『黒猫のような君と、僕の物語』外伝5
ゆうか
「頑張れーッ! お兄ちゃーーーーんッ!」
堪らず私が叫ぶのと同時に、どこかで別の誰かが叫んでいるのが聞こえた。
???
「頑張れーッ! コウくーーーーーんッ!」
口元に垂れるよだれも拭かずに、ウチは思いっ切り、叫んだ。
隣でぽかんと口を開けていたミズが一瞬遅れて
「それでも男かーッ! クリリンのことかーッ!」
と、訳の分からないことを叫んだ。
???
「マ・ユ・ちゃーーーーーんッ! ナツは…ナツは、マユちゃんと浩一さんを応援してるよーッ!!」
浩一8
ゆうかと、どこの誰かも分からない人たちの声援が響き渡ると、その後次々と、僕を鼓舞してくれるような声が上がった。
「ヘタレ野郎ッ! 今年こそ決めてやれよぉぉぉぉーッ!」
「黛さんを幸せにしてやれぇぇぇーッ!」
「羨ましすぎるぞ神崎浩一ぃぃぃッ! リア充、爆発しろぉぉぉぉぉッ!」
少し前までオスカー先輩に向けられていた『帰れコール』よりも数倍大きな、力強い声の波が『浩一コール』となって、僕の耳に―――いや、胸に突き刺さった。
おそらく会場の後ろの方の人には全く見えていないはずなのに、覚醒した僕が口を開こうとすると、何故かすべての声がぴたりと止んだ。
張り詰めた、静謐とすら呼べる空気の中で、僕は彼女への素直な気持ちを伝える―――。
好きです。麻友さん。
僕と、結婚して下さい。
麻友7
―――はい―――。
浩一9
その瞬間、これまで聞いたどんなものよりも盛大な拍手が場内に広がった。
麻友さんはたった一言だけ、―――でも、僕が聞きたかった言葉を発した後、ついに泣き崩れた。
僕が彼女に駆け寄るのと同時に、二人を祝福する喝采の声が上がった。
それらが止むことはなかった。
いつまでも、いつまでも―――。