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コウくんと、わたしの物語。  作者: 日暮 絵留
1/7

『黒猫のような君と、僕の物語』外伝

一応、単体でも読める作品にしたつもりですが、あくまでも『黒猫のような君と、僕の物語』の続編…と言うより、“外伝”として書いたものです。もし、この作品を読んで興味を持たれた方がいましたら、そちらもよろしくお願いします。

私としましては、『黒猫~』の続編(外伝)を書くという発想すらなかったのですが、作品を読んでくださった方から「その後の二人(浩一と麻友)を見てみたい」との、ありがたいご意見を頂き、執筆するに至りました。

『黒猫~』の方のラストが好きだったという方に、「外伝は無い方が良かった」と言われない作品になっていれば」いいのですが…。

       プロローグ


 ―――一年前―――


 十一月某日。

 大学の学園祭で行われた、いわゆる『ミスキャンパス』のイベントで、わたしは『審査員特別賞』に輝いた。

 受賞の決めては、“私服のセンスが光っていた”ということだった。

 グランプリや準グランプリに輝いた人はもちろんだけど、わたしのように何かしらの賞をもらえた人は、司会の人からちょっとしたインタビューを受けることになっていた。

 会場となった体育館は超満員だったけど、壇上からは、わたしの恋人である「コウくん」こと、神崎浩一かんざきこういち君の姿がはっきりと見えていた。

「やったよ、コウくん。えへん☆」

 目と口の動きで、そう訴えたけど、コウくんとの距離はちょっと遠いから、伝わらなかったかもしれない。

 入賞者わたしたちは、一人ずつ順番にインタビューを受けることになっているのだけど、わたしの番が回ってくるまでには他の入賞者が三人ほどいる。

 あくまで、グランプリ・準グランプリの人の前の前座みたいなものなので、質問されることは当たり障りのないものだったし、インタビューを受ける側もほとんど同じような受け答えをしていた。

