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俺が保母さん!?  作者: もやし子
4/12

4 家、購入

「お前、本気で俺についてくるつもりか?」


雅にしがみ付いてそう離さない少女、キリカに嫌そうに告げる。


「あ、えと、ダメだったでしょうか・・・。」


キリカは一度雅を見上げた後、悲し気にその瞳を揺らがせた。

その様子は雅の良心をひどく傷つける。

暫く黙り込んで考えた。

もし、この子供がこのまま自分についてきた場合の事。

もし彼女が付いてくれば必然的に子供であるキリカを育てなければならなくなる。

口も悪い、子供が嫌いで苦手。話しかけるのも嫌でたまらない。

その状態で、自分の機嫌を伺いながら、捨てられまいと縋り付くその行動、その視線。自分にそのつもりがなくても、そう捕らえられてしまう。だからこそどうすればいいのか正直迷っていた。


「言っただろ、俺はガキが嫌いだ。側にいるのはいいが、お前がそれで嫌な思いをし続ける可能性の方が高い。それでもいいんだな?確認するのはこれが最後だ。

付いてきたってある年齢になったら独り立ちしてもらうからな。それまでは自分を磨け。出来る事を、好きなことを探せ。」


俯いたままのキリカの頭を乱暴に撫でる。髪がぼさぼさになっているのにも関わらず、キリカの漂う空気が柔らかくなるまで撫で続けた。

キリカは思いついた様に勢いよく頭をあげて雅の方向を見る。

雅は急な行動に撫でた手を勢いよくどけ、何事かとキリカを観察する様に見た。


「な、なんだ?」


なんとも情けない声が雅から聞こえる。


「では住むところが必要ですよね!わたし、知ってます!お家売ってるところ!」


キリカは空回るほどのやる気に満ちていた。先程まで下を向いていた、光すら宿らないその瞳を輝かせて、まだ小さなその手にぎゅっと、しっかり雅の服を引っ張っている。


「な、え?お、おい!!ちょ。」


オッサンの体から若々しい肉体に戻った。ステータスを見たとき、殆どの数値が人を超えているのを自分の目で見ている。加減を覚えていない雅は、自分よりか弱い存在のキリカがどれ程の力を入れれば問題ないのかわかっていない。

掴まれて歩くものの、その足を止めることも手を伸ばしてその手を払いのけることもできないでいた。


「な、なあ、ちょっと待てって!!」


焦ったようにキリカに声をかけても、


「大丈夫です!!わたし、勇者様に案内するために王都のこと、たくさん勉強しました!!お家とか土地を売ってくれる場所も知ってます!!」


キリカは役にさえ立てば、自分を置いてもらえると思った。だからこそ張り切っていたのだが、雅は急に元気になったキリカに困惑している。

子供がこうも感情がコロコロ変わる、そのことに少なからずげんなりしてもいた。


暫く引かれるままにたどり着いたのは、立派な二階建ての屋敷だった。店、というよりは少し豪華な家、というのがふさわしいだろう。

緑色と白で統一された住宅、壁はコンクリートだろうか、頑丈そうな壁。建築に関わっていた人間からすれば、少し興味がわいてくる。


「ほー・・・。」


窓にはガラスもある。ドアノブもどこか金属チックで、触ると少しひんやりした。思わずつぶやいた声にキリカも嬉しそうに雅を見て微笑んでいる。


扉を開けると、そこにはカウンターテーブルと椅子が複数あり、数人体制で受付を行っている様子だった。

まだ人は来ていない様子、目の前のカウンターに座る女性の前に行き、声を掛けた。


「土地か小屋がある場所が欲しい。」


簡潔にそう言った。

受付にいる受付嬢は雅の顔を見て顔色を青くした。

座っている受付嬢に対し、雅は立っている。

目つきはあまりいい方でないため、上から見下し威圧しているように見えるのだ。


「ひっ、あ、あの。」


怯えている様子を見て雅は思わず舌打ちする。

何もしていないのに怯えられる。いつもの事と言えばいつもの事だが、話が円滑に進むか、と言えばそうでもない時の方が多い。

特にこういう契約をするときはいつも胡散臭い笑顔を浮かべて居なければならないのだ。

王女様といい、キリカと言い、出会ってから自分の素を見て怯えられていなかったため、自分の見た目がただ昔の体に戻っただけの目つきが最悪な容姿をしているなんて思っていなかったのだ。


雅は深くため息を着いた。それだけで目の前の女性は涙をためる。

頭を乱暴に書き、先程とは打って変わって髪をかき上げて爽やかに笑って、目の前にある椅子に腰かけて少し椅子を引いて彼女から距離を取る。


「先ほどは大変失礼しました。少々私は目つきが悪く、威圧してしまっていたようです。申し訳ございません。

早速ではありますが、土地、もしくは家を購入したいと思っているのです。妹と一緒に住むので、それほど大きなものでなくてもいいとは思っているのですが・・・。」


少し困ったように眉をしかめ、苦笑いを浮かべる。

急に変わった態度に驚いている様子ではあったものの、雅は目つきの悪いイケメンだ。顔は悪い方ではない。自分で目つきを悪くしているわけなのだが、それでもそれを意識してなくせばただのイケメンになる。

