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第十一話 次の作戦は……

1話ごとの文字数を減らしました


隙間時間に読めるように、と3000字を目安にしてます

「そっか、作戦失敗しちゃったのかあ。どんまい、寺沢君!」

「い、いやー、まさか失敗するとは思ってなかったなあ。はっはっは」


 翌日の放課後。つまり、今は部活動の時間だ。

 僕は部室に入ってイスに座る前に昨日の報告をしたところ、橋本さんに笑いながら肩をポンポンと叩かれた。

 橋本さんはいいよ。橋本さんは。バカにされたわけでもないし、むしろ純粋に励ましてくれてるし。

 問題は朝日向さんだ。


「へええ? 自信あるって言いながら失敗しちゃったんだあ? ふうん?」


 にっこりと笑ってるけど、怖いほどに目が笑っていない。そんな朝日向さんに、僕は問い詰められていた。

 あ、あるえー? なんだかすごく、朝日向さんが怖いぞお?


「まあ落ち着いてよ、朝日向さん。失敗は誰にもあるもので──」

「どの口が言ってるのかなあ? 人の作戦を勝手に変えたくせにぃ?」


 め、めちゃくちゃ怒っていらっしゃる……。

 朝日向さんが怒るとこを見るのは初めてかもしれない……って、今はそれどころじゃなくて!


「あ、あれは仕方ないというか……ほ、ほら! 玖珂君、料理上手だったし……」


 どうにか逃れようと言葉を濁す。

 すると、朝日向さんはずいっとスマホを見せてくる。どうやら、朝日向さんはチャットの履歴を見せたいようだ。

 なんだなんだ? スマホに一体何があるって……。

 そこで僕は固まった。なぜかというと、スマホの画面には朝日向さんと柏木さんのチャットの履歴が出されていて……。


『そういえば寺沢が、作戦の改良が必要って言ってたぜ?』

「こんなことをりんりんから聞いたけどお?」


 か、柏木さぁぁぁん!! 思わぬところに伏兵が!

 くっ、こうなったら最終手段のとぼける作戦で……!


「ところで……寺沢君。その後ろの人は一体……?」


 橋本さんに言われ、振り返り……そういえば忘れてたっけ。

 僕は、後ろに立っていたそいつを隣に移動させ、


「こいつは永島瑛二、僕の親友です。僕の作戦を台無しにした張本人でもありますがね!」

「あ、あれは玖珂のせいで仕方なくだな……」

「二時間ばっちり楽しんでたじゃないか……」

「そ、そうだったか……?」


 こ、このやろう! 思いっきり目をそらしてごまかしやがった!

 腹いせに思いっきりにらんでやろう。

 瑛二はこんなの無視するだろうけど、僕のせめてもの気持ちを受け取るがよい!


「そ、そういうことで、こいつの親友をやらせてもらってる、永島瑛二だ。よろしくな」


 瑛二の雑な自己紹介に、仲人部の二人はパチパチと拍手する。


「よろしくね、永島君!」

「えーちゃんよろしくー!」


 朝日向さん、瑛二のあだ名はえーちゃんか。

 ぷぷぷ、瑛二にちゃん付けって合わないね。

 と、僕が瑛二を見て笑いをこらえていると、朝日向さんの声が一段階低くなった。


「それで、ゆうやっち?」

「ひっ……」

「作戦、どうするのかなあ?」


 朝日向さん、そんなに怖い声出さないでよ。僕、怖くて漏らしちゃう!

 いや、漏らさないけど。


「そ、それについては、瑛二から……」

「お、おう。部員じゃないし、勝手かもしれんが……作戦を台無しにした詫びもかねて、作戦を練らせてもらった」

「え? えーちゃんが作戦を?」

「ああ。自分勝手な罪滅ぼし、だな」


 そう。実は今朝、瑛二から申し出があったのだ。『昨日は俺のせいでダメになったから作戦を考えてきた』と。

 考えてみれば、作戦実行の時のほとんどが瑛二と一緒にいた。助けになる可能性は限りなく高い。

 でも、だからといって僕ひとりの所存で、瑛二の作戦を実行するわけにはいかない。あくまで仲人部として活動してるからね。

 それとこれとは話が別なのだ。

 そんなわけで、放課後の部活動時間の時に話を聞くことにした。

 ちなみに、まだ僕も作戦の概要は聞いてない。


「採用するかどうかを聞いてから具体的な作戦を言うが……作戦を考えたのは俺だし、もし実行するってんなら、手伝いもするぜ」


 おお! 瑛二らしからぬ太っ腹な提案!

