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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十一章 エルフの集落
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4.エルフの族長と弟…

 ――族長の家。

 俺たちは朝の散策を終えて、アウラの家に戻ってきた。

 「ただいま」

 アウラが玄関を開けて中に入ると、

 「「お邪魔します」」

 俺に合わせる様にビアンカも声を出した。

 コテツは何も言ってないが、そもそも発声しない。

 (あれっ? どうして、ビアンカとアウラには、話が通じていたんだろう?)

 俺は一瞬動きを止めたが、アウラの催促に思考が遮られる。

 「さあ、こっちよ。みんな待ってる筈よ」

 俺たちはアウラに案内されて後に続いた――。


 応接室に入ると、部屋の上座にいるアウラ似の青年を囲むように。

アウラのお姉さんと妹らしき美少女が座っている。

 俺たちは向かい合う様に席に着いたが、アウラは青年の横に立つ。

 アウラのお兄さんだろうか……お兄さんらしいヒトが口を開いた。

 「おはよう。カザマ、体調はどうだい? 昨日はアウラが随分気合いを入れて、回復魔法を掛けていたようだけど……」

 俺は失礼がない様にごくごく自然に挨拶をしようと努める。

 「ああ、ありがとうございます。昨日は色々とお世話になりました。俺は妹さんやビアンカと同じ様に、モーガン先生のところで修行をしているカザマと言います」

 お兄さんらしいヒトは澄んだ碧い瞳を見開いた。

 「えっ!? 私はアウラの兄ではなくて、父親だが……」

 俺は驚愕し、思わず口を開けたまま声が出なくなる。

 「……はっ!? す、すみません! あまりに若く見えるので、間違えてしまいました」

 慌ててアウラの父親に謝ったが、みんな俺の様子を見てクスクス笑い出す。

 アウラの父親は仕切り直して、優しい口調で話し掛ける。

 「君のことはアウラから聞いてるし、度々様子を見させてもらっているから、それなりに知ってるつもりだよ……」

 最後の方で口を濁したのが訝しくて、俺は愛想笑いで誤魔化す。

 アウラの父親は、アウラと同じ瞳の色と同じ髪の色をして美形であった。

 しかし、それよりも随分若く見えるのが気になってしまう。

 隣にいるアウラのお姉さんも、妹もアウラに良く似ている。

 先程、集落で見掛けたエルフたちよりも、更に美形ばかりで驚かされた。

 驚き落ち着きなさそうにしている俺に、アウラが口を開く。

 「カザマには紹介がまだだったわね。今、話をしたのが私のお父さんよ。ここの集落の族長をしているわ。隣が私のお母さん。そして…」

 アウラの言葉を遮り、妹が声を上げる。

 「お姉ちゃん、自分で挨拶するよ。僕は、その……アウラお姉ちゃんの弟で、アルベルトです。今年十歳になり学校に通い始めました。いつもお姉ちゃんがお世話になっています」

 妹だと思っていた美少女が、弟だと耳にして……驚愕のあまり目が点になった。

 だが、アルベルトと名乗った少年は、アウラの両親より一歩前に出ると、丁寧に自己紹介をした後、綺麗に頭を下げる。

 碧い瞳に煌くブロンドの髪はアウラと同じで、違うのは父親と同じ様に髪の毛を縛っている事と顔立ちがアウラを幼くしたくらいであった。

 俺はお姉さんだと思ったのが母親で、妹だと思ったのが弟であった事実に困惑する。

 それにしても、この湧き上がる感情は……。

 「おおおおおおおおおおおおおお――っ! 何だ、この可愛い子供は! しかも、アウラよりしっかりしてないか! はっ!? アウラって……弟がいたのか?」

 俺は驚きのあまり思わず正直に感想を言ってしまい、慌てて口を両手で押さえた。

 「カザマ、確かに私の弟は可愛いと思うけど……その言い方だと、私がしっかりしてないみたいだわ……」

 アウラはお世辞と勘違いしたようだが、赤く染めた頬に両手を当てて恥かしがっている。

 恥らう姉を余所に、再びアルベルトが口を開く。

 「あのーっ……カザマのお兄さん、僕もお姉ちゃんみたいに勉強を教えてもらえませんか? それから、魔法もぜひ見せて欲しいです」

 アルベルトは瞳を輝かせて、俺を見つめている。

 そんなアルベルトの言葉と姿に、更に胸が高鳴った。

 「勉強は分からないことがあれば教えるし、魔法を見せるのも構わない。その前に……今、俺の名前の後に何と言ったか、もう一度言ってもらえないだろうか?」

 アルベルトは興奮している俺を見て、少しずつ表情が曇っていく。

 「あ、ありがとうございます……カザマお兄さんのことを……ですか? 何と言われましてもお兄さんと……」

 俺は構わずに、更に昂る。

 「い、今の最後のところをもう一度! 出来れば畏まった言い方でなくて……アウラを呼ぶ時の様に、親しみを込めて!」

 アルベルトは首を傾げるが……。

 「……お、お兄ちゃん?」

 (はあーっ……何て良い響き何だ! この世界に来て、リヴァイが唯一弟っぽいキャラだと思ったが……アルベルトは本物だ……)

