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コウくんと、わたしの物語。  作者: 日暮 絵留
2/7

『黒猫のような君と、僕の物語』外伝2

        浩一2

         1

 大学に通うに当たって一人暮らしを始めた僕は、昼間は大学、夜はアルバイトと、これまでの生活とは大きく異なるリズムで生きることを余儀なくされた。

 親からの仕送りがあるとは言っても、切り詰められるところは少しでも切り詰めなければ、生活は呆気なく破綻する…。

 アルバイトは多少キツくても時給のいいものを選んだ。

 体力に自信のない自分に勤まるかという不安もあったけど、守るべきもの(もちろん、麻友さんのことと、一人暮らしを続けるということ)があると思えば、案外なんとかなってしまうのだということを知った。

 ちなみに、麻友さんも一人暮らし(或いは、僕との同棲…などと思うのは自意識過剰か)を希望していたようだけど、両親からの許可がもらえず、毎日実家から通っている。

 結構な距離だから交通費も馬鹿にならないだろうし、利便性の面でも色々と大変そうだと思う。でも本人曰く、高校の時と大差はないそうだ。

 彼女は、月に一度くらい、外泊の許可を得て僕のアパートへと遊びに来てくれる。

 そういう訳で、僕のキャンパスライフは、すこぶる充実していた。



         2

 本当はサークル活動に参加するつもりなど毛頭なかった。

 今までも特にクラブ活動は行っていなかったし、ただでさえ学生とアルバイトの両立だけで手一杯だったからだ。

 ところがある日、大学に『文芸サークル』なるものがあることを知った。

 率直に言って、そんな地味なサークルもあるんだな、と思った。サークル活動と言えば、僕の中ではもっとアウトドアなイメージがあったのだ…。

 いわゆる、『リア充』的な。

 少し迷ったけど、試しに顔を出してみることにした。

 そこで先輩の一人が書いたという小説を読ませてもらって、僕は衝撃を受けた。そしてすぐに、正式にサークルに参加することを決めた。

 自分で小説を書いてみたいと思ったことがこれまでに何度もあった。

 だけど実際に筆を執ったことはなかった。書けると思わなかったからだ。

「読書が趣味だ」と人に言うと、「自分で書いたりはしないのか」と聞かれることがある。でもそれは、ゲームが好きな人に「自分でゲームを作ったりはしないのか」と聞いているようなものだ。

 ともあれ、文芸サークルに入ったことで、僕は、小説を書き始めるためのきっかけを得た。

 いざ執筆活動を始めると、とにかく楽しかった。いい作品を書けているかどうかはともかく、楽しくて楽しくて仕方がなかった。

 今まで自分が読んできた数多くの作品から様々なヒントをもらい、影響を受け、サークルの先輩たちからは懇切丁寧なアドバイスを賜った。

 そして、なんとかそれなりに筋の通った短編を書くことができた(と思う)。

 自分で自分の書いた作品を客観的に評価するというのは、とても難しいことだった。

 作品を読んでくれたサークルのメンバーは、みな、「才能がある」と僕を褒めてくれたけど、半分はお世辞だったように思う。

 それでも十分嬉しかったし、書き切った後の充足感や、作品を褒められた時の幸福感は、他では味わえないものだった。

 人付き合いはあまり得意ではない僕だけど、サークルのメンバーとは趣味が合うということもあって、比較的早く打ち解けることができたと思う。

 見学の際に作品を読ませてくれた『北山オスカー』先輩(もちろん、ペンネームだ。サークル内ではペンネームのある人のことは本名で呼ばない決まりだった)とは、特に懇意にさせてもらっていた。

 オスカー先輩は僕の書いた作品を、いつも好きだと言ってくれた。

「プロを目指してみるべきだよ」というのは、さすがにおだて過ぎだとは思うけど、悪い気はしなかった。

 ちなみに―――

 オスカー先輩には『由香子ゆかこさん』という、年上の彼女さんがいる。

 先輩はよく「彼女の何もかもが好きだけど、興奮するとよだれを垂らすところが玉に瑕なんだ。当然、それすらも好きだけどッ!」と一人で興奮している。

 また、由香子さんの友人の『瑞希みずきさん』という人とも気が合うらしい。

 瑞希さんと、その彼氏さんと、四人でダブルデートをしたりする仲なんだとか。

「“人造人間18号並みに綺麗な『ミズねーさん』”の彼氏さんってのが、“人造人間17号並みのイケメン”なんだ、これがッ! ただし、俺には劣るがなッ!」とは、オスカー先輩の談だ。

 ―――と、話が少し脱線してしまった。

 閑話休題。

 何はともあれ、オスカー先輩はとてもいい人だ。

 僕としては、『小林由香子』という、先輩の彼女さんのフルネームを聞いた時、何かが引っかかった気がするんだけど…

 まぁ、どこかで聞いたことがあってもおかしくない名前だし、そんなに重要なことではないだろう。…たぶん。



        麻友2

 今年も学園祭の日がやってきた。

 数ある催し物の中でも、『ミスコン』は最も注目度の高いイベントの一つだった。

 前回、『審査員特別賞』を頂いたわたしは、実行委員会からの『招待枠』という名目での参加が決まっていた。

 ずいぶん前から、多くの人(面識のない人もたくさんいた)から「今年はグランプリ狙って頑張ってね!」と声をかけられていたので、辞退することは難しかった。

 前回参加したのも他薦によるものだったし、実はもともと、あまり乗り気ではなかったんだけどなぁ…。

 コウくんは今年も会場まで応援に来てくれると言ってくれた。

 去年のことがあるから、もしかしたら来てくれないかもしれないと思っていたので、本当に嬉しい。

 お陰でわたしは頑張れる。

 大好きなコウくんのために、グランプリになりたいって思える。

 入選するかは分からないけど、仮に入選して、去年みたいな無茶ぶりをされた時のために、心の準備は整えておこうと思う。

 今年は、無難に「いつもありがとう」って言えばいい。

 それならコウくんに注目の目がいくようなことはないだろうから。


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