閑話 世界の女神様
「まあまあ、随分と楽しそうなことになり始めていますね。」
ふふふ、と優雅に笑うのは、雅を異世界へなんの説明もなく送り込んだ神、セレスティア。
雅は勇者召喚で召喚されているが、その召喚した王により選別された人間ではなかった。
雅は、この世界を管理し統べる存在である女神、セレスティアの気まぐれで送り込まれた人間だった。
それ故、ステータスにもそれげ如実に出ている。
まずは暗殺者という職業。暗殺者は、相手を倒す事を目的とした職ではなく、名前の通り、人を殺すための職業なのだ。
どんな手を使っても、卑劣な手でも卑怯な手でも不意打ちでもなんでも使って相手を屠る職業。
嘘が苦手で、卑怯なことは嫌い。殺すなら面と向かって堂々と。
そんな性格の人間がなることが出来ない職業なのに、雅はその職業に設定されている。
では、彼のステータスが女神であるセレスティアがどのように決めたのか。見ていただこう。
女神視点へ変わる。
あら?これほど愚直な人間ってあの地球にもいるのですね。
少々容姿はきつい印象ですが、その心根はとても優しい。実に惜しい逸材とも言えます。
そうだわ、女神である私が彼を英雄にしましょう!いい考えだわ!!
(それが間違いであることなど、他の眷属は知っていたが、口答えが出来ないでいた。)
「そうねぇ。やはり英雄と呼ばれるのだもの、強くなくては始まらないわ。
ステータスを全てMAXにしておきましょう。」
楽しそうに彼のステータスを全て上げれるだけ上げ切った。
その後に考える。彼の職業を。
「悩みますねぇ。やはりここはギャップ萌え路線で行くべきでしょう。彼の愚直までのその心根でありながら、という意外性のある職業・・・。そうです!暗殺者です!闇に乗じてぶすりと命を刈り取る!
そんなことをしなさそうだからこそいいんです!」
という理由で職業は暗殺者になる。
続いて、彼の持っている特有のスキル。
「暗殺者なのですから、そういうスキルは必要ですよね。まずは探索、後解析も付いていたら、この世界では特殊スキルの一つですから、きっと注目されます!
後はそうですね、武器は短刀がいいでしょう?見た目が威圧的ですし、威圧も入れて、それから隠蔽は欠かせませんし外せません!
後は毒を調合とか、それっぽくないです?それも入れちゃいましょう!!」
そうして改めて彼のステータスを眺める。
何か、何か物足りない・・・・。
ギャップというのが悪い意味で働いている気がする。
セレスティアは暫く考えて、彼が子供が嫌いなことを思い出した。
「そうです!彼には子供好きになってもらいましょう。彼は優しいですから、きっと子供たちがその優しさに気が付けばきっと好きになるはずです!!」
だがそこで問題が生じる。
実は、この世界には育児、保育系のスキルは存在しないのだ。
理由としては、この世界の子供に対する親の価値観が関係している。
子供は親の財産。成人するまでは好きにしていいのだ。家畜とも言えるし、ペットとも言える。
それゆえに、例えば調教師などのスキルを持っている大人が子供を教育すると、立派になると言われている。
子供は動物の様に飼育するものだと思っているからだ。
地球でもあり得る事だが、ペットは家族という風習がある、それと同じく子供は家族であると認識している、この世界では非常識。地球では常識的な考えを持っている人がいないわけではない。
神にとっても、子供というのは、純粋で、自分を曇りなき心で信じてくれるありがたい存在でもある。
それらの存在が無下に扱われるのはどこか悲しい。
ないものを作り出すのは、神にとっては簡単なことではあるが、保育、育成に関してどのようなスキル名にしてどのような効果にすればいいのか悩んでしまう。
確か、彼のいた世界には保母さんという、子供を預かり優しく指導する職業があった。教師という選択もあったが、教師は教える存在、セレスティアにはピンとこなかった。
「やはり保母さんしかないですね。名前は保母さん。効果は。このスキル所持者の保護下にある子供のステータス補正。彼のステータスの三分の一を与えられることにしましょう。」
セレスティアは楽しそうに、嬉しそうにステータスを決め切った。
こうして決まったこれらの補正。
ステータスには表示されていないが、女神セレスティアの加護も施されている。加護が付いている人間をいつでも監視できるのだ。
だが、女神様の暴走はここで終わらない。
「あらあら、住む場所に困っているのね。」
困ったように眉を顰めるセレスティア。彼の行動を見て購入した土地を見つめる。
そこにはゾンビが出そうなボロボロで埃をかぶり、蜘蛛の糸が張り巡らされた醜く住めたものではない小屋とも言い難い、ただの大きながらくたが建っていた。
「まあ!そんなボロボロな所に住むなんて、考えられません!いいでしょう。私の本気が見たいのですね?」
何を勘違いしたのか、セレスティアはそのボロボロのガラクタを一瞬で消し去ると、王城にも負け素劣らずな建物を建てて見せた。
「うーん、これはやりすぎでしょうか・・・。彼は今頃何を・・・?」
彼の様子を見ると、木造の設計図を建築ギルドの連中に見せているところだった。
「まあまあ。彼は木造がお好みでしたか。しかもそこまで華美でないものが。・・・ならばせめて彼がいた世界に似た家にしてみましょう。
これで私を尊敬するに違いありません。」
セレスティアは少し興奮気味に王城ほどの建物を一瞬で消し、ログハウスを建てた。
彼は内装にもこだわるタイプ、セレスティアなりに内装をこだわった。
これならきっと、そう期待に胸を膨らませ、彼が少女を連れ自分の自信作のログハウスを見るのを今か今かと待つ。
ログハウスを見つけた彼の反応は、固まる。だった。
家とさえ言えない小屋だと聞いて、立派すぎるログハウスが目の前にあるのだ。
驚くのは当然と言えるが、セレスティアは心の中までは知る事は出来ない。
今見て驚き固まっている理由は、彼好みの建物を自分が建てたから驚いているのだろうと思っているのだ。
「ふふふ。彼の好感度はぐんぐんあがっているはずです。もうすぐレベルと同じカンスト間違いなしです。」
セレスティアが少々自慢げに彼を見ているのだが、セレスティアは2つ、大きなミスをしていることに気が付いていない。
一つ目は、保母さんという職業名は女性が使うものであり、今の時代では保育士と呼ばれている事、
そしてもう一つ。
それは、
彼は、女神 セレスティアの存在を知らないのだ。
この建物の事や、スキルの事、これらが女神の手で行われていた事を何一つ知らない。
彼は何が起きているのかわからないまま、この状態を幸運だと思うことなく怪しんでいるということも。
そんな中、セレスティアは彼に会おうとも、彼に存在を告げることもしようともせずにお節介を続ける。
「あらあら、」
おやおや、またセレスティアのお節介という名のありがた迷惑な行動は続いていくようだ。