちなみに、他に気づいたこととかなかったかな?」

「他に気づいたこと……」


 どんな様子だったかとか追加で言えば良いかな……。

 それなら、と僕は今日のことを思い出す。


「二人とも、仲良さそうで……むしろ、二人きりの時の方が仲良さそうに見えたかも……?」


 僕がたどたどしく言うと、二人はしばしきょとんとする。

 やがて橋本さんが気を取り直し、軽く考え事をしながら、


「それ、両想いなんじゃないかな……」

「あ、あおいちゃん! それ断言しちゃって良いの!? ゆうやっちを信じられないわけじゃないけど、大丈夫なの!? もし違かったら、あたし達大変な目に遭うんだよ!?」

「寺沢君を勧誘したのは私だよ? ちゃんと信じなくてどうするの!」


 不安げな朝日向さんに、橋本さんが力説する。

 大変な目って……僕が入部する前にどんな目に遭ったんだ? 依頼主に逆上された、とか……?

 そんなことを考えていると、いつの間にか話が終わっていたらしく、二人は頷きあう。


「じゃあ、私は星沼さんを呼んでくるね! そしたら、改めて四人で作戦会議始めよう!」

「うん、あおいちゃんそっちは任せたよ!」


 橋本さんはカバンに見向きすらせずに、急いで部室を出て行った。

 あ、あんなに急いでどこに行ったんだろ……? まあ、話を聞いてなかった僕が悪いんだけどね……。

 仕方ない、朝日向さんに聞いてみるか。


「あ、朝日向さん。橋本さん、あんなに急いで一体どこに……」

「あおいちゃんはね、ほっしーを呼びに行ったの!」


 朝日向さんは、てきぱきとテーブルの上を片付けながら答えた。

 ほ、ほっしー? 星沼さんのことかな? 朝日向さんってすぐあだ名つけるよね……。そんなこと今はおいといて、星沼さんを呼びに行った?


「って、橋本さん、星沼さんが今どこにいるか知ってるの!?」


 僕の驚き様を見た朝日向さんは、片目を閉じてちっちっちっと指を振った。

 うわあ、なんかうざい。


「ゆうやっちが観察してくれてる間、あたし達が何もしてなかったとでも言いたいわけー?」

「え、違うんですか?」

「違うよ! 実はね、色々と調査してたのさ」


 朝日向さんは、胸を張ってドヤ顔で言った。

 ち、調査? 調査って……どんなこと調べたんだ……? 

 まるで検討がつかず、目を白黒させていると、朝日向さんが補足するように言い足した。


「そうだなあ……具体的に言うとアレだね。入ってる部活とか、プロフィール調べたりとか!」

「なるほど……ちゃんと仕事してたんですね……」

「ちゃんとは余計だぞー!」


 朝日向さんがぷんぷんとほっぺを膨らませて見せつけてくる。

 そういえば忘れてたけど、僕が入る前は二人で活動してたんだっけ。長くて二ヶ月くらいだけど。


「ちなみに、星沼さんって何部だったんですか?」

「演劇部! 主役とかはまだやってないけど、期待の新人らしいよー」


 期待の新人って、すごいんだなあ……。でも、期待されてるなら活動中に引き抜いてくるのってきびしいんじゃ……?

 と、そのとき部室の扉が開いた。振り向くと、なにやらご立腹の様子の橋本さんと星沼さんが入ってきた。二人は机まで歩いてくると、朝日向さんの隣に橋本さん、僕の隣に星沼さんが座った。


「もう、あんなに言わなくてもいいでしょ! 無駄な言い争いなんかしてたら、時間無駄にしちゃったよ!」

「そ、その、仕方ないですよ。部長、お堅い方ですし……。でも、悪い人じゃないんですよ……?」


 怒った声音の橋本さんを、星沼さんがなだめている。

 ああ、やっぱりきびしかったみたいだ。


「あおいちゃんおつかれー。じゃあ、早速作戦会議始めてこう!」

「そ、そうだったね。ふう……よし。それじゃあ始めていこう!」


 朝日向さんの一言で、ご立腹だった橋本さんはようやく再起し始める。

 と、そこで申し訳なさそうに萎縮していた星沼さんが口を開いた。


「あ、あの……わたしが呼ばれたってことは、できたのでしょうか? その、告白の手順が」

「ううん、そうじゃないの」


 橋本さんの返答に星沼さんは、えっ!? と驚愕の声を上げる。


「も、もしかして泰平くんのことは諦めた方がいい……とかですか?」


 星沼さんはすがるような目で僕らを見てくる。

 そんな目で見られると、なんだか申し訳ない気持ちになるな……。いや、これから一緒に決めるってだけなんだけどね?

