第十五話 二回戦、結
脱落者が集まる観客席へ移動し、空いてる席はないか探す。
けど、脱落者は結構多いようで、そう簡単には見つからなかった。
僕は諦めずにきょろきょろと見渡していると、
「あ、寺沢君! こっちこっち!」
橋本さんが立ち上がって、僕の名前を呼んでいた。
いや、橋本さん敵じゃん……。
脱落者同士だし、もう試合に戻れるわけじゃないしいっか。
僕はちょっぴり嬉しい気持ちを押さえて、橋本さんのいる席へ駆けよった。
「寺沢君、お疲れ様ー。人が多いと避けにくくて、始まってすぐに脱落しちゃったよ」
「そういえば橋本さん、、開始早々柏木さんに当てられてたね」
「あの球、意外と強くてさー。結構痛かったんだよ?」
当たった足をさすりながら、橋本さんは悔しそうに言った。
でも、少しおかしい。
確かに、人が多いときは避けにくかった。でも、橋本さんの運動神経はそこまで悪くないはずだ。
一回戦のときにちらっと見たけど、朝日向さんに及ばないものの、結構な数の人たちを当てていた。
これはもしかして……。
「ねえ、橋本さん」
「ん? どうしたの、寺沢君」
名前を呼んで、橋本さんがこっちを向いてから切り出した。
「橋本さんってもしかして、僕たちを勝たせるためにわざと速めに脱落したんじゃ──」
「あ、寺沢君見て! 柏木さんがまた一人当てたみたいだよ!」
僕の言葉が言い終える前に、橋本さんはコートの方へ視線を戻す。
……きっと、わざとそうしたんだろうな。
真剣に、とあらかじめ言っておくことで、僕らを手加減をしないように。その上で自分が手を抜くことで、少しでも作戦の成功率を上げるために。
朝日向さんは、試合を楽しむことを優先したみたいだけど。
「ほら、見てよ寺沢君! また一人、柏木さんが当てたよ!」
その証拠に、さっきから柏木さんのことしか言ってないもん。
……ここで何か、とがめるようなことを言うべきじゃないよな。
橋本さんだって楽しみたかっただろうに、自分の気持ちを押し殺してでも、作戦を優先してくれたんだ。今は橋本さんの行動に感謝して、少しでも作戦の成功率を上げるべきだよな。
それにしても……橋本さんがこんなにはしゃいでるのは初めて見たな。やっぱりすごくかわいい。
この学校でナンバーワンと言っても、過言じゃない。
みんな試合に集中してて、橋本さんのことも見てないけど。
「ほら、寺沢君! 速く速く!」
「橋本さん、わかったからそんなにはしゃがない……って、もうこんなに!? 柏木さんに朝日向さんも、がんばってるなあ」
橋本さんと一緒になって立ってみると、両チーム共に内野の人数は半分になっていた。
瑛二は脱落しちゃったみたいだけど、柏木さんと玖珂君が残ってる。
相手チームに朝日向さんが残ってるのが痛いけど。
そして、今。残り一分を切った。
ボールを持ってるのは朝日向さんだ。柏木さんと対峙してるし、柏木さんを狙ってるっぽい。
「朝日向さん、柏木さんを最後の一人として狙ってるのかな……」
「そうかも……紅緒ちゃん、ああ見えて結構諦めが悪いから……」
くっ、脱落者は何もできないのが痛い……! 柏木さんがんばってくれ……!
『りんりん、今度こそ当てるよー! えいっ!』
『ああ、来い!』
朝日向さんが投げる!
柏木さんは向かってくるボールを真っ直ぐに見据え──身体全体を使って、見事にキャッチして見せた。
『えぇ!? キャッチされちゃったよ!?』
『いいボールだったぜ、朝日向……でもあーしを倒すにはちょっと弱かったな』
柏木さんはにんまりと笑みを浮かべると、思いっきり腕を振りかぶって──
『1の1、朝日向さんアウト』
『そこまで! 残ってる人はコートの中で立っているように!』
審判の人が脱落を知らせる同時、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
この時点で試合が終了したということは、つまり……
『勝者、1の2!』
「「「うおおおお!!」」」
僕らのクラスの勝ちだ!!
「寺沢君たちの勝ちだね! おめでとう!」
「あ、ありがとう。橋本さん」
僕はほとんど何もしてなかったけどね……。
それにしても、橋本さんは本当に作戦が大事だったんだね。自分のチームが負けたって言うのに、本当に嬉しそうだ。
その分、期待に応えなくちゃね。次の最後の試合でも勝利を勝ち取ってやろう!
「寺沢君、寺沢君」
と、急に橋本さんに服のすそを引っ張られた。
ひかえめにすそをつかむ橋本さんは、なんてかわいいことやら……って、そうじゃないよな。何かあったんだろうか?
「どうしたの、橋本さん?」
「あそこ、行かなくていいの? 他の人たちはみんな行っちゃったみたいだけど」
「え?」
橋本が指を指した方へ顔を向けてみると……
『凜、最後のいい投げっぷりだったよ! お疲れ様!』
『玖珂! ありがとうな! 次もがんばろうぜ!』
『柏木、ナイスだった。これなら作戦の方もいけるだろ』
『おう、永島か! このまま順調に行って、作戦も完璧にやってやるぜ!』
『凜、瑛二。作戦って何のこと?』
『な、なんでもないぜ? な、永島?』
『お、おう! なんでもない、なんでもない!』
『そう? ならいいんだけど』
僕以外の1の2メンバー、全員がコートに集まっていた。
しかも、みんなで柏木さんを囲い込んで、めちゃくちゃ盛り上がっている。
って、まじか!? 僕だけ仲間はずれ!?
「ご、ごめん橋本さん! 僕も行ってくるね!」
「うん、早く行っておいで!」
軽く手を振る橋本さんに手刀を切りつつ、コートまで走る。
「み、みんなお疲れー! 僕も混ぜてー!」
「お、裕也遅かったじゃねーか。橋本とのランデブーはもう終わったのか?」
「そ、そんなんじゃないし!」
瑛二の野郎、脱落してたのに見かけないなと思ってけど、そんなことを考えてたからわざと隠れてたのか……!
キッ、と瑛二を一睨みしつつ、気を取り直す。
さて、次の対戦相手だけど……『1の7』? ほとんど関わりないけど、どんなクラスなんだろう?
「君たちが『1の2』かい!? 僕らが『1の7』さ! 次の試合、いい勝負をしようじゃないか!」
そう言って現れたのは、ほとんどがぱっと見で分かるほど体育会系が多い集団で……。
っていうか、筋肉ムキムキの人までいるんだけど。何あれ、超こわい。
これ、無理ゲーすぎない? クラス配分どうなってんの……?