そのイケメンが困ったように笑うのだ。それにときめかない女性はいない。


「そ、そうだったんですね!私も失礼しました、あの、初めてお会いする方だったので緊張しちゃって・・・・。妹さん、可愛らしいですね。」


受付嬢はテレを誤魔化すように笑った。キリカはその対応にちょっとむっとするが、黙って聞いている。


「妹をほめてくださりありがとうございます。大事な妹ですので、このように立派に育ってくれて嬉しいと思っています。

にしても、緊張でしたか。それは失礼ながら、可愛らしい理由ですね。私自身も初めての王都で緊張していたものですから、話しやすい方でよかった。

もしよろしければ、お名前をお聞きしても?」


雅は目の前にいる女性の反応に覚えがあった。これは少し気になりだした女性が見せる女の顔。同性じゃなく異性の場合、こういう紳士をにおわせる対応は大事になってくる。


「あっ、はい。リリネと、申します。」


リリネと名乗った受付嬢は顔を赤らめた。雅はここでこの女は自分に悪い印象は持っていないと判断し、話を進めることにする。

その横に嫉妬に顔をしかめているレディに気付くことなく。


「ではリリネさん。先程も言いましたが、家が欲しいのです。王都から離れた場所で構いません。あまりお金に余裕がないもので。」


雅の本音としては王都から離れていれば離れているだけ嬉しい。関わるのが面倒であるからだ。

けれど、お金に余裕がないのも事実。それを元に金策も考えなければならないのだ。使わないでいられるのであれば、それに越したことはない。

リリネは少し待っていてくださいと告げた後に、少し席を外した。


「勇者様は、女性の扱いまでも素晴らしいのですね。」


小声でキリカが告げる。


「はぁ?最初であれだけビビられたんだぞ。扱いというか、接し方だって変えるに決まってんだろ。契約交わす相手には少しでも好印象であった方が得なんだ。・・・もう少し大人になったらわかるさ、女なら特にな。」


ちらりとキリカを見てそう告げた雅の顔は、ただただ嫌そうな顔をしていた。


「お待たせしました!!えっと、王都から遠くてもいいとのことなので、王都の中心部より結構な距離離れていて、門より少し外れた森の土地に、小さな小屋があるそうです。

元冒険者が建てたらしい小屋ですので、家としてはちょっと・・・。

ですが、ここが一番安くて遠い場所と言えます。

近くには住宅地区もあり、王都中心部から徒歩40分くらいでしょうか。他の、となると、空きのある家と呼べる場所は中心部に多く、ど少々お値段がしますので・・・・。」


そう言って広げられた書類には簡単な絵と金額、間取りが記載されていた。

どれも今持ってる手持ちギリギリで、一番最初の場所以外金貨50枚以上する場所ばかりだった。買い物には便利であるが、中心部は避けたい雅としては離れている方が好都合でもあった。


「なるほど。もし、この森の土地を購入する場合、例えば森の木を切り倒したり、家を増築したりなどはしてもいいのですか?」


雅は書類を手に取り、その内容を見ながらリリネに聞く。


「それに関しては問題ありません。ですが、全てを切り倒すことは少々問題になります。また、小屋の増築についても、その小屋は家とも言い難いほどの物ですので、そこから自分で家を建てる分には問題ありませんし、もし家を建てるのであれば、建築ギルドにご相談してみてください。」


小さな小屋、部屋が一つだけでキッチンと呼べるものすらない。まさに寝るだけの部屋しかないらしい。その周りに鬱蒼と茂る木々。魔物は出ないし、薬草なども生えていないので、商売するにもあまり価値のない土地らしい。


