1.オルコット村
――オルコット村。
俺たちが乗る荷馬車が村の入り口を通過する。
この村を覆う壁は、街の石のブロックで出来た壁と違い木材で出来ていた。
周囲を森で覆われた村にとって、自然に感じる。
結局、途中でヘーベの話題になってから、レベッカさんとまともな会話が出来なかった。
もっと色々と話したかったが、これまで女の子とほとんど話したことがない経験不足は否めない。
俺はその様に思っていたが、
「カザマは意外と節度のある人なのね。ヘーベさんと親しくなったからと頭を引っ叩いたり……そ、そのー……兄さんと酒場では、色々と盛り上がっていたみたいだから……」
レベッカさんの言葉を聞き、俺の気分は再び急降下する。
「あのー、レベッカさん。色々と誤解してますから……」
色々と言いたいことはあったかが、否定だけに留めた。
――村の中心付近。
道中の建物は木造の平屋建てが主流のようで、建物も街ほど密集して建てられていないのに気づく。
道路も綺麗にはされているが、石で舗装はされていなかった。
ヘーベルタニアの街は、この国ではそこそこ大きいのかもしれない。
途中レンガ作りで、この村の中で一番大きな建物があり、この村の領主の屋敷なのだろうか想像する。
村の住人は人種が多いのだろうがドワーフや獣種。
ちらほらとエルフっぽい感じの姿を見掛け、街よりも人種以外の亜人種が多いと印象を受けた――。
しばらくして、村の外れから森の入り口を少し進むと、村で見かけた民家より大きなコテージ風の建物が見えた。
そして、目的地である賢者『デューク・ド・モーガン』の住む家に辿り着く。
家の前には、俺たちが来るのが分かっていたかの様に、それらしい人が立っていた。
俺とレベッカさんは馬車を降り、その人の前に足を進める。
『デューク・ド・モーガン』……俺より少し背が低く普通の体格。
茶色の質素なローブに、右手には身長より少し短い程度の長い杖を握っている。
白髪で七十歳くらいに見えるが、生気に漲った雰囲気から年齢よりも若く感じた。
兎に角、いかにも賢者というのが第一印象である。
まずは面識のあるレベッカさんが、社交辞令の様に挨拶をした。
「お久しぶりです。モーガン先生……例のカザマを連れて来ました」
俺はレベッカさんの『例の』という言葉が気になったが。
事前に連絡してくれていたのだろうと思い。
失礼がないように、余計なことは話さず無難に挨拶をする。
「初めまして、カザママサヨシです……遠く離れた東の国から来ました。ヘーベの勧めで冒険者のニンジャになったのですが、遠くから来たのでこの国のことや魔法のことが良く分かりません。これから色々と学ばせてもらいます。どうかよろしくお願いします」
「よく来たな、カザマ! ――デューク・ド・モーガンだ! モーガン先生でよいぞ!」
モーガン先生の仕草を見て、賢者で偉いのだろうが。
この威風堂々とした立ち振る舞いが、ヘーベとダブって見えた。
この世界の偉い人は、イチイチこんな演出をするものなのかと思いつつ、
「おーっ! 流石、賢者であるモーガン先生だ! 威風堂々としていらっしゃる」
俺は思ってもいないことを口にした。
それを聞き怪訝な表情を浮かべたレベッカさんは、
「カザマ、幾らモーガン先生の前だからといって、ヘーベさんに対する態度とあまりに違うわよ……」
「うううううううう……」
ぐうの音も出ないとは、まさにこういうことを言うのだろう。
俺は街を出る時にクールになると決意したばかりである。
「まあー、このへんで良いだろう。ヘーベさんに対する不遜な態度というのは聞き捨てならないが、これからワシの指導で追々と……。それにしても、ワシの偉大さを所見で看過するとは見所がある!」
モーガン先生は俺をフォローしてくれたが、些か誤解もあるみたいだ。
俺は色々と思うところもあったが、話しが進まないので我慢した。
先程は怪訝な表情を浮かべたレベッカさんだが、今はこれまで通りの笑顔を浮かべている。
「挨拶も済んで落ち着いた様なので……それではモーガン先生、カザマ。私は街に帰りますね」
俺は荷馬車で帰ろうとするレベッカさんに手を振る。
「気をつけて!」
初めてまともに話した少し年上の女の子に、架空の姉を思い浮かべた――。