 まあ、採用するかどうかは聞いてからだけど。


「それで、俺の考えてきた作戦だが……端的に言うと、至ってシンプル。ギャップ萌えだ」

「「「ギャップ萌え?」」」

「そう。柏木がやるとなると、そうだな……思わぬところでかわいらしい一面を見せる、とかな?」


 確かに、ギャルっぽい雰囲気の柏木さんが可愛らしい一面を見せたら、確かにグッとくるものがある。それは、いくらあの玖珂君ともいえど同じだろう。

 というか、瑛二もそう思ったから提案してきたのか。瑛二にもこういう趣味があったんだね、ちょっと安心したよ。


「確かにその通りだね。でも、永島君。それはシチュエーションにもよるんじゃないかな? それこそ中途半端になっても……」

「ああ、それは任せてくれ。明日には実行できる時間帯があるんだよ。いや、むしろ明日だからこそ、だな。次に実行できる日がいつになるかは俺も分からん」


 瑛二は橋本さんの質問に答えながら、肩をすくめて見せる。

 作戦を聞いてみて、明日実行できることも考えると……よし。僕の意見は決まった。

 仲人部の二人も……大丈夫みたいだ。

 三人で目を合わせ、頷く。


「私は永島君の作戦に賛成かな。急で少し驚いたけど、成功する可能性は高そうだし」

「僕も……賛成かな。成功しそうってのもあるけど、親友の考えた作戦だし」


 すると朝日向さんは、ぎょっとした様子でこちらに顔を向けた。そのまま頬を膨らませると、まるで駄々をこねる子供のように、


「べ、別に今すぐ作戦思いつくわけじゃないし、やればいいんじゃないの!?」

「んじゃ、満場一致で俺の作戦を実行するってことでいいか?」

「あ、あたしは賛成してないですぅ!」

「ほう? 言いやがる。なら新しい案でも出してみたらどうなんだ? ああん?」

「う、うるさいうるさい! 今回は譲ってやるって言ってんの!」

「まったく、負け犬のくせにうるさく吠えるな」

「な、なにをー!?」


 あ、あれ? なんだか、朝日向さんと瑛二はすごく仲良いみたいだ。

 今だって、なんか取っ組み合いを始めたし。ちょっと騒がしいけど、仲が悪いよりはいいからね。

 そして、ふと橋本さんと目が合った。


「作戦、今度こそ成功させようね!」

「そうだね、成功させよう!」


 僕らが笑い合うと、タイミングを見計らったかのように瑛二が声をかけてくる。


「おい、裕也。お楽しみのところ悪いが、具体的な内容を教えたいからこいつをどうにかしてくれ」

「お、お楽しみのところってなにさ!?」

「なーに慌ててんだよ。お前、さっき橋本と笑い合ってたじゃねーか。それも嬉しそうに、な?」


 瑛二が、朝日向さんを適当にあしらいながら、からかってくる。

 こ、こいつ……! 嫌らしいくらいにニヤニヤしながら言いやがって……!


「このやろう! 朝日向さん! 僕がこいつを押さえておくから、やっちゃって!」

「よーし、ゆうやっち任せろ!」

「ちょ、おい! 二人がかりは卑怯だろうが! てめえら、この……作戦教えねーぞ!?」

「「なっ、卑怯だぞ(だよ)!」」

「作戦を考えてきたのは俺なんだよ! 教えるかどうかも俺次第だろうが!」


 そんな僕らのやりとりを見て、橋本さんは静かに笑って見守っているのだった。

 見守ってるくらいなら、助けて欲しかったな。瑛二、意外と力強いし。


 そんなこんなで、僕らは取っ組み合いをしている間に、六時になってしまい作戦会議をする間もなく解散することとなった。

 ちなみに、作戦会議はラインでやることになりました。

 せっかくの部活動時間が無駄になっちゃったよ。自業自得だけど。

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