第十二話 クラス対抗、一回戦
翌日、五時間目。
昨日に引き続き雨が降ってるけど、想定の内だから問題ない。むしろ雨で助かったくらいだ。
そんな中、僕ら一年生は体育館に集まっていた。幸い、結構大きい体育館だから、余裕を持って座れる。
さて、そんな今日は金曜日である。
何でそんなこと言うのかって? だって、クラス対抗で競技をやるときは週末の、それも午後の時間をいっぱい使ってやるのが定番でしょ?
何が言いたいかというと、今から始まるクラス対抗競技で、瑛二の作戦を実行するのだ! もちろん、どんな作戦なのかは柏木さんに連絡済みだ。
で、そんな瑛二の作戦だけど……実は、競技が終わってからが本番なのだ。だから、競技自体を楽しんでも大丈夫!
さすが瑛二。この時間が楽しみだっただけに、とてもありがたい。
しかもこの作戦、何かと都合がいい。
クラス対抗な上に男女混合だから、クラスが違う仲人部の二人も見守ることができる。つまり、僕ら四人全員でサポートできるのだ!
そんなわけで、競技を楽しめる上に、万全なサポートができるという最高な作戦なのだ!
こんな素晴らしい作戦を考えてくれた瑛二には、頭が上がらないね!
「裕也、そろそろ前向いとけ。また南原に怒られるぞ?」
「そ、そうだね」
隣に座っていた瑛二に注意され、顔を上げる。
ステージの上では、学年主任の南原先生がこれからのことを説明していた。
「本来ならば、外でやる予定だったのだが……雨が降ってるから、急遽体育館でやることとなった」
相変わらず強面な顔だけど、気が利くなあ。この時間に体育館を使えるようにしてくれたのも南原先生だって聞いたし。
「瑛二、楽しみだね!」
「終わってから作戦もあるんだ。ほどほどに頑張ろうぜ」
「そうだね、ほどほどに!」
「競技は変わらずドッジボールだ。優勝したクラスには豪華な賞品もあるからな。みんな頑張ってくれ! では、説明は以上だ。十分後には一試合目始めるから準備しとけよー」
先生の話が終わってすぐ、僕はトーナメント表の張ってあるホワイトボードを見に行った。
ここ、桜愛高校の一年生は八クラスある。つまり、一番を決めるための試合数は全部で三回だ。
さて、一回戦目の相手は、っと……『1の7』だ。
特別仲がいい人がいるわけじゃないから、あんまり関わることないクラスだ。
と、そのとき。玖珂君に声をかけられた。
「おーい、寺沢君。円陣を組むから集合してねー」
「わかったよ、玖珂君」
そういえば、円陣組んでなかったっけ。
僕は急いでクラスで集まっているところまで走り、そのまま肩を組む。
「『1の2』、絶対勝つぞー!」
「「「おー!」」」
「一位取るぞー!」
「「「おー!!」」」
玖珂君のかけ声に応じるように、最後に大きく足踏し、一斉に散らばり始める。
よし、頑張るぞ! 作戦の都合上、一位を狙った方がいいからね!
みんな結構張り切ってるし、きっと上位にはいけるはずだ!
「それじゃあ、試合を始める。みんな、コートに移動しろー」
南原先生の指示を皮切りに、生徒達が内野と外野に分かれてコートに集まる。
ちなみに僕、瑛二、柏木さん、玖珂君の四人は全員内野だ。
「瑛二、めんどくさいからって、手抜かないでね?」
「アホ、だれが手を抜くか。今回は、俺もサポートする側なんだぜ?」
いつものように瑛二と軽口を叩きつつ、相手の様子をうかがう。
さてさて、相手のクラスはどんな人たちかなー?
僕は視線を相手のコートへ向けて――固まった。
……キレて、いいかな?
ほら、さっきまで軽口叩いてた瑛二や柏木さんだって青筋立ててるよ? あの玖珂君だって、苦笑いしてるもん。
というのも、相手のクラスは……
『あ~ん、わたしぃこわいよぉ~』
『大丈夫だ、俺が守ってやるぜ!』
『ありがとぉ、ちゃんとまもってね~』
『任せろよ。なんてったって、俺はお前の彼女だからな!』
ほとんど、というよりカップルしかいないクラスだった。試合前なのに、全員イチャイチャしてるんですけど。
「寺沢。あーし、作戦に関係なく、あのクラスぶっ潰したいわ」
「大丈夫、柏木さん。僕もだよ」
玖珂君が相手の代表とじゃんけんをして、先生からボールを受け取る。
やがて、他の試合でもボールを渡し終えたようで、ピーッ! っというホイッスルが鳴ると同時、試合が始まった。
「みんな、行くよ!」
「「「おう!」」」
イケメンボイスの玖珂君とは別に、クラスのみんなの声はほとんどが怒りがこもっていた。まあ、僕もだけどね。
そして第一投目、玖珂君が投げる──!
『きゃーっ! タロちゃんたすけてーっ!』
『任せろ! 俺が! アミきゅんを! 守る!!』
ポス。
そんな軽い音を立てて、ボールがタロちゃんにヒット。タロちゃんは、ボールをキャッチできずに、倒れ込む。
『1の7、鈴木君アウトー』
『ぐああああっ! アミきゅん、俺はもう、ダメみたいだ……。アミきゅんだけでも、生き残って……くれ……』
『タロちゃん……タロちゃああああん!』
アミきゅんは、がくっと頭を落としたタロちゃんの頭を抱え、叫びながら涙を流した。
……こいつら、なんで当たっただけでこんなコントできんの? 怒りを通り越して尊敬のレベルなんだけど。
ピキッ。
と、隣の柏木さんからは、不気味な怒りの音が聞こえました。
よーし、やっちゃえ! 柏木さん!
──十分後。
『勝者、1の2!』
僕らは1の7に圧勝していた。
もうすごかったよ。みんな張り切っちゃって、何かに飢えてるみたいだったもん。
特に柏木さんはすごかった。別なカップルの二人を同時に当てて、引きはがしてたりしてたし。
「みんなー、お疲れー!」
「リア充、爆発すべし……」
「リア充、滅ぶべし……」
同じクラスの人に話しかけても、帰ってくるのはこんな反応だけだった。
気持ちは分からなくないけど、勝ったときくらいは素直に喜ぼうよ……。
ちらり、と興味本位で相手のチームを見てみると、
『俺は戻ってきたぞ、アミきゅん!』
『タロちゃん、無事だったのね!』
『ああ! あんなものでは俺らの愛は壊せない! 俺らの愛は不滅だ!』
『タロちゃんかっこいい~!』
……まだやってたよ、あの人達。
でもまあ、これで一試合目は勝利だ! 作戦の成功率を上げるためにも、一位目指して頑張ろう!