 俺は感動のあまり、瞳を閉じて頷きながら余韻に浸る――。


 だが、ビアンカが目尻を吊り上げて、俺を睨んでいた。

 「ちょっと、何を言わせてるんすか? いつもいつも調子に乗って……何度同じことを言わせるつもりっすか?」

 続いてアウラも先程まで余韻に浸っていたのか、頬を染めていたが。

 「カザマ、アルベルトのことを気に入ってくれたのは嬉しいわ。それに、お兄ちゃんと呼ばせる何て……でも、ビアンカの言う通り、また気持ち悪い感じになっているわ……」

 俺が感動の余韻に浸っているのをビアンカとアウラによって止められてしまった。

 (ビアンカの言う通り調子に乗り過ぎたのは反省しなければならない……だが、アウラの気持ち悪い感じは、言い過ぎではないか? しかも、いつもいつも……)

 俺は頬を引き攣らせたが、拳に力を入れ我慢しながら気持ちを伝える。

 「いや、スマナイ! 俺は兄弟がいない上、この国に来てから年下の同性の知り合いが、ほとんどいなくて、嬉しくなって……」

 (流石に、この場でアウラを引っ叩いたら大問題にされそうだ……)

 そこへ、アウラの父親が口を開いた。

 「今日は何もしないのだな? 君の奇妙な行動をアウラが指摘すると、君は急に怒り出して、アウラの頭を叩いているだろう?」

 アウラの父親の顔は笑っているが、瞳から強い輝きを放つ。

 「えっ!? いや、あれは……だって、アウラが、いつも俺を馬鹿にするんですよ! それも、もっと言い方があるだろうに、気持ち悪いとか言って……怒るに決まっているじゃないですか!」

 俺は言い訳しようとしたが、挨拶した時に俺の様子を見ていると言われたのを思い出す。

 きっと、このことを言われたのだと思い、言い訳は無理だと悟った。

 それなら、この際はっきり反論した方が良いであろうと事実を語ったのだ。


 一瞬周りが動きを止め、静寂に包まれた。

 「開き直ったっす」

 一番初めに声を発したのはビアンカだったが、一言だけである。

 微妙な雰囲気になってしまったが、初めは無難に挨拶をする筈だった……。

 アウラの父親は助け舟を出すように、俺とアウラを見ながら話し出す。

 「まあ、仲が良い程喧嘩すると人間は言うからな……。カザマは人間で、それ程賢くはないのだから……アウラはもっと分かり易く、カザマに伝えなければいけないぞ。これから、それ程長くはないが、一緒にいるんだから……幸い、カザマはアルベルトにも気に入れた様だし、婿養子に来てもらっても良いだろう……」

 俺を庇おうとしてくれたのか、馬鹿にしているのか分かり難い話をしてくれたが……。

 (あれっ!? それ程長くないって、どういうことだ? それに今、婿養子って言わなかったか……)

 俺は慌てて、コテツを見た。

 「今更、私を見るな。エルフの寿命は人間より長いということであろう……それより、私はずっと黙っていた。だが、貴様はビアンカの言う通り、すぐ調子に乗る。余計な事を口走り後悔するくらいなら、黙っていれば良いではないか……」

 コテツは、俺のために説明してくれたのだろう。

 しかし、その言い方と話の意味が分からず、イラっとしたが我慢する。

 「えっ!? 俺は何か……余計なことを言いましたか? それに挨拶する場で黙っているのは、流石に無理があると思いますが?」

 俺はコテツを嘲笑う様な言い方をしたが、コテツは静かに説明を続けた。

 「貴様はアルベルトを弟だと認める発言だけでなく、強要させる言動をとったであろう。それに黙っていろというのは、何も話すなと言っている訳ではない。必要なこと以外は話すなということだ。貴様はニンジャのくせに、いつも会話で失敗するのだな」

 コテツの話を聞いて、全身から汗が噴き出す。

 (ど、どうしよう……でも、ニンジャのくせにって、言い過ぎじゃないか……)

 俺は、恐る恐るアウラの家族に口を開いた。

 「あ、あのーっ……さっき、アルベルトにお兄さんと呼んでもらったのは、他意がある訳でありません。あまりに聡明で、賢そうな息子さんでしたので……兄弟のいない身としては、羨ましくなって……」

 「どうしたんだ? 急にそんなに改まった話し方をして……それに凄い汗ではないか? もしかして、怪我がまだ良くなっていないのではないか?」

 アウラの父親だけでなく、母親とアルベルトも心配そうに俺を見つめる。

 遠回しに否定したが、アウラの家族だけあって理解してもらえなかった。

 ここは意を決して、正直に話すべきだろうと息を呑んだ。

 「……いえ、怪我はほとんど良くなってます……ただ、俺はまだ結婚するつもりはないので、誤解をさせる発言をしたのなら、謝らなくてはならないと……」

 アウラの父親は俺の話を遮るように、笑みを浮かべながら力強く答える。

 「遠慮することはないぞ! カザマは私たちと同じ種類の魔法が使える。それから、私は結界の力で直接見れなかったが、水を司るドラゴンと契約する程の人間なのだろう。コテツ様だけでもあり得ないというのに……。それに、カザマはそれ程長く生きられないだろう。それとも、うちのアウラでは不満だとでも言うのかな……」

 アウラの父親は熱く語ってくれたが、最後のアウラでは不満の辺りで背中から悪寒が走った。

 (やっぱり親子だな。熱くなると、周りが見えなくなるのは血筋なのだろう。確かに、アウラは俺には勿体無い程の美少女だが……)

 俺は口には出せない思いに頭を抱える。

 「はーっ……あの、少しだけ席を外して、アウラと二人で話しても良いですか?」

 深呼吸した後、周囲の同意を得ると部屋の外にアウラを連れ出した。

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