 その気持ちは他の二人も同じだったようで、橋本さんは慌てて否定した。


「ああ、違うよ? これから一緒に手順を決めていこうってだけだよ!?」


 それを聞いた星沼さんは、心底安堵したようにホッとため息をついた。

 ……なんだか小動物みたいだ。

 って、朝日向さんもうお菓子食べ始めてるし。どれだけお菓子が好きなんだ……。

 僕は呆れ気味に、朝日向さんにジト目を向ける。が、朝日向さんが僕の視線に気づく前に、橋本さんがよし、と前置きして立ち上がった。


「それでは改めて、星沼さんの告白手順を考えていこう!」

「「おおー!」」「お、おー……?」


 こうして、僕ら二人と星沼さんのおどおどしいかけ声を合図に、作戦会議が始まった。


「じゃあ、まず星沼さんに聞いておこうか」


 橋本さんはホワイトボードの前まで歩いてペンを取ると、星沼さんと向き合った。


「明日の放課後に告白する、って想定してたけど他の日の方がいい、とか要望はあるかな?」

「い、いえ……明日の放課後で大丈夫、です。ちょうど部活が休みですし……」

「よし、じゃあ次の質問だけど──」


 そのまま質問が続き、明日放課後に告白すること以外に、二つの決定事項ができた。

 一つ目は、告白場所は体育館裏ということ。

 これはあまり人に見られないから、という理由からだ。……僕も橋本さんに告白するとき、その理由で体育館裏を選んだし。

 二つ目が、体育館裏に呼び出すのに匿名ラブレターを書いて下駄箱に入れておくこと。

 なんでも、直接呼び出すのは恥ずかしいんだとか。これも僕が告白するときにとった手段だ。僕のときは名前書いてたけどね。……なんだか星沼さんに親近感がわいちゃうな。

 ちなみに、朝日向さんはこのやりとりの間、漫画を読んでいた。

 本当にやる気あるのか疑ってしまうレベルだ……。

 そんなこんなで質問をしている内に、部活終了時間十五分前になった。

 そこで、橋本さんが締めくくるように最終確認をしてきた。


「じゃあ、決定事項はこのくらいでいいかな? じゃあ、そろそろ終了時刻だし、片付けて──」

「あ、あの、もしかしたら演劇部の衣装として、私服を持ってこれる……かもしれません」


 橋本さんの言葉をさえぎり、星沼さんが重大なことを言い放った。

 演劇部の衣装として、私服を持ってこれる……? それって、坂本君の好みさえ分かれば告白の成功率が上がるってことじゃないか……!

 でも、そんなこと簡単に分かるわけが──


「この前泰平くん、清楚な子が好みって言ってたから、清楚な服を持ってきたら……」

「星沼さん、完璧だよ! これなら坂本君が落ちるの間違いなしだね!」

「うんうん! イチコロだよ、イチコロー!」


 星沼さん、坂本君の好み知ってたんだね……。これ、僕あんまり役に立ててないんじゃ……いや、二人が両思いだって判明したし、そんなことはないよな、うん!


「じゃあ、星沼さん明日の告白頑張ってね!」

「は、はい……その、頑張ります……」

「ほっしー、あんまり緊張しちゃダメだよー? こういうのは勢いが大事なんだから!」

「い、勢いが大事……」

「それじゃあ、ここらへんで今日は終わりにしよっか。星沼さん、明日授業が終わったら急いで部室に来てもらえるかな?」

「は、はい。わかりました」


 って、あんまり聞いてなかった!

 急いで部室に来ることってことは、ここで着替えてから体育館裏に行くのかな? となると、僕も部室に来ておいた方がいいかな……?

 そんなことを考えていると、いつの間にか部室を出ていた橋本さんが声をかけてきた。


「寺沢君、鍵閉めるから出てもらえないかな?」

「あ、す、すみません! 今出ます!」


 橋本さんの後ろには笑いながら僕を指さしてくる朝日向さんと、苦笑してる星沼さんがいた。く、くそう、朝日向さんに笑われるのは心外だ……!

 僕はぐぬぬ、と歯ぎしりしながらカバンを持って部室を出る。

 こうして、ギリギリで終了時刻を破ることなく、午後六時前。かすかな夕日が入りこんでくる部室を後にしたのだった。







 翌日。

 朝、登校すると星沼さんと坂本君が妙にそわそわしていた。

 って、そりゃそうか。星沼さんは今日の放課後に告白するんだし。多分、星沼さんは朝早くに登校して、坂本君の下駄箱に手紙を置いておいたんだろうなあ。

 じゃなきゃ、坂本君がそわそわなんてしなそうだし。

 そして、同じグループの生徒達にも何があったか聞かれていた。二人とも、身振り手振りごまかしてるみたいだけど。

 そんな様子を見て、ひとり和んでいると──


「わっ!」

「うあわっ!?」


 唐突に背後から声をかけられて、大声を上げてしまった。周囲からクスクスと笑う声が聞こえてくる。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか……。

 朝からこんなことをやるヤツなんてあいつしかいない。

 僕は露骨に不機嫌そうな顔をして、振り返った。


「何するのさ、瑛二」

「いや、何。なんか妙に気持ち悪い顔してるヤツがいたからつい、な?」

「つい、な。じゃないよ! なんでそんなにさらっと僕の悪口を言うのさ!」

「まあまあ。それで、そんな顔してるってことは、もう依頼達成したのか?」


 本当にこいつは地味に毒舌で、流すのがうまい。まあ、いいけどさ。


「ううん、今日の放課後に告白するんだ。あの様子じゃあ、成立するだろうけど」

「ああ、そわそわしてた理由はそっちか」


 瑛二は星沼さんと坂本君の様子を見て、なるほどな、と一人で頷いた。

 ほんと、頭だけは良いんだから。


「それで、他にやることでも残ってんのか?」

「いいや、僕たちの仕事はもう終わりっぽいよ。あとは、告白の成功を祈るだけ」

「ふーん。まあよかったな」


 と、そこで鐘が鳴り、西条先生が教室へ入ってくる。同時に、瑛二はじゃあな、と自分の席へ戻って行った。

 うちの担任って、なぜかチャイムと同じタイミングで教室に来るよね。何かの超能力者なんじゃなかろうか? そんなことはさておき、あの二人は、っと。

 一度考えるのをやめて、星沼さんと坂本君の様子を見てみる。

 席が隣同士の二人は互いに喋ることもなく、背筋を伸ばして目を伏せていた。

 まあ、無理もないよね。

 僕はそっと、視線を前に移した。よし、あとは放課後の告白を見守るだけだ!

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