 その様子を見た限りでは、思っていたよりも緊張する必要はなさそうだった。

 …とは言いつつも、大勢の前で話さなければならないのだから、それだけで十分緊張していたのだけど。

「はい、ありがとうございました。では次の方のインタビューに移りたいと思います」

 いよいよ、わたしの番がやってきた。

 わたしは、さきほどまでの様子から、ある程度は回答のイメージを固めていた。

 それなのに…

 司会の人が放った質問は、他の入賞者へのそれとは全く違うものだった。

黛麻友まゆずみまゆさんは、みなさんもご存じの通り、彼氏さんがいますよね?」

 想定外の質問に少し面食らったけど、なんとか対応する。

「えっ…あ、はい。います」

「今日もこの会場で応援してくれているのでしょうか?」

「はい」

「いいですねぇ。こんな素敵な彼女さんがいるなんて、羨ましい限りです。そんな羨まし過ぎる彼氏さんに、黛さんから何か一言あれば、どうぞ」

 急に無茶ぶりをされて、今度こそ頭が真っ白になる。…だけど、すぐに切り替えた。

 …つもりだった。

 わたしは司会の人が向けてくれたマイクに、こう、言っていた。

「コウくんは、わたしのこと、どう思っていますか?」

 それはわたしの中の“もやもや”が咄嗟に口をついて出てしまったものだった…。

 会場全体に「おおー」というようなどよめきが起きた。

「神崎浩一さん、いかがでしょうか?」

 司会の人は「思った以上に面白い展開になったぞ」といった様子で興奮している。

 会場に詰めかけていた観客たちも、「どこだ? どこだ?」と辺りを見回して、くだんの『彼氏さん』を探しているようだった。

 わたしは壇上からずっとコウくんを見ていた。


 人混みを掻き分けて体育館の外に駆け出す、その後ろ姿も、はっきりと見ていた―――。



        浩一1

 僕と、恋人である「麻友さん」こと、黛麻友さんは構内では有名なカップルだった。

 麻友さんの方は言わずもがな。

 その圧倒的とも言える美貌は、男子学生にはもちろんのこと、女子たちの中にもファンがいるほどだった。

 ただ、当初、麻友さんは、その“壊滅的な私服のセンスの悪さ”から、「残念な美人」と呼ばれていた…らしい。

 それがいつしか“センスの悪さすらも可愛らしさの一部”で“微笑ましい”という風に認識が改められる。

 彼女の持つ独特の空気感や、人柄の良さが大きな影響を与えた結果であると僕は分析している。

 現に、一時期“敢えてダサい服を着る”というのが一部の女子学生の間でちょっとしたトレンドになったことがあるのだけど…

 男子学生たち(僕も含め)には「そういうことじゃないんだよなぁ…」という空気が流れていた。

 その空気は徐々に女子学生たちの間にも漂い始め、ある日、唐突にブームは収束した。

 麻友さんの美貌によるギャップと、ダサい服を“ごく自然に”着ていることが「微笑ましさ」を生んでいたということだろう。

 当の麻友さんは、

「そう言えば、みんな、急に可愛い服を着なくなっちゃったね…なんでだろう? コウくん、知ってる?」

 …などと残念そうに言っていた。

 僕としては「あんな服、どこで買えるんだ?」ということの方が気になっていた。

 とにかく。

 そんな、ちょっとしたブームを起こしたことのある美少女と付き合っているのだから、僕も必然的に注目を浴びることになる。

 本当は目立ったりすることは極力避けたいんだけど、麻友さんほどの女の子と付き合っているのだから、ある程度は仕方のないことだと思う。

 注目のされ方としては、そのほとんどが「あの黛さんが、なんであんな『平凡な人』と?」といった類のものだった。

 そう言われて、僕が思うことは特にない。

 他人からしたら、全くもってその通りだと思うから。

 僕たちカップルは陰では「美女と平凡」と呼ばれていた。

 そこにはもちろん、僕を小馬鹿にするような意味合いも多少は含まれていると思うけど、その真意は存外温かいものだった。

「不釣り合いな二人だけど、みんな応援してるよ! だから頑張れ! 平凡な彼氏さん!」…みたいな。

 そりゃあ、みんながみんな、そういうスタンスではなかっただろうけど。


 それが、およそ一年前の学園祭の日に、「美女とヘタレ」へと改名された。

 まぁ、どっちの呼び名も、たぶん、麻友さんの耳には入っていなかったと思うけど。



        麻友1

 コウくんとお付き合いするようになってから、わたしは良い意味でも悪い意味でも変わったと思う。

 良い方は言葉では表し尽くせないくらいたくさんあるけど、敢えて一言で言うなら、毎日が輝いているってこと。えへん☆

 問題は悪い方―――

 わたし、たぶん、わがまま…って言うか、ちょっと贅沢になっちゃった…。

 念願だったコウくんとのキャンパスライフは、とても幸せで、満ち足りたものだって思う。

 それこそ、幸せ過ぎて怖くなるくらいに。


 それなのに…

 わたし、今よりも更に一つ上にある幸せを、コウくんに求めるようになっちゃったんだ…。


 毎日、とまでは言わない。…一週間に一回―――ううん。せめて、一ヶ月に一回だけでもいいの。


 彼に「好き」って言ってほしいんだ。


 コウくんの愛を疑ってるとか、そういうことじゃないんだよ?

 どんな時だって、コウくんがわたしを一番に考えてくれていることは伝わってくるの。普段の行動の中にも、言葉の端々にも、わたしを想う気持ちが溢れているから。

 …でも、あの“病室での一件”以来、コウくんがわたしに直接想いを伝えてくれたことは、一度もなくて…。

 わたしが「好きだよ。コウくん。大好き」って言ったとしても、コウくんは「うん」とか「僕も」ってしか言ってくれないの…。

 わたしだって時と場所はわきまえているつもりだし、必要以上に「好き好き」言ってる訳ではないんだよ?

 普段は照れくさくて言いにくいっていうのは分かるんだけど、肌を重ね合わせている時でさえ言ってくれないのは、やっぱり、ちょっと寂しいな…。

 女の子はね、「好き」とか「愛してる」って、直接口で言ってもらわないと寂しくなっちゃう生き物なんだよ?

 わたしとしては「愛してる」だと、ちょっと恥ずかし過ぎるかなって思うんだ。…たぶん、そう言われただけで血が沸騰して“ボンッ!”てなっちゃう。

 ―――だから、「好き」。

 そう言ってほしいの…。

 しかも、わたしから要求するんじゃなくて、コウくんの意志で自発的に言ってくれるのが一番嬉しいな…なんて。贅沢だよね…


 彼にはそう思われたくないし、いつか自然に言ってくれるのを待とう。


 ―――そう、思っていたのだけど―――


 一年前、学園祭での『ミスコン』で、わたしはつい、コウくんに気持ちをぶつけてしまった…。

 コウくんはもともと人付き合いが得意な方じゃないし、まして、目立ったりすることは大の苦手だって知ってたのに…。


 あの後、二人の関係に何か変化ギクシャクしたとかがあった訳ではないんだけど―――

 それでも、ちょっと―――そう、ほんのちょっとだけ。


 後悔、してるんだぁ…

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