5 家、建ってるじゃん!!
どっと疲れた様子の雅は、大将であるガルドがいなくなる背中を見送った後、深いため息をついて説明した。
どうせ自分たちには関係ないだろうと遠めから見ている青年たちや見習いの少年達をあえて近くに呼んで彼らの理解度に合わせて説明する。
今までこんな説明などされたことも、聞いたこともないからだろうか、職人と呼ばれる手練れこそ、理解するのが難しいようだった。
彼等は感覚で建物を建設していたのだ。それらが一気に理屈で塗り固められていく。
1ページ進めるのに、何回も何回も説明が必要だった。
それでも根気強く教え、途中からキリカも参加していた。
「以上で終わりだが、まだわからないところはあるか?」
雅は今まで話を聞いていた周りに声をかけた。
「はい!ばっちりです!!」
元から頭が良かったであろうキリカは、元気よく返事した。
それにつられて、周りも口々に小さな声で理解したことを告げた。
「よし、今わかるのは大まかでいい。俺もすぐに分かれとは言わねえからよ。
資料はまとめてある。そこからそうだな、1か月かそれ未満か。もう一度木材を集めてここに来る。
それまでにはせめて図面は覚えろ。わからなかったら、下町の方の森、あそこの小さな小屋に来い。」
そう言ってキリカに行くぞと小声で伝え、建築ギルドから立ち去る。その時に「お疲れ様です!!」
と大きな声で見送られ、再度ため息を零した。
それからすぐに小屋に向かう。どんな小屋か分からなかったから。
下町を歩き、森へ入っていくと、そこには小さな小屋だと聞いていたのに、4人家族が普通に住めるくらいのログハウスが建っていた。
ちゃんと窓も付いており、その窓はガラス。そのガラスの窓からは白いレースのカーテン見えており、ぼろい小屋だと思っていた雅はぴしりと固まる。
「な、なあキリカ。」
「・・・なんでしょう。」
「俺ら、あの女に騙されたのか?」
「・・・かもしれません。けど、嬉しい誤算では?」
キリカは雅を見上げる様に見つめる。
雅も何とか驚き固まった頭を動かして一歩一歩そのログハウスに向かう。
ドアノブを開け中に入る。
奥にはカウンターキッチン、カウンターには椅子が3つ並べてあり、まあるいテーブルと椅子。6つが均等に並べられている。
それから大きなラグが敷かれており、その上にガラスローテーブル、クッションとソファのくつろぎ空間。
そして左側に備わっている二階へ向かう階段。その階段の上には気で作られてあるベッドがあった。
それは玄関を開けてすぐにわかる。
階段の上には木の柵が設けられているだけで、下からでも高い天井のその先が見える。
天井には天窓が右側にあり、明かりがなくとも昼間はずっと明るい仕様。
そして天井の明かりはくるくると木の羽が回り、その中には電球、ではなくただ光が浮かんでいるだけ。
どこの観光ペンションだ。
思わずそう思ってしまった。
キリカは王城よりもずっとキラキラした目でそわそわしている。初めて見たのだろう。きっとこの家を見て回りたくてたまらないとその言動が物語っている。
「なあキリカ。」
雅は再度キリカに話しかける。
「はい、なんでしょう。」
キリカはちゃんと雅の方を見てそう答えたが、やはり好奇心には勝てないのか、ちらりちらりとログハウスの中を興味深く見ている。
「これは、家とも呼べない小屋か?」
自分の価値観が間違っているかもしれない、雅はキリカに尋ねる。
「いえ!!このお家は立派です!!すごいです!!」
キリカは鼻息荒くそう訴える。
「そ、そうか。」
雅はキリカの答えを聞くと、キリカに家を好きなだけ見ていいと言い少し考えた。
雅は家が建っていない事を前提にあの図面を出したのだ。渡したのだ。
それが、自分の思っていた以上に立派な作りの家が建っており、建設ギルドに依頼する理由すらなくなってしまった。
少し揉めてまで取り付け、あれ程長い時間拘束して説明したのだ。それが無駄になってしまったという事になってしまう。
受付をしていたリリネに対しほんの少し苛立った。嘘をかましやがって。けれど、確認していた時までが家すら見えない小屋だったのに、ここに来たとたんにあらあらびっくり、ログハウスが気が付いたら建っていたよ★
なんてこと、いくら奴隷だ勇者だなんだの世界観であっても信じられるわけがない。
それとも、リリネの価値観では、この家は家とも言えない貧しいものであると言うのか。
だがそこで家の中の匂いに気が付いた。
明らかに新築の木の香りが充満しているからだ。
やはり確認していたところまでは建っていなかったのだろう。
雅はこの状況をまあ運が良かったのだと納得してもう一度外に出ようと開けっぱなしだった扉の方を向いた。
「キリカ、俺はもう一回建築ギルドに言ってキャンセル、もしくは図面の変更を願い出てくる。まだ今日中だから間に合うと思う。」
「わ、私も、」
キリカは付いて行こうとするが、今あるスキルで走って行けばキリカが追い付くことはない。
「いや、1人でいい。恐らく追いつけねぇからよ。」
待っていろ、と念を押して扉を閉める。それから全速力で先ほどの建築ギルドに向かう。
40分程かかると言われていたその場所に5分とかからずに辿り着いた。
「先ほどのアニキじゃねぇですかい。何か御用で?」
最初に話しかけてきた男、ゴズは嬉しそうに雅に話しかけてきた。
「兄貴ってなんだよ。・・・・まあいい。家の件だが、少々問題があってな。」
「キャンセルですかい?」
「んまあ。そんなとこだな。家を建ててもらおうと思っていたんだがな、もう家が建っていやがった。しかも上等な奴が。」
「そりゃあいい!!よかったじゃねぇですかいアニキ!!」
ゴズは豪快に笑いながら雅の背中をバシバシ叩いた。
結構な力でたたかれ痛かったのか、眉間の皺が深くなる。
「痛ぇよ馬鹿。・・・まあだが追々増築はお願いするかもしれん。そん時は頼むわ。」
「勿論ですぜ!!俺たちは建築ギルド!建築は任せてくだせぇ!」
そう言って建築ギルドを後に帰ろうとすると、やはり「アニキ!お疲れ様でしたァ!!」と掛け声がかかった。
それに複雑そうに背中越しに手を振った。
そのまま帰ろうとしたが、食品がない事に気が付き、食品を購入していく。
個人商売のところが多い。愛想良くおまけ狙いで女性が多い所を狙い、肉と野菜。
調味料が欲しいと思って色々回ったが、大手の商会にしかなく、そこで金貨10枚を消費することとなった。
残り金貨69枚。
まだまだ余裕はあるものの、いつかは尽きていく。雅はどうにかお金を稼いでいかなければならない。
これから先、どうしていくべきかを考えながら今度はのんびり新しい家へ帰っていく。