「ご丁寧にありがとうございます。この場所からは遠くなってしまいますが、この森にしたいと思います。こちらの土地を購入する形で契約していただけますか?」


雅は再度その書類を眺めた。金貨20枚。これが安いか高いかわからないが、目立つつもりもない。

出された書類に名前や血判を押し、契約完了となった。


「もし場所が分からなくなったらまたこちらに来てください。私が案内しますので。」


地図を貰いカウンターを去る時、リリネは赤い顔でそう告げた。


「それはありがたい。ですが私も男ですので、可愛らしい女性にそのような情けない姿は見せられません。

迷ったから、ではなく、今度は貴女に会いにここに来させてください。」


雅は再度爽やかに笑って颯爽と扉を開けて出て行った。

その瞬間に顔が眉間に皺が寄って不機嫌そうな顔に戻る。















「キリカ、建築ギルド、知ってっか?」


疲れた声でそう聴けば、キリカは無言で今度は手を繋いで引っ張っていく。


「ちょ、おいおい、知ってんのかって聞いてんだから答えろ。」


それでも黙ったまま歩き、近かったのかすぐに立ち止まる。


「あそこです。建築ギルド・・・。あの、その地図、私が持ってていいですか?地図も読めるから。」


キリカは目の前にある建物を指さし、その上で雅にそう問いかける。


「あ?別にいいが。渡された地図分かりにくかったから助かるわ。」


そう言って手に持ってる地図をキリカに渡し、嬉しさを噛み締めているキリカを見て不思議そうに首を傾げた。

そしてキリカの頭をポンと優しく叩くと、木造で出来ている建築ギルドへ入った。


そこには、少し前に感じたことのある職人気質の筋肉隆々な男が数人作業をしていた。

雅が入ってきたことでぎろりとこちらを見る。


「なんでぇ、若造じゃねぇか。ギルドに登録希望か?」


雅の身長は小さい方ではない。178㎝程あるのだが、それよりも大きく毛根が死に絶えた頭を持つその男が雅を見下ろしながら歩いてきた。


「いや、どっちかというと客、になるんだが、設計図から立ち合いたい。」

「ほう、いい度胸じゃねぇか。若造が俺たちよりも優れた家の図面を書けるたぁなぁ。」


舐め切ったように豪快に笑うそのハゲ・・・・じゃなかった毛根が可哀想なその男は、すぐにその態度を改めることになる。













「バカかお前!!!なんで定規で測らないんだ!!!目分量や勘でどうにかなるなら設計図なんて要らねーだろうが!!」

「へ、へえ!!すいやせん兄貴ィ!!」

「おま、計算もろくにできねぇのかこのタコ!!!」

「すいやせん!!」

「わかんねぇならわかんねぇって言わねぇか!先に進まんだろうが!!」

「「「すいやせん!!」」」


設計図を見て許可を出す側だった雅は、大まかな木のサイズを決めていない家の完成図を見せられて、これでいいのか?じゃあ建てよう。というギルドの連中に耐えきれずに怒鳴りつけた。


回数をこなせば、目分量でその大きさがなんとなくわかるらしいのだが、それでは後任が育たない。育つのに時間が掛かる。

通気性であったり、日当たりであったり、そう言うものに配慮せず、ただ言われたままその持ちうる技術を駆使して建てるだけなのだ。

訳を聞いても、その通りに作れっていうから。あまり難しい図面だとわからなくなるから。そう言って言い淀んだ。


そんな彼等の言い分を一つ一つ丁寧に否定しながら器用に怒鳴りつけていた。

木の板を使って直線で図形を描き、皆が不思議そうに首を傾げていても根気よく教え続けた。

その日、雅以外に客は来なかったものの、日が落ちるまでずっと雅の講義は続いていた。











「お前らァ、まだ帰ってなかったのか?」

右目を負傷し、ひげを蓄えた黒髪で褐色の男が気だるげにやって来た。


「大将!お疲れ様です!!」


毛根が残念なことになった男に続いて次々と入ってきたその男に挨拶を交わす。


「ん?なんだ、若いのがいるじゃねぇか。新入りか?」

「いえ、それが。」


広げられた幾枚の紙、それにはびっしりと事細かに図形と数字が記載されている。


「なんだこれは。」


大将と呼ばれた男は、目の前にある頭が痛くなる紙を見て不快そうに、まるでごみを見る目で見つめていた。


「大将!このガキ、とんでもねぇ!!俺ら、建築ギルドの革命でさぁ!!」


雅の講義を受けていた一人が嬉しそうに声を上げる。


「こんな紙切れ、なぁんも役に立つか。」


大将は机の上にある紙を払いのけて、地に落ちた設計図をごみの様に踏みつけた。


「おい。」


これは、自分が家を建てるために、建ててもらうために書いたもの。取り入れろと言ってるわけでもないのに、踏みつけられたのだ。流石の雅も黙っていられない。


「なんだ。ここは建築ギルドであり、ギルドの大将は俺だ。新入りがただ思いついただけでしゃしゃり出る場じゃあない。」


男は興味がなさそうに、まるで空気を見る様な目で雅を見ていた。


「俺は新入りじゃねぇ。そして客だ。建築ギルド様に仕事の依頼だよ大将殿。別にこれを取り入れろなんて言わねぇさ、この考えを取り入れてしまえば、お前らの仕事が減るもんな?

なんせ、立て直しする回数が減るんだからよ。

だが、悪いが俺の依頼だけはこのやり方で建ててもらう。それだけは譲れねぇぜ?」


譲れない、その頑なな意思をその瞳に宿し、男を睨みつける。

男はそんな雅に向かい合い、一言。


「いいよ。」


と告げた。


「は?」


男はもう一度告げる。


「いや、だから。いいよ。」



緊迫した空気が、一瞬のうちに白けた。




「はあああああああああああああ!?!?!?!